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異世界魔法で曲芸士!  作者: 常世 輝
王都ユーラング
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勇者探しの途中で

「おはようございます」

「おはよう。ローリア」


 いつものように挨拶して俺たちは目覚める。起き上がってベッドを整えているとノックの音がした。


「おはようございます。ユイトさん」

 扉を開けると、アーレが立っていた。要件はなんとなくわかる。


「魔法だね。入って」

 そういって部屋にアーレを招き入れる。


「おはようございます。アーレさん」

「おはようございます。ローリアさん」

 アーレとローリアが挨拶をかわす。

 特に珍しい光景ではないが、声の抑揚がいつもと違う気がした。昨日アーレの部屋で何かあったのだろうか?


「【クリーン】、【コンディショナー】、【フレグランス】」

 いつものように、3人まとめて魔法をかける。淡い光が身体を包んでさわやかな気分になる。今日の香りは爽やかな薄荷の香りだ。


「「ありがとうございます」」

 2人が声を揃えてお礼をする。仲が良さそうで何よりだ。


「今日はシューウの森に行ってみるけど、アーレはどうする?」

 勇者の霊がいるとしたら、勇者が死んだ場所が怪しい。シューウの森を探してみるつもりだ。

 ローリアは俺の奴隷だからついてくるだろう。


「ユイトさん。私に確認はいりません。私は仲間のつもりでいます。なので、別に用事がある場合は例外ですが、私はあなたと共に行動します」

 アーレは整然とした口調で答えた。


「あ、すまない」

 アーレが俺たちのことをそれほど仲間だと思っているとは気が付かなかった。仲間はずれにされて傷ついただろうか。


「いいえ。謝ることはありません。また朝食の後に」

 アーレの表情は見えないが、気にしている様子はない。だが、少し申し訳ない気持ちになる。


 俺たちは朝食を食べてから合流して、シューウの森に向かった。


 シューウの森は王都ユーラングの北西にある。キリのもりと同様に魔物が住み着いており、王都を襲うこともあるそうだ。


 王都には勇者がいるため、定期的に魔物を討伐することで王都を守ってきた。他にもグリードさんを筆頭に、強い冒険者たちが王都を守ってきたようだ。


 だからこそ、冒険者ギルドは殺気立っていたのだ。王都を守ってきた勇者が死んだときに現れた俺に警戒して当然だろう。



「【マップ】」

 シューウの森に着いたので【マップ】を発動させて周辺の状態をみる。脳裏に浮かぶ地図の森は広く、沢山の魔物がいるようだ。


 どうするか。


 森は広いだけで、勇者が死んだところは予想がつかない。死んだことが分かっているから、恐らく奥ではないだろう。じゃないと、死んだのではなく行方不明扱いになりそうだ。


 もっと情報を集めてから来るべきだったかな。


「アーレとローリアはどこを探せばいいと思う?」

 せっかく仲間がいるのだから、知恵を貸してもらおう。


「いるか分からない霊を探すのは難しいですね」

 アーレは特に思い浮かばないようだ。

 ちなみに、アーレには俺のスキル【霊視】について話してある。


「ご主人様の魔法でどうにかなりませんか?」

 ローリアは俺の魔法に活路を見出しているようだ。


「勇者の霊を魔法で見つけるのは……出来るか」

 故人を見つけるのは難しいと思っていたが、【マップ】と【アナライズ】で探すならば人を見つけるのと変わらなそうだ。


「【アナライズ】」

 脳裏の地図に【アナライズ】をかける。地図には1つ印が浮かぶ。どうやら勇者の霊は少しずつ動いているようだ。


「見つけた。ありがとう。ローリア」

 ローリアの頭を撫でてお礼を言う。

 ローリアは目を細めて少しうれしそうだ。ローリアの表情の変化は小さいが、少し分かるようになったな。


「ユイトさんはなんでもできますね」

 アーレは少し呆れているようだ。


「じゃあ、いこうか」

 アーレのジト目を躱して俺たちは獣道を歩き出した。


 --------------------


 少し歩くと、【マップ】に何か反応があった。俺たちの方向に近づいてくる。


「ローリア、アーレ、何か近づいてくる。魔物かもしれない」

 俺は2人に警戒を呼び掛けて、腰の剣を引き抜いて構える。


 アーレは杖を構えて、ローリアは俺の後ろに隠れた。ローリアには戦闘能力がないから隠れるように言ってある。


 構えて待っていると、魔物のような生物が茂みから姿を現した。


 3メートルはある体はずんぐりとした外見で、隆々たる筋肉で太い手足だ。肌は赤く、顔は悪寒を覚えるほど恐ろしい。頭には2本の角があり、背中には翼がある。


 その化け物は身体を負傷しているようで、腹部からは赤黒い血を流し、角は1本折れて、背中の翼は両翼とも折れている。


「グゥルルルルルァアアアアにんげんんんんん」

 その化け物は俺たちを見つけると唸りを上げて喋った。


 魔物は喋らない。人の言葉を理解することはありえないし、言葉を話すことなどもってのほかだ。


「【アナライズ】!」

 俺は化け物を調べる。こいつの存在はおかしい。


 名前:****

 種族:悪魔

 概要:なし


【アナライズ】でよく分からない。こんなことは初めてだ。


 ただ、こいつは魔物ではない。悪魔だ。確かに見た目は俺の前世の架空の悪魔を思わせる。しかも、喋ったのだ。魔物よりも知性がある生き物だろう。


 そして何よりもこの悪魔は危険な気がする。グリードさんよりも激しい威圧感があり、並々ならぬ恨みを感じる。背後でローリアとアーレが怯えている。


 悪魔が行動をとった。空気を吸い込み、こちらに炎を吐き出したのだ。


「【バリアー】!」

 俺は3人をまとめて包み込むように無魔法で障壁をはる。


 炎は障壁を押してこちらを圧倒しようとしてくる。目の前は真っ赤に染まり、悪魔が見えない。


 俺は魔力を練る。炎を吐き出す化け物を圧倒するものをイメージする。体勢を低くして、掌で地面をついて叫ぶ。

「【アクア・ウェーブ】!」

 地面から大量の水が溢れだし、波打って炎に覆いかぶさった。そのまま炎を飲み込んで水は悪魔に迫る。


「があああああああああああああああ」

 悪魔が咆哮を上げて水を吹き飛ばした。


 咆哮がこちらにもびりびりとした衝撃を与えてくる。


 悪魔がこちらを睨む。


 俺はそれを見て構える。


 そして悪魔は消えた。


 俺は呆気に取られた。その場から跡形もなく消えて、【マップ】にも反応がない。

「……逃げられた」

 はたまた見逃してもらえたのかは分からないが、完全にいなくなっていた。俺の【ワープ】みたいなものだろうか。


「なんだったんだ」

 俺は誰に言うでもなく呟いた。背後でローリアとアーレはぺたんと座り込んでしまった。




勇者の霊を探していると、'悪魔'に遭遇しました。なかなか凶悪な様子です。

設定上,悪魔と魔物は違うものということにしています。


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