ギルドでの決闘
「おい、坊主。このギルドに何の用だ?」
屈強な男性は腕を組んで俺を見据えている。低音の声が俺の心を恐怖で揺さぶる。
その男性の見た目はいかにも強そうで、腕は俺の腕を3倍にしたかのような太さで、剛腕という言葉が似合う腕だ。身体や足もそれに伴うように太い。
スキンヘッドの頭で顔は厳しく、いかにも強い冒険者を思わせる。世界のギルドマスターと言われても疑いの余地はないだろう。
「え、ギルドカードの更新に来ました」
少し怯えてしまったが、俺に悪いことはないので素直に答えることにした。こういう時は下手に逆らうと面倒になるものだ。
「それだけか?勇者についても聞いていただろう?」
俺を見る目線が険しい。2メートルはあろうかという巨漢が圧迫感を俺に与えてくる。
「勇者が死んだと聞いたので」
とにかく正直に話す。出来るだけ早くこの状態から抜け出したい。
「お前のような坊主が何故勇者を気にする?」
威圧感がびりびりと来る。俺と手を繋いでいるローリアが震えている。この野郎、ローリアを震わせるとは許せない。
「威圧をやめていただけませんか?仲間が震えていますので」
「質問に答えろ」
俺の物言いに間髪を入れずに返してきた。俺の要求に耳を貸す気はないようだ。
勇者の霊が彷徨っているかもしれませんので、とは言えない。明らかにからかっていると思われるだろう。
かといって、興味本位では不自然だ。勇者の死は世界を震撼させる事件だ。それをその勇者の拠点だった街のギルドで確認を取るのは興味本位ですることではない。勇者はこの国の最大の戦力だったので、他国のスパイだと思われても不思議ではない。
失敗したな。いきなりギルドで出す話題ではなかった。
「おい、どうした?何かたくらみでもあるのか?」
俺が答えに窮していると男に勘繰られた。
「たくらみなんてありません。私はEランク冒険者です。私では何もできません」
話が少しそれたので話に乗って、自分では何もできないことを主張した。
「カードを見せてもらっても?」
「はい」
Eランクであることを証明する機会だと思い、俺はギルドカードを差し出した。
男はそのカードを受け取るそぶりをして、俺に殴りかかってきた。
俺はカードを右手で差し出していたため、左手で拳を掴んで受け止めた。
あっ、これ絶対受け止めちゃいけないやつだった。
「俺の攻撃を受け止める奴がEランクか。馬鹿げているな」
やはり罠だったようだ。距離的にも寸止めだっただろう。しかし、それを受け止めてしまった。
「野郎ども!自分をEランクと偽る不届きものだ!捕らえろ!」
まずい!せめてカード見てから言ってくれ。
男の声に周りの冒険者たちが立ち上がる。ギラギラとした目つきで、まるで獣を前にした狩人のようだ。
「待ってください! 」
俺は手を前に出し、静止するように頼んだ。しかし、冒険者たちはじりじりと距離を詰めてくる。
「決闘で決めましょう!1対1で!」
俺の慌てていった提案に冒険者たちの動きが止まった。
「ほお?随分な自信じゃないか」
スキンヘッドの屈強な男が顎を撫でながら俺に厳しい視線を向けてくる。
いや、ここの全員でかかってこられるより、1対1のほうが楽だろう。随分な自信というのは間違っているよね。
「戦うんですか?」
出来ればあまり目立ちたくはない。せめて勇者に関することが分かってからにしたい。
「なんだ、決闘を申し込んでおいて怖気づいたか?」
鋭い目つきで、ギラギラした笑みを浮かべてくる。逃げられそうにない。
「おい、ギルドの訓練場を借りるぞ。ついてこい」
男はギルドの職員に言い放ち、俺についてくるように命令した。
どうやら腹をくくって決闘しなければならないようだ。
訓練場に移動する。俺の後ろには冒険者がぞろぞろついて来て逃げ場がない。
訓練場は広く、闘技場のような印象を受ける。観戦席はないものの大きさはかなりのものだろう。
「決闘は俺とお前の1対1だ。武器は何を使ってもいい。お前が負けたらこの国から出て行ってもらおう」
男はそういうと背負っていた大剣を構えた。構えには隙が無い。
「では、俺が勝ったら勇者の情報とおすすめの宿屋を教えてください」
俺も腰の【霊剣・ヤタガラス】を引き抜いた。
「おい、誰か開始の合図を頼む!」
「おう!」
男が声を張り上げる。1人の冒険者が声を張ってそれに答えた。
「いくぜ!はじめ!」
決闘の始まりの合図が闘技場に響いた。
男が俺に肉薄してくる。
素早い!今まで戦った誰よりも早い。
俺に向かって大剣が振られる。
大剣はその重さを感じさせないほど早く、空気を引き裂いて俺に迫る。
俺は後ろに跳んで回避する。だが、男は一瞬で距離を詰め、返す刀で俺に攻撃してくる。
ヤタガラスに魔力を流し、【魔力剣】を発生させて大剣を受け止める。
鍔迫り合いになってお互いにらみ合う。
ステータスでは俺のほうが高いだろうが、体重のせいで俺は押され気味だ。
大剣をはじき、再び後ろに跳ぶ。
「やるじゃねえか!」
そういってまた俺に距離を詰めてくる。どうやら速攻で決めてくるようだ。
大剣は受け止めると体重のせいで不利だ。
大剣を正面から受けずに、はじきながら後ろにさがる。
男は大剣を振っているとは思えないほど素早く、フェイントを織り交ぜて攻撃してくる。相当の手練れだ。
(このままじゃ追い詰められる!)
男の猛攻に反撃の糸口が見つからない。
攻撃しようとしても、大剣が俺の行動を見越したように振るわれて行動を潰される。
(剣技じゃ勝てない!なら!)
魔力を練る。
イメージは相手の動きを止めるもの。それは鎖。俺はイメージを固めていく。
「【ファイア・チェイン】!」
声が闘技場に響く。
男の周りに燃えた紅蓮の鎖が現れる。
危険を感じて男は後ろに跳び下がるものの、鎖が男の身体を捕らえた。
「ぐああああああああああ!!」
男の身体が炎を上げて燃える。
男の絶叫が響くが、拘束された男は身動きが取れない。その姿は火炙りの刑を思わせる。
鼻には肉の焼ける臭いがして、気持ち悪い。
「しまった!」
俺は慌てて魔法を解除する。
解放された男はその場に倒れた。
男の身体には黒く焦げた鎖の跡が残っており、皮膚は焼け爛れていて直視するのも躊躇われる。
俺は慌てて駆け寄って魔力を練る。
「【オール・ヒール】!」
回復させるだけではだめだ。火傷も治さないといけない。全て治れ!
男の身体が強く光り、火傷を治していく。黒く焦げた鎖の後は消えてなくなり、焼け爛れた皮膚は何もなかったかのように綺麗になった。
「誰か!この人を運んでください!休ませないと!」
俺は声を張り上げて冒険者に助けを求めた。
あいてが弱いわけではなく、主人公が強すぎるだけです。




