勇者の家族に形見を
前回の更新で月曜日に次話を挙げるかも、みたいなことを言いましたが、
疲れてしまって火曜日になってしまいました。
「今日は勇者ホーヤの家族に形見を渡しに行くよ」
ローリアとアーレに俺の今日の行動の説明をした。
俺はホーヤの息子のエドワードに形見を渡すことを約束した。まずは最優先で約束を果たそう。
「分かりました」
「はい」
2人とも異論はないようだ。
「今日は、2人とも休んでいるといい。明日は2人の行きたいとこにいこう」
俺の用事ばかりに付き合わせては申し訳ない。
「いいんですか?」
ローリアが尋ねてくる。
「うん。最近訓練ばかりしてたしね。休息や息抜きも必要だよ」
ずっと働いていたら疲れてしまう。ガス抜きも必要だ。
「だから2人とも相談して行きたいところ決めておいてね」
そういって、エドワードに形見を渡しに向かった。
俺は明日の予定を2人に任せることにした。俺が介入したら、ローリアは俺の意見に賛同してしまう。行きたいところを選べなくなるかもしれないから、俺は居ないほうがいいだろう。
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俺たちは勇者の家、つまり法弥の家に来た。法弥の家は貴族区にあって、大きな洋館のような豪華な屋敷だった。流石は多くの武勲を立てた勇者といったところか。
「どちらさまですか?」
メイド服を着た女性に声をかけられた。使用人の方だろうか?
「勇者ホーヤ様の古い知人でユイトと申します。ご子息のエドワード様に御用があって参りました」
俺は出来るだけ丁寧に要件を述べた。俺は敬語にあまり慣れていないが、スキル【異世界言語】で敬っているニュアンスが伝わるだろう。
「エドワード様はホーヤ様の死に大変心を痛めております。ですので、誰にもお会いできません。申し訳ありませんが、今日はお引き取りください」
メイドはそういって頭を下げた。
父親の死に衝撃を受けない子供はいないだろう。メイドは淡々と話すから、相当対応に慣れているようだ。他にも面会を求める者が多いのだろう。
「では、こちらをエドワード様にこちらをお渡しください」
俺は【疾風のネックレス】を取り出して、差し出した。
「これは……少々お待ちください」
そういって、メイドはネックレスをもって屋敷に走って行った。表情には出なかったが、かなり慌てて走っている。法弥のネックレスだということが分かったのだろう。
しばらく待つと、メイドが帰って来て一礼した。
「エドワード様とメイリーン様がお会いになるそうです。ご案内します」
どうやら、面会を許されたようだ。メイリーンとは法弥の妻の名前だ。
メイドについていき、屋敷に入った。内装も外見と同じく豪華で、勇者の偉大さを感じる。
応接間に通されて椅子に座って少し待つと、法弥に似た少年と金髪の大人しそうな女性が入ってきた。この2人がエドワードとメイリーンだろう。
「はじめまして、ホーヤ様の古い知り合いのユイトと申します」
まず、俺は椅子から立ち上がって自己紹介をする。こちらの世界の礼儀作法は知らないが、出来るだけ礼節を尽くそう。
「ホーヤの妻のメイリーン・ヤマトです。こちらは息子のエドワード・ヤマトです。」
メイリーンさんが紹介してくれた。とても落ち着きのある人だな。
再び椅子に座って対面する。エドワードの表情が優れない。かなり落ち込んでいる様子だ。
「いきなりで申し訳ないのですが、何故あなたがホーヤのネックレスを?」
前置きをしてからアイリーンさんが質問してきた。少し慌てた様子だ。警戒もされている。
法弥が死んでからすでに半月ぐらい経っている。今更、しかも知らない人が夫の形見を持ってきたら警戒もするだろう。
「私には【霊視】というスキルがあります。そのスキルによって、シューウの森でホーヤ様の霊と会話しました。そして、そのネックレスを託されました」
俺は簡潔に話した。ネックレスはエドワードが持っている。
俺が勇者と同郷であることや剣を教わったことは話す気はない。あまり力を吹聴するのは厄介ごとの始まりだ。迂闊には話さない。
「その荒唐無稽な話を信じろと?」
エドワードが俺に疑いの目を向けてくる。
普通は幽霊なんて見えない。俺が特殊なだけで、幽霊と話したと言っても笑われるだけだ。
「そのネックレスでは証拠になりませんか?そのネックレスはメイリーン様がホーヤ様にお守りとして渡したそうですね。ホーヤ様が引退するときにエドワード様に譲ることになっていたとか。」
俺はネックレスを指さす。俺がネックレスを持っていることが何よりの証拠だろう。
「まさか……本当に?」
メイリーンさんが口を覆った。その様子から驚愕していることわかる。
「お父様……」
エドワードはネックレスを握りしめて泣き出した。
「ごめん、これがホーヤ様からの伝言です。家族を残して逝くことに大変心を痛めている様子でした」
法弥からの伝言をいう。言葉足らずだと思ってその時の様子も付け加えた。
確かに伝えたぞ。法弥。
「あなた……」
そういってメイリーンさんも泣き出した。あなたというのは夫の法弥を意味している。
「要件は以上です。帰ります」
俺は簡潔にいった。少し言い方がきついが、家族の死を悲しんでいるときに俺がいては邪魔だろう。
「すみません。取り乱してしまって。何かお礼を」
「いいえ、いりません。当然のことをしただけですから」
俺はそれだけ言い残してメイドに案内されて帰った。
俺にとって法弥は友達だ。友達の遺品を届けてお礼を求めるのは気が引ける。
しかも、あの家族の収入源の大黒柱が死んだのだ。これからが大変だろう。俺にお礼をするぐらいなら、生活資金にあててほしい。
宿屋に戻って部屋に入るとローリアとアーレが地図を広げて議論していた。地図にはいくつか印がついている。明日の計画を立てているのだろう。
この2人は真面目で、どこか似ているな。
「ただいま」
俺は軽く声をかける。
「おかえりなさい。ご主人様」
「おかえりなさいませ」
ローリアとアーレも挨拶を返してくれる。
「明日の計画は決まった?」
明日は2人に付き合うつもりが、俺も一緒に行くから気になる。
「はい、計画は立てました」
「完璧です」
アーレが簡潔に答えて、ローリアは少し自信ありそうだ。
俺は内容を知りたかったんだけど、明日の楽しみにしよう。
その後、いつも通り夕食を食べて、魔法の練習をして、魔法で綺麗にして就寝した。
2人がデートのつもりでいることをユイトは知らない。
次回はデート回になりそうですね。




