勇者と宿屋の情報を
「……んあ…どこだ。ここ」
「大丈夫ですか?グリードさん。記憶ははっきりしてますか?」
俺と戦った巨漢のスキンヘッドの男、グリードさんが目を覚ましたので声を掛ける。俺の後ろにはローリアが隠れていて、アーレは壁を背にして控えている。
冒険者の助けを求めた後、この人の名前がグリードであることを教えてもらった。俺が一声掛けただけなのに、冒険者たち全員がグリードさんを助けに来た。それだけこの人が信頼されているのだろう。
「そうか…負けたのか……」
そういってグリードさんは天井を見上げた。その表情に険しさはなく、闘志も感じられない。
「そうですね。Eランク冒険者に負けたんですよ」
そういって俺はギルドカードをグリードに見せた。
言い方が少し意地悪だが、カードを見せて信頼してもらわないといけない。
「本当にEランクだったんだな」
「はい。少しは信頼してくれましたか?」
「ああ、意味わかんねえけどな」
この人はランクSSらしい。冒険者が言っていた。そのSSランクがEランクに負けたというのだから意味が分からないだろう。
「今更ですけど、喋って大丈夫ですか?身体に違和感はありませんか?」
数時間前まで燃えていた人が無事だとは思えない。たとえ俺が回復魔法をかけたとしても、無事である保証はない。精神に負担があるかもしれない。
「ああ、大丈夫みたいだな」
グリードは手を握りながら確かめていった。
本当に大丈夫のようだ。なら、会話しても大丈夫だろう。
「じゃあ、勝ったので勇者の情報とおすすめの宿屋を教えてください」
俺がここにいるのはこれを聞き出すためだ。
わざわざ冒険者たちに、負けた本人から情報を貰うと主張して様態を窺っていたのは内緒だ。
「そうだったな。勇者についてどれほど知っている?」
グリードはそういって俺の表情を窺ってくる。まだ、探りを入れられているのだろう。
「この国で召喚された。この街を拠点にしていた。勇者が死んだ。それぐらいですかね」
勇者の伝説や勇者の召喚の由来などは知っているが、勇者個人の情報はない。
「はあ。本当に何も知らないようだな。ホーヤは馬鹿でお人好しで女好きな俺の親友だった。」
そう語るグリードの顔は安らかだった。罵倒しているようだが、その声には大切な思い出を語るような優しさだった。
勇者の名前はホーヤというらしい。
「困ってる奴を見かければ助けに行くし、盗賊に情けを掛けるようなやつだった。」
勇者は召喚された異世界の人だ。その異世界は俺の前世と同じで平和なところだったのかもしれない。
「でもな、あいつはシューウの森であっさり死んじまいやがった。仲間を守っていたら魔力切れを起こしたらしくてな。あいつらしい馬鹿な死に方だぜ」
天井を見上げながら語る姿は、罵倒しなければ思い出すのが辛いかのようだ。
「あいつについてはそんなもんだ」
分かったのは勇者の名前がホーヤであることと、相当のお人好しだったことと、シューウの森で死んだことか。
「勇者のお気に入りの場所とかわかりますか?」
幽霊になっているなら死んだ場所か、生前よく足を運んだ場所が怪しいだろう。
「んーあいつは城に出入りが出来たからそこかもな」
城にお気に入りの場所なんて作るのかな?城は堅苦しいイメージがあるけどそうでもないのかもしれない。
「では、本題に入りましょう」
そういって俺はタメを作った。
「な、何だ」
グリードさんは勇者の話が本題と思っていたようで、顔をひきつらせた。
「おすすめの宿屋を教えてください」
俺は当然のように言った。タメを作ったのは少しからかうためだ。
「はっはっは!そうだったな!」
グリードさんは豪快に笑った。笑ってくれてよかった。グリードさんがジョークが苦手なら,また殴られそうになったかもしれない。
こうして俺たちはグリードさんに勇者の情報とおすすめの宿屋を教えてもらった。
宿屋についてはグレードによって分けて教えてくれて、グリードさんの名前を出す許可も貰った。
俺たちは中の上くらいの宿屋にした。安全そうな立地と防犯が整っていることが決め手だ。
宿屋に着くと、さっそく2部屋借りた。グリードさんの名前を出すと、部屋代金が割引になった。
俺とローリアが部屋に入るとアーレも付いてきた。
「アーレ?」
アーレはエルフなので1人部屋のほうが良いと思って分けた。しかし、アーレは付いてきたのだ。
「ユイトさん。【クリーン】と【コンディショナー】をかけて下さいませんか?」
王都までの道中は、寝るときと寝起きに魔法をかけていた。彼女はすっかり綺麗好きになってしまったようだ。
「そうだね。ローリアも一緒にかけよう。おいで」
俺はローリアを手招きする。ローリアは俺にテトテトと近寄ってきた。
アーレも俺に近づく。
「【クリーン】、【コンディショナー】」
俺たちを淡い光が優しく包む。相変わらず気持ちの良い魔法だ。
「ありがとうございます。ユイトさん」
そういってアーレは振り返った。
「アーレさん。後で部屋を訪ねてもいいですか?」
ローリアがアーレに声を掛けた。
ローリアとアーレが会話することは珍しいことではない。互いに慣れようとしているのか、少しずつ話している。しかし、ローリアがアーレに部屋を訪ねたことはないと思う。珍しいことだ。
「はい。ローリアさん。夕食の後にでも」
アーレは承諾した。顔は隠れていて表情が読み取れない。
「はい。ご主人様。行ってもよろしいでしょうか?」
アーレに返事をして、俺に許可を求めてくる。わざわざ許可を求めるのは奴隷としての心がけだろう。
「いいよ」
きっと女子会か何かだろう。2人が明るく元気に話す姿は想像できないが、これを機に仲良くなってくれると嬉しい。
ローリアは夕食の後にアーレの部屋を訪ねに行った。ちなみに、アーレは食事中に顔を見せないために部屋に食事を持ち込んでいる。
戻ってきたローリアに何をしたのか聞くと、今後の事の相談と言われた。俺もこの前使った誤魔化しなので深くは詮索しなかった。
そして、いつもと同じようにローリアと一緒に魔法の練習をしてから就寝した。
ローリアとアーレの会話内容はまた別の機会に書くかもしれません。
書くとしたら次回の更新で




