魔法と能力
「次に魔法についてお願いします!」
一番気になっていることについて聞くことにした。
「魔法だね。ユイトの世界には魔法はあるのかい?」
俺は首を横に振る。
「ないですね。架空のものでした」
「そうかい。じゃあ実際に使ってみるのがいいかもね。あの木に水をぶつけてみなよ」
いきなりぶつけてみろと言われても困ってしまう。とりあえず右の手のひらを上に向けて力を込めてみる。何も起きない。
「フフフ。ごめんね。いきなりはできないよね。僕ができたから僕の身体ならできるかと思ったんだ」
クスクスと笑いながらクルスが言う。
まるでいたずらが成功した子供みたいだ。俺の顔に少し陰りがさしてしまう。
「ごめんごめん。教えるね。魔法には想像力が大切だ。水を想像して操る感じかな」
「呪文は必要ないんですか?」
疑問に思ったので聞いてみた。
「一般的には必要と言われているけど、なくてもいいよ。ぼくもそれに気づいてから一年も経ってないんだけどね。僕の魔法の研究成果だよ。必要っていわれているのは呪文があると想像しやすいからじゃないかな?」
少し胸を張りながらクルスは言った。
「じゃあ、最初はイメージしやすいように呪文付きでいいですか?」
「いいよ。【ウォーター・ボール】なんて感じでどうかな。それと、魔法は身体の魔力を意識するといいよ。魔力は魔法のもとだからね」
再び右の手のひらを上にむける。意識を手のひらに集中し、空気中から水を生み出すことをイメージする。前世の記憶からの受け売りだ。
「【ウォーター・ボール】!」
手のひらから力が発せられるような感覚がする。魔力が発せられたのだろうと思った。
手のひらの上に直径30センチくらいの水の玉が浮かび上がる。きれいな水がふよふよと浮いていて、その光景を見た俺は興奮した。
「できました!魔法できましたよ!」
クルスを見るとクルスは口を小さく開けていた。その表情を見て俺は思わず怪訝な表情になってしまう。
「クルスさん?」
クルスは自分が固まっていたことに気づくと小さく頭を振って表情を戻した。
「驚いたな。まさかこの短い時間にその大きさの水を出せるなんて、流石は森の民の秘術といったところか。それともユイトの想像力がすごいのかな」
「この魔法はすごいんですか?」
「そうだね。この世界では魔法が使えないひとが結構多いからね。僕も水魔法が使えただけで尊敬されたよ。でも、僕はその大きさの水をそんなにすぐに出せないな」
どうやらすごいみたいだ。俺を召喚した森の民の秘術とやらがすごいのだろう。クルスの言う通り、元の世界の知識があってイメージしやすいのもあるかもしれない。
「きっとユイトはどの属性の魔法も使えると思うよ。自分に自分を調べる魔法を使ってみるといい。イメージでできると思うよ」
自分を調べるとはどうやってやるのだろうか?よくラノベであるステータスをみるのと同じイメージかな?と思いつつ、呪文を決めて、そのための魔力を自分に向けてみる。
「【アナライズ】!」
自分に向けて魔法が発動したこと感じる。そして脳裏に自分の情報が浮かぶ。
名前:世良 結糸
種族:人族
年齢:15
レベル:1
状態:良好
ステータス
MP:S
魔力:S
攻撃力:S
守備力:S
魔法攻撃力:S
魔法防御力:S
敏捷力:S
ラック:50%
〈スキル〉
―魔法―
全属性魔法(10)、
―戦闘―
体術(7)、剣術(6)、槍術(4)、斧術(2)、鞭術(3)、棒術(5)、杖術(3)、盾術(5)、鎌術(1)、弓術(5)、棍術(5)
―技術―
魔力応用(10)、魔法陣(6)、鍛冶(6)、装飾(7)、裁縫(6)、演奏(7)、歌唱(7)、算術(7)、錬金術(6)、料理(7)、家事(7)、薬学(6)、舞踏(6)、鑑定(7)、手加減(6)、夜目(8)、回避(7)、御者(6)、絵画(6)、演劇(6)、自己治癒(7)
