勇者との会話
「では、改めまして、ユイトと申します。漢字で結ぶに紐とかの糸と書きます」
俺は自己紹介を始めた。
「おー!地球人?日本人?同郷?すげー!初めましてだわ」
ホーヤさんのテンションが高い。初めての同郷の出会いならこのテンションも頷ける。
「私は日本人です。ホーヤさんもですか?」
もう決まったようなものだが、念のためだ。
「そう!まさか死んでから会えるとはな~」
「お悔み申し上げます」
俺も会えるなら生きたホーヤに会いたかった。
「俺も自己紹介したほうがいいな。ホウヤだ。法律の法に弥生時代の弥だ」
この世界にはない時代が出てきた。本当に日本人のようだ。
「結糸。他人行儀な口ぶりはやめよーぜ。同じ日本人なんだからタメ語でさ」
そういえば、この世界に来て仲間以外には敬語だったな。
「そうだな。せっかくだし、ため口でのほうがいいか」
「おう!」
俺も日本人と喋るのは久しぶりだ。いろいろ日本の思い出を話したい。
「結糸は新しい勇者か?」
「いや、俺は森の民に召喚されたんだ」
俺は俺が召喚された経緯を話すことにした。
召喚されて死体に憑依したこと。けど、機能はしっかりしていること。
召喚されていきなり人殺ししたこと。
やたらとステータスが高いこと。
曲芸士をしていること。
グリードさんに剣で負けかけたこと。
全部話した。死んでしまっている法弥に話しても構わないだろう。
「お前……チートだろ」
それが法弥の俺の話を聞いた感想だった。確かに、俺のステータスはこの世界の人と比べて高いけどさ。
「勇者もそんなもんだろ?」
前世のラノベでは勇者こそがチート代表だ。その勇者に言われたくない。
「いや、俺そんなにステータス高くねぇよ。レベルは高いけど、ステータスは同じレベルの奴より少し高いぐらいだわ」
法弥は不服そうに口を尖らせた。
「見てみてもいいか?」
そんな法弥に俺は確認を取る。【アナライズ】で見れば、この世界の最高峰のステータスが見られるだろう。
「あーまあやってみろよ」
何故か歯切れの悪い言い方をするが、お言葉に甘えて【アナライズ】を発動する。
名前:大和 法弥
種族:幽霊
概要:かつてこの世界に召喚された勇者の幽霊。王都ユーラングを拠点に数々の武勲をあげた。容姿や性格が良いことから交友が広く、貴族、冒険者、商人など多くの人から信頼されている。1児の父である。
「ステータスがない?」
気になることはいくつかあるが、まず法弥にはステータスがなかった。
「あーやっぱりか。人間以外ステータスないみたいなんだよなぁこの世界」
法弥が妙に納得した顔をして答えた。
「俺も色々魔法で調べたりしたんだが、動物や魔物にはステータスがないみたいなんだよな。別の原理なんかな」
法弥によると、この世界には人間以外にはステータスがないそうだ。法弥にも【アナライズ】みたいなことが出来て、この世界に来た時にひたすら調べたらしい。
「へー初めて知った」
「結糸は楽観的だな」
素直に驚き感心したら非難された。普通はもっと世界について調べるものなのかな
「で、何で死んだんだ?」
俺は何故法弥が死んだのか知らない。知っておくべきだあろう。
「悪魔だ」
法弥の答えは簡素なものだった。
悪魔ということはさっき遭遇したあの化け物か。
「その悪魔って、肌が赤くて角と翼が折れたやつか?」
あのおぞましい化け物にやられたのか
「ああ、そいつは俺が相手にしたやつの1体だな」
「えっ?1体?」
1体ということは……
「ああ、なんか数は分からないけどめちゃめちゃ襲われた」
思ってはいたけど、勇者のくせに軽いな、法弥って。
話を聞くと、複数の悪魔に襲われて死闘を繰り広げたらしい。仲間の女性は逃がしたらしいが、襲ってくる悪魔に深手を負わせて法弥は死んだらしい。
「なんだ。やっぱり勇者ってチートじゃん!」
「お前に言われたくねぇ」
俺の反応に法弥は不服の意を表した。アーレとローリアが心底怯えていたあの悪魔が複数いても、深手を負わせられるのは十分チートだと思う。
「まあ、本当に俺は死んじまったんだなぁ……」
法弥はしみじみと自分の身体を見て言った。
「俺はお前を成仏させにきたんだ」
俺は法弥に会いに来た目的を話す。
「成仏?」
「そのまま幽霊で彷徨っていたらレイスになるらしい」
「まじか、魔物はやだな……」
法弥はレイスという単語に露骨に顔をゆがめた。魔物になるのは俺だって嫌だ。
「どれぐらい猶予があるんだ?」
真面目な顔で法弥が尋ねてくる。真面目な顔はイケメンだな。そうしていればいいのに。
「2カ月くらいかな?エクスさんがそうだったし」
エクスさんの顔を思い出しながら答えた。エクスさんはそういっていた気がする。
「じゃあ、俺が結糸に剣を教えてやるよ!グリードに負そうになる程度なら教わっとけ」
何を思ったのか、俺に剣技を教えてくれるようだ。グリードさんに剣技では負けそうになったから丁度いい。
「ありがたいけど、どうやってだ?」
幽霊には触れることが出来ない。かといって、言われるだけで習得できるとも思えない。
「その下げてる剣は霊剣だろ?それなら、俺の剣に触れられるだろうさ」
そういって法弥は剣を構えた。とても様になっている。そのまま俺にその剣を構えて振りかざしてきた。
そういえば、【霊剣・ヤタガラス】の説明にそんなことが……
「うお!?」
俺は反射的にその剣を【霊剣・ヤタガラス】で受け止める。鍔迫り合いの状態だが、押されている感じがしない。しかし、こちらからも押せない。相手が幽霊だからか。
「おー受け止めた。いい反応だわ。流石チーター」
なんか不本意な誉め言葉をもらった。
「これから教えるのはスキル【勇者剣技】だ。俺がこの世界に召喚されたときに覚えていたスキルだ」
法弥が得意げに説明を始めた。この得意げな表情こそどや顔というのかもしれない。
スキルは他人に伝授出来る。スキルによって、習得できる人や出来ない人に別れるそうだ。これは、クルスさんも少し言っていたな。
「これから毎日来て特訓だ!」
法弥が意気揚々と声を上げた。
こうして、俺は法弥にスキル【勇者剣技】を教わることになった。




