仲間が増えるよ
初公演を終えた2日後。
俺がギルドで依頼を見ているとバタバタとギルドの職員が入ってきた。そして、職員はギルドの奥に消えていった。
(また魔物か?)
そんなことを思っていると、ギルドの職員が出てきて一枚の紙を掲示板に張り付けた。
ギルドには依頼のボード以外にも情報を掲示するための掲示板がある。この前の俺の曲芸の告知も掲示板に張らせてもらった。
その掲示板に慌てて張り出された紙に冒険者集まった。そして、その冒険者の一人が声を上げた。
「勇者が死んだ!?」
ギルド内が騒然とした。
この1カ月ほど俺は依頼や魔法の練習やダンジョンでアイテムを探していただけではない。この世界の情報もしっかりと得ているのだ。その中に勇者についてもある。
この世界の勇者は異世界から召喚された男性であり、大都コーラングに住んでいて、大都の周辺の魔物を狩って大都の安全を守っているらしい。その強さはどんな魔物も寄せ付けないほどだとか。
元々は、強大な魔物が現れて国が滅ぼされかけた時に、多くの人が神に祈りを捧げたらしい。それに心を痛めた神が勇者の召喚儀式を授けたとされている。
そんな勇者が死んだという知らせが入ったのだ。ギルドの職員は慌てるし、冒険者たちも騒然とするだろう。
俺はクルスさんの言葉を思い出していた。
(強い意志を持った人や強い人はたまに幽霊になる)
もしかしたら、勇者は幽霊になっているのではないか?そんな強い勇者が幽霊になって除霊されなかったら、高位のレイスになってしまうのではないか?
俺ならば【霊視】で幽霊が見える。勇者が幽霊になっているなら俺が除霊してあげるべきだろう。
そして俺は王都に行くことにした。
この街には愛着はあるが、曲芸をしてからというもの色々な人に絡まれるようになってしまった。賞賛されるのは嬉しいのだが、宗教やいちゃもんは迷惑だ。場所を移すのもそろそろ頃合いだろう。
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「ローリア、勇者が死んだらしい」
「えっ?」
俺は宿屋に戻ってローリアに伝えた。
「嫌な予感がするから、これから王都に向かおうと思うんだ。ついて来てくれるかい?」
「もちろんついていきますが、むしろ危険なのでは?」
勇者を殺すほどの魔物が未だにいるかもしれないのだ。危険はあるだろう。
「勇者が幽霊になっていると危険かもしれない。俺は幽霊が見えるから聖魔法で除霊できるんだ」
「幽霊……?」
ローリアに俺がスキル【霊視】で幽霊が見えること、意志や実力が強いものは幽霊になることがあること、幽霊はいつかレイスになることを伝えた。
「分かりました。どこへでもお供します」
「ローリアが言った通り、危険もあるかもしれない。それでもいいか?」
「私はご主人様の奴隷です。片時も傍を離れません」
ローリアの瞳には確固とした意志があるように見えた。
「ありがとう。じゃあ、みんなに挨拶してから行こうか」
こうして俺とローリアは王都に行くことにした。
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俺はある宿屋に着いた。ここにはエクスさん、ザックさん、トライさん、アーレさんが泊まっている。別れの挨拶をするために来たのだ。
エクスさん、ザックさん、トライさんは同じ部屋に泊まっていて、アーレさんは1人部屋だ。俺はまず男性陣の部屋のドアをノックした。
「おう。ユイトかどうしたんだ?」
「王都コーラングに行くことにしたので、お別れの挨拶に来ました」
彼らには冒険者業でお世話になったりした。挨拶せずに別れるのは不義理だろう。
「あーそうか。すまないが先にアーレのところに行ってもらっていいか?」
エクスさんは何故か困った顔をした。しかも、先にアーレさんのところに行けという。
「わかりました。また後で来ますね」
そういってアーレさんの泊まる部屋に向かった。
アーレさんの部屋のドアをノックした。
「少々お待ちください」
凛とした声がドア越しに聞こえた。少し待つと鍵の開く音がして、アーレさんが出てきた。
「ユイトさん?どうかなさいましたか?」
相変わらず目元しかまともに見えない服装のアーレさんが疑問そうな声を上げた。
「えーと、王都に行くので別れの挨拶をしに来たんですけど、エクスさんたちのところに行ったら、先にアーレさんのところに行くように言われまして」
先ほどのやり取りを踏まえてアーレさんに説明した。
「そうですか。中に入ってくれますか?お話があります」
そういって、アーレさんは俺を部屋に招き入れた。
アーレさんの部屋に入るのは2回目だ。前回のことがあるので少し意識してしまう。
「あの……お話というのは?」
俺は機嫌を窺うように切り出した。
「はい……私をあなたのパーティーに入れてほしいのです」
アーレさんが少し思いつめたように言った。アーレさんが何故?そんな疑問が浮かんだがそれよりも先に引っかかることがある。
「俺のパーティー?」
俺はパーティーなんて組んだ覚えはない。俺はずっと1人で依頼を受けてきたし、仲間と呼べるものはローリアぐらいだろう。
「あなたはパーティーを組んでいないのですか?」
俺は彼女たちを助けた時に仲間がいると言ったことを思い出した。
「ああ、初めて出会った時に仲間がいるって言ったのは嘘です。あそこに1人でいるのは不自然かと思いまして」
ダンジョンを降りるにはボスを倒さなければならない。ボスを1人で倒すのは非常識だ。
「……」
アーレさんはジト目になっている。そんな目で見ないでください。アーレさん。
「では、あなたの仲間になってもいいですか?」
アーレさんが俺の仲間になる。別に悪いことはない。でも何故?
「それは王都まで一緒に行くということでしょうか?」
「そうです。もっと言えば、その後の旅にも同行させてください」
アーレさんは真剣な様子だ。
「エクスさんたちはいいんですか?」
「彼らにはすでに話してあります。だから気を利かせて私のほうに先に行くように言ったのでしょう」
俺はエクスさんたちの様子を思い出して納得した。彼らは義理堅い人だ。きっと仲間のアーレさんに気を回したのだろう。
「……実は言いますと、あなたは私の秘密を知っているので、逃がしたくありません。私が怪我をしたときに魔法陣を直せるのはあなたしかいないのです」
彼女は身体に刻んだ魔法陣がないと魔法が発動できない。それを今まで秘密にしてきた彼女は、背中などの魔法陣は修復できなかった。彼女にとっては秘密を共有した俺は貴重な存在なのだろう。
彼女は魔法陣を使わないと魔法を発動できないが、この世界では貴重な魔法使いだ。正確には魔法陣使いになるだろうが、いてくれたら非常に助かるだろう。損得を考えても得が大きいだろう。
「……もし、断るならばあなたが水以外の属性も発動できることを吹聴することも辞しません」
どうやら彼女の意思は固いようだ。……俺を脅すほどに。
「分かりました。これからよろしくお願いします。アーレさん」
「私のことはアーレで構いません。敬語もいりません」
「じゃあ、俺もユイトで」
「……出来れば、ユイトさんでお願いします。私は秘密を握られている身ですから」
どうやら敬称はつけて呼ばれるようだ。秘密はこちらも握られているから気にしなくていいのだが、彼女にとってはより彼女の秘密のほうが重いものなのだろう。
「じゃあ、改めてよろしく。アーレ」
「はい。ユイトさん」
こうして、俺はローリアとアーレと王都に向かうことになった。
この後、他の知り合いにも挨拶しに回った。
現勇者が死んでしましました。
そして、アーレが仲間になりました。