―耐性―
毒耐性、魅了耐性、麻痺耐性、恐怖耐性、全属性耐性、
―その他―
異世界知識(下)、言語理解(上)、霊視、精霊視、魔力視、
〈適正〉
全魔法、全武器、魔法、演奏、片手剣、
見ることができたことに驚きつつも能力を見て考察する。
うん。比較対象がなくてよくわからない。俺の読んだラノベだとなかなか高いステータスのような気がするが、ほかの人を見てみないと大恥をかくかもしれない。
スキルもいっぱいあるようだが括弧が何を表しているかわからない。
しかも、レベルが1なのが心もとない。もしかしたら今の俺は物凄く弱いのかもしれない。
そして、言語理解のスキルのお陰で今まで話が通じたことにありがたさを感じた。
「百面相しているみたいだけど見れたのかい?」
「はい……でもよくわかんなくて」
「何がわからないんだい?」
俺はまずステータスに関して話してみた。すると、クルスは笑い出した。
「はっはっはっはっ!すごいね!あー笑った。本当にそんなにステータスが高いのかい?すごいよ。さっきの魔法なんて比べ物にならないよ。前人未踏だよ!」
いきなりテンションの上がったクルスは楽しそうに笑っていた。
「本当ですか?でも、レベルが1みたいですけど……」
笑っていたクルスはキョトンとした顔になり、呆気にとられていた。
「レベルが1?本当かい?」
俺は首を縦に振ってこたえる。
「本当にすごいね!君にはまだ伸びる可能性があるってことだ。レベルが上がっていけば現代神も名乗れるんじゃないかな?」
クルスは楽しそうだがそんな大層なものになるつもりはない。大体テンプレ通りなら大きな力を持った人は破滅の一途を辿るのだ。この力で慢心や増長してはならない。
スキルと適正についても話してみた。
「スキルは持っていると効果があるよ。スキル【剣術】なんかだと剣を持っているときに攻撃力に補正がかかったりする。本当なら鍛錬の度合いによって付くものだから、どれほどの技量を持っているかの指針になるんだけどね。あとスキルは教えることができるよ。適正はよくわからないけど、そのままじゃないかな?ユイトは全部の魔法に適性があるんだね。ユイトには才能が見えているのかもしれない」
スキルについてもテンプレだろう。これだけあるならありがたい。適正は才能か。なかなかチート性能のようだ。
「スキルに括弧があるんですけど、それは?」
「スキルのレベルだね。1から10まであって6もあればプロフェッショナルかな?教えるときも自分の持っているレベルまでだね」
なるほど。俺は完全なチート性能のようだ。剣なんて扱ったことないのにプロ級のようだ。異世界に転生してチート性能の能力と前人未踏のステータスか。完全に異世界転生系のラノベのテンプレだな。
「スキル【言語理解】で言葉がわかるんですね」
「それはきっと、儀式に組み込まれたものだね。言葉が通じないと困るから。細かいニュアンスまで翻訳してくれると思うよ。」
ニュアンスまで翻訳してくれるとは便利だ。異世界に来ても言葉で困ることはないだろう。実際にクルスと話せているもんね。
「なんでこんなにも凄いことに……」
「秘術のせいだね。あの秘術は君がもともと持っている能力に召喚による能力向上と僕たち森の民の能力が上乗せされるからね。」
つまり、俺の力はもともとの能力に何人もの森の民の能力によってチート化しているということか。明らかに過剰戦力な気がするが、何かあった時のための秘術ならこの過剰戦力も必要だと考えたのかもしれない。
現に騎士たちをあれほど簡単に倒したわけだし、力については折り紙付きだ。
「もう気になることがないなら、装備を整えようか。ここにあるの全部持って行って構わないよ。」