装備を整えよう
もう気になることがないなら、装備を整えようか。ここにあるものは全部持って行って構わないよ」
クルスはそういうと微笑んだ。俺にはまだ細かな疑問があったが装備を整えながら聞くことにした。
「そうですね。案内してもらっていいですか?」
「ああ。もとよりそのつもりだよ」
クルスは振り返ると1軒の家に向かっていった。
幽霊になったことを自覚しているためか足を動かしていない。俺は梯子を使って木の上にある家に向かった。
クルスを追って家に着く。この森の民の家々の中で1番大きな家だ。
「ここは村長の家で僕の家でもある」
「え?じゃあ、クルスさんは?」
「そう。村長の息子にあたるね。村長の家だけあっていろいろあるから物色してみるといい。役立つものがあると思うよ」
クルスはクスクスと笑っていう。
村長の家は2階建てで、1階にリビングとキッチンと村長夫婦の部屋があって、2階には部屋が2つあり1つはクルスの部屋でもう1つはクルスの姉の部屋だ。
「すまないけど姉さんの部屋は荒らさないでくれるかい?姉さんは今いないんだけど時々帰ってくるんだ。荒らしたらなんだか僕が怒られそうだ」
というとクルスは少し寂しそうな顔をした。クルスはすでに死んでしまっている。姉にはもう会えないことを痛感しているのかもしれない。
村長の家にはいろいろなものがあった。魔法や魔物に関する知識の本やさまざまな武器があった。中でも興味を持ったのはさまざまな魔法道具だった。
「クルスさん。これらの魔法道具は一般的に普及されているんですか?」
クルスにコンロのようなものを向けながら聞いた。
「ああ。それは魔力を通して熱に変える魔法道具だね。少し高価だけど一般的だよ」
「仕組みはわかりますか?」
「えーと、確か中に魔法陣や魔法経路が刻まれていて、魔力を通すことによって魔法陣に魔力が供給されて起動するんだったかな」
「魔法陣とは?」
「魔法陣は描いておけば魔力を通せば起動する仕組みだよ。魔法が使えない人でも魔力があれば使えるから便利だよ。魔法陣を使った武器もある」
魔法をできる人が少ないから魔力を通すだけの魔法陣が普及したのだろう。さらに身近に魔力という燃料があるから石炭や石油から電気を生み出すことはないんだろうな。
俺のファンタジーの知識と比べると生活水準は高いように思える。
「そうですか。これももらっていいですか」
「魔法道具も本も武器も全部持っていくといい。奥に道具袋があるからそれを使えば全部持てるさ。できるなら空間魔法を使って亜空間にしまってもいいよ」
道具袋は見た目以上の容量を持った袋だ。大きさはピンキリらしい。
「そうですか」
俺は大きな空間をイメージして指をタクトのように振った。するとコンロの魔法道具は目の前から姿を消した。そして、もう一度指を振ってコンロを取り出す。ラノベでよくあるアイテムボックスというやつだな。
その様子をクルスは茫然と見ていた。
「いったのは確かに僕だけど、まさか本当に空間魔法を使うとはね」
「珍しいんですか?」
「うん。無魔法でも難しい魔法だろうね。亜空間は時間が経過しないから便利だよ」
空間魔法は珍しいのか。人前では道具袋を使ってごまかそう。厄介ごとに巻き込まれる未来しか見えない。
コンロに引き続いて他の調理器具や掃除用具や家具や食材をしまいながら質問する。
「魔法の属性は何があるんですか?」
「さっき言った無属性と火、水、雷、風、土、光、聖、闇があるね」
他の属性の魔法を聞きながら後で使うのが楽しみになった。
さらに家の中を物色する。
「これはお金ですか?」
俺は硬貨をクルスに向けながら言った。
「そうだよ。それは銀貨だね。お金は銭貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、大白金貨と価値が上がっていくよ。10枚で次の価値の硬貨になるね」
「お金もいただきますね」
「うん。当面の生活資金にするといい」
流石に村長の家だからか結構な量のお金を貯めこんでいたので、それらを全ていただいた。悪いことをしている気分だが、幽霊の息子直々に許可をもらっているから大丈夫だろう。
村長の家で服装を変えた。クルスの洋服をもらった。
歩きやすい靴に魔法使い風のローブを選んだ。腰には片手剣をさした。村長の家にあった鏡で見てみると黒緑で長めな髪によく似合っていた。こうしてみるとクルスの幽霊と同じ容姿だ。175センチくらいで中性的な顔立ちをしている。
こうして村長の家のほとんどをもらった。そしてその他の家も物色し、ほとんど空っぽになるまでもらった。
家具、食材、本、武器、魔法道具、食器などほとんどを空間魔法でしまった。必要最低限を道具袋にしまって空間魔法の誤魔化しがきくようにした。
俺とクルスは広場に戻ってきた。騎士たちと戦闘した場所だ。いまだに死体が倒れている。クルスが声をかけてくる
「さて、最後にここのみんなを聖魔法で浄化してもらっていいかな?騎士たちは火魔法で火葬すればいいけど」
騎士たちの扱いに、クルスの騎士に対する並々ならぬ恨みを感じる。自分たちを殺害したんだから当然なのかもしれない。
「わかりました」
騎士たちを魔法で持ち上げて一か所に集めた。直接運ぶにはあまりにも凄惨で手を触れる気にはならなかった。そこに火魔法を打ち込む。イメージは有名ゲームの火のエフェクトだ。
騎士たちに向かった炎は思ったより激しく燃えた。魔力量が多過ぎたのかもしれない。
「うん。いい威力だね。魔物にも十分通じるだろう」
軽く魔法を放っただけでお墨付きか。威力には気を付けよう。
次に森の民だ。森の民は集まってから倒れてくれたので集める必要はなかった。
聖魔法を放つためのイメージを固める。俺にとって浄化のイメージは癒しのイメージだ。せめて魂が癒されるように願いながら合掌して魔法を発動する。
森の民たちの周りに光が溢れ幻想的な光景が広がる。アンデットだった森の民たちの身体は少しずつ光に変わって空に昇っていく。不謹慎に思われるかもしれないが綺麗な光景だった。
森の民がすべて消えてしまった後にクルスが話しかけてくる。
「ありがとう。綺麗な魔法だね」
悲しそうなそれでいて、どこか安堵したような表情だった。思いに耽るような間隔をあけてクルスが話しかけてきた。
「じゃあ僕も浄化してもらっていいかな?」