王都までの道のり4
王都までの道のり3を29日(月)に投稿していています。読んでない方は、そちらもどうぞ。
ちいさな村を出発して王都に向かって馬車に揺られていた。揺られていると言っても、浮かせているから碌に揺れもなかったりする。
俺は魔法陣に関する本を読んでいる。アーレに頼るように大口を叩いたのに、何も知らないでは情けない。だから、こうして知識を得ている。
俺はスキル【魔法陣】があるが、それだけで魔法陣の全てが分かるわけではない。スキルは補助するだけで、知識がないと活かせない。
例えるなら、いくら良い道具があっても、使い方を知らないと使えないみたいなものだろうか。
料理をするときは塩加減や焼き加減が無意識に分かるから、魔法陣も良い感じで補助してくれると思うけどね。
「アーレ。このページの魔法陣の構成について聞きたいんだけど」
俺は本をアーレに向けて魔法陣を示した。
アーレは対面した状態で座っている。周りには魔法陣の本が重なっており、俺に魔法陣について教える先生だ。
「その魔法陣は魔法回路を必要としないものです。直接手を置いて魔力を通します」
アーレは俺の質問の意図を汲み取って丁寧に教えてくれる。
魔法陣は理に適った構成をしている。効果を発生する魔法陣と魔力の伝達に使われる魔法回路があり、魔力を通して使う仕組みになっている。
魔法陣を理解するうえで難しいのは、効果を発生する魔法陣である。発生させる魔法や効果によって複雑に構成が変化する。その構成の変化には法則があり、法則を理解するのがまず第一歩だ。
「魔法陣は重ねて描くと干渉するものもあります。それから……」
アーレはいつになく饒舌だ。
アーレはローリアほどではないが、積極的に話す人ではない。
自分が知っているものや好きなものについて語るときは、人は饒舌になるものなのかもしれない。
「ダンジョンで発見される魔法道具と人工の魔法道具とでは仕組みが違うのか」
本に書いてあることに感心する。
「はい。人工の魔法道具は理に適った構成になっていますが、ダンジョンの魔法道具は構成が出鱈目で理に適っていません」
アーレが補足を加えてくれる。
どうやら、ダンジョンで発見される魔法道具は、俺の前世でいうコンピューターのバグみたいなものらしい。そのため、擦ると水が出るマッチや何も写さない鏡などヘンテコな魔法道具が多い。たまに、高性能な魔法道具が発見されることもあり、そういったものは国宝になることもある。
「アーレは詳しいな」
「私の取り柄は魔法陣ぐらいですから」
アーレが目を伏せて答える。暗くならないでほしい。俺の仲間の地雷の配置率には驚きだな。
「この土魔法の魔法陣は?」
話を変えるために俺は本の魔法陣を示す。
すると、アーレは立ち上がって俺の横に腰を下ろした。
「それはこの部分が土属性を表しています。」
アーレは本を覗き込んで、指をさして答えた。どうやら、俺が本を動かさないでいいように移動してくれたようだ。
魔法陣には属性を表す部分がある。それによって何属性か判別するのだ。
俺の横に座ったアーレの距離が近い。アーレの着ている服が俺に当たるほどだ。俺の顔が本を覗き込むアーレの顔に近くて、俺がかけた【フレグランス】の香りがする。
ちなみに今日は落ち着くラベンダーの香りだ。
こんな時、アーレが全身を隠す服を着ていることがありがたい。でなければ、俺の鼓動は高まり、視線は宙を彷徨うことになっていただろう。おかげで俺は本に集中できる。
俺は1枚の紙と羽ペンとインク瓶を取り出した。実際に魔法陣を描いてみるためだ。本を片手に魔法陣を描き写す。
「こんな感じかな?」
「そうです。後は魔核で作られたインクで描くだけです」
描いた魔法陣をアーレに見せて感想を貰った。
魔法陣は魔核で作ったインクで描く。1度発動するだけなら描き、魔法道具として使うならば刻み込んでインクを流す。
魔核を使うのを魔力伝達能力が高いためで、他に魔力の伝達が早い物なら代用が可能だ。例えば、オリハルコンや竜の鱗などの高級で珍しいものだ。
俺はもう1枚紙を取り出して、思いついた事を実践する。
「【トレース】」
すると、インク瓶からインクが紙に宿って、俺が紙に描いた魔法陣が、もう1枚の紙に同じものが描かれた。
「ユイトさんは本当に滅茶苦茶です」
アーレからは批判するような声色で小言を貰った。
出来るとは思っていたが、ここまで簡単に出来ると驚いてしまう。
「このことは秘密にね」
「はい。これが発覚したらユイトさんはその魔法を使い続ける仕事に就くことになります」
「それは嫌だな」
どうやらこの世界では。俺は印刷機にもなれてしまうようだ。絶対にならないけどね。
「また1つ秘密を握りました」
そういってアーレはクスクスと笑った。
「しまったなぁ」
「冗談です」
真面目なアーレが冗談なんていうのは珍しい。淡々と話す彼女がクスクス笑うのも珍しい気がする。
「ご主人様。そろそろ暗くなってきましたし、ここら辺で休みますか?」
ローリアが御者台から振り返って声を掛けてきた。
「そうするか。近くに止めてくれ」
【マップ】には近くに野営に良さそうなところがある。この辺で野営にするのが良い。
「アーレさん?」
ローリアが首を傾げてアーレに疑問を表した。どうしたのだろう?
アーレは立ち上がって、本を片付け始めた。ローリアを気にする様子はない。
「ローリア。どうかした?」
俺が首を傾げているローリアに尋ねた。
「いえ。何でもないです。そろそろ馬車を止めますね」
そういってローリアは前を向いた。
ローリアが話をはぐらかすのは珍しい。俺の言うことは素直に返答する。
「アーレ?」
ローリアからは聞き出せないと思って、アーレに聞いてみる。
「ローリアさんが何でもないというならば、たいしたことではないのでしょう」
確かにローリアは俺に危害が加わりそうなことなら言うだろう。ならば、たいしたことではないか。
「そうか」
納得した俺は気にすることをやめた。何かあればいつか分かるだろう。
俺たちは馬車を止めて野営をすることにした。
明日には王都ユーラングに着くかな。
近いうちに幕間をあげようと思います。




