王都ユーラング
馬車を走らせていると王都ユーラングが見えてきた。街は外壁で覆われており、遠い所からでも見える城は荘厳な印象を受ける。
王都に来るまでの道中ではたいしたことは起きなかった。魔物に遭遇することは会っても、一閃するだけで終わってしまった魔物ばかりだった。
国境を超えるため税関を通ったが、ギルドカードを見せて、お金を払うだけで通れてしまった。
ちなみに。ハーニカの街があるのは人国ソルナで、王都ユーラングがあるのが王国アリアルだ。
「じゃあ、街に入る前にこれからの確認をしようか」
俺はローリアとアーレに声を掛けた。ローリアが御者しているので御者台の近くだ。
「まず、俺とローリアはギルドで勇者について情報を集める」
今回来た目的は死んだ勇者が霊になっているか確かめるためで、霊になっていたら成仏させるためだ。だから勇者についての情報を集めないといけない。
「アーレはどうする?」
俺たちは情報を集めるが、アーレは何をするのか知らない。
「私もお手伝いします。ですが、先に知り合いのエルフを訪ねます」
アーレも手伝ってくれるようだ。他のエルフは見たことないので少し気になる。
「そうか。助かる。じゃあ勇者について分かったら曲芸をしようか」
アーレにお礼を言って、ローリアに提案する。
「魔法は隠さなくていいんですか?」
「もう装備は整ったからね。でも、使うのは火魔法の初級だけね。威力があり過ぎると悪目立ちしちゃうから」
ローリアの疑問に答える。
ハーニカの街で魔法を隠していたのは、冒険者として有名になりたくなかったからと、装備を整えるためだ。有名になるなら曲芸士として有名になりたかった。そして、有名になるとパーティーに誘われてダンジョンで装備を探し辛くなると思ったからだ。
この街では勇者関連の事柄が片付いたら曲芸を披露していいだろう。
「分かりました」
ローリアは素直でいい子だ。
「アーレはどうする?」
「その時になったら考えます」
アーレは特に予定なしか。本当に俺に弱みを握られたからついてきただけなのかもしれない。
そうこうしている間に街の正門に着いた。正門には冒険者たちや商人の馬車が列を連ねていた。もちろん、馬車が浮いているのは不自然なので【フロート】を解除している。
「身分の証明できるものを提出してくださいませ」
門番の男が丁寧に対応してくる。俺とアーレはギルドカードを手渡した。
「貴族かと思ったら冒険者でしたか。ソルナ国の冒険者ですね」
門番の男は少し砕けた敬語になった。この世界でも貴族の対応には苦労するようだ。テンプレかな。
「この子は俺の奴隷です」
俺はローリアを1歩前にだして門番に見せた。
「わかりました。奴隷が問題を起こした場合にはその主人も処罰されます。お分かりですね?」
「もちろんです」
門番の確認に俺は即答する。ローリアはそんなことしないと信じている。
奴隷は命令に逆らえない。だから、奴隷が犯した罪は主人の命令の可能性があるので主人も処罰される。主人が嫌で罪を犯す奴隷もいるらしい。
「わかりました。ようこそ、王都ユーラングへ」
門番が俺たちを街に迎えてくれた。
こうして俺たちは王都ユーランドに入った。
「まずギルドに行くか」
この街で過ごすならばこの街でギルドカードの更新をしたほうがいいだろう。勇者の情報を集めるのにも適しているし、おすすめの宿屋も聞けるかもしれない。
道を歩きながら王都を観察した。
王都はハーニカの街より華やかな感じがする。ダンジョンがないため、街の1番奥に城がそびえ立っており、奥のほうから貴族が住む貴族区になっている。
冒険者ギルドは街の西にあり、魔法道具協会が東にあって睨みあうかのように聳えている。ちなみに、北が城で、南が正門だ。
ローリアと手を繋いでギルドに向かって歩く。王都までの道中は機会がなかったので、ローリアと手を繋ぐのは久しぶりだ。ハーニカの街ではよく繋いでいたから懐かしく感じる。
「ご主人様と手を繋ぐのは久しぶりですね」
そういってローリアが俺を見上げた。俺と同じことを考えていたみたいだ。
「そうだな。逸れたらいけないからね」
ローリアは背が低いから逸れそうだ。
冒険者ギルドに着いた。外見はハーニカの街のギルドと似ているが、少し華やかな気がする。中に入ると、冒険者たちがこちらを睨んでくる。これはこの街のギルドの洗礼だろうか?
俺は気にせず受付に向かう。
「いらっしゃいませ。どのような御用でしょうか?」
受付の女性は愛想よく迎えてくれた。さっきの冒険者とのギャップが受付の女性をより愛おしく見せるのかもしれない。
「ギルドカードの更新に来ました」
俺も愛想よく返した。
「かしこまりました。カードを提示してください」
俺とアーレは言われるままカードを渡した。
「更新をしますので、カードを預からせていただきます。少々お待ちください」
そういって女性は奥に下がっていった。
数分待つと女性が帰って来てカードを俺たちに渡してきた。
「確かに更新しました。他にご用件はありますか?」
「おすすめの宿屋はありますか?」
ギルドにおすすめの宿屋があればわざわざ探す手間が省ける。
「申し訳ありません。宿屋をおすすめすることはできません」
確かに、公共の機関のギルドが贔屓して宿屋を紹介したら問題ありそうだ。
「そうですか」
残念だが自分で宿屋を探さないといけないようだ。
「勇者が死んだというのは本当ですか?」
俺は声を小さくして職員に聞いた。あまり人が死んだというのを大きな声で話すものじゃない。
「はい。事実です。勇者様はお亡くなりになりました」
職員は神妙な面持ちで答えた。
勇者が死んだというのは本当らしい。それだけでも収穫だ。そもそも間違った情報である可能性もあったのだ。これが確認できたのはでかいだろう。
「そうですか。お気の毒です」
そういって俺は受付を離れた。これから宿屋を探さないといけない。
そして、振り返った瞬間に冒険者たちの視線に気づいた。その視線に籠っているのは殺気だ。明らかに敵対している人の目だ。人にこのような視線を向けられた経験が少ない俺が気付くほどだ。相当な殺気だろう。
その視線の中から1人の屈強な男性が近づいてきた。彼も強い殺気を送ってくる。
「おい。坊主。このギルドに何の用だ?」
怖い屈強な男に絡まれてしまった。
王都に到着しました。
テンプレ通りギルドで絡まれましたが、相手も殺気を放っていて尋常ではない様子ですね。




