俺とローリアとの初舞台
曲芸を始める。場所は広場の真ん中の噴水前だ。
俺は手を挙げて指を鳴らす。所謂、フィンガースナップと呼ばれるものだ。すると、俺の背後にある噴水が高々と水柱をあげた。
往来する人がその光景に足を止めた。
いつもは1メートルも水を上げない噴水が、突如高々と水を上げ始めたからだ。噴水がいつも通りに戻ると、その噴水の前で手を挙げている俺に注目が集まる。
俺は口を開く。
「さあさあ。これから始めますのは魔法の曲芸。急いでない人は足を止めて是非是非見て行ってくださいね」
確か、元の世界で見た落語の始め方がこんな感じだった。話始めるので、聞いてくださいね?みたいな感じだ。ゆっくりと話し始めた俺に周りの人は訝しい表情だ。
俺は手を口元に持ってきて、親指と人差し指で丸を作った。指で作るOKサインと同じだ。その丸に薄い皮膜が現れる。俺はその皮膜に息を吹き当てると、皮膜は無数の泡になって飛んで行った。
飛び始めた時は小さかった泡が徐々に大きくなっていく。1つ1つには様々な色がついており、カラフルな無数の玉が広場に広がり始める。
訝しんでいた周りの人は驚きの表情を浮かべる。
今回俺がイメージしたのはシャボン玉だ。
元の世界では子供の頃に遊んだことがある。石鹸を泡立ててストローで飛ばして遊んだ。病気がちだった俺でも楽しく遊べた。ふわふわと舞うシャボン玉は、光が当たり独特の反射をして綺麗だった覚えがある。
この世界にも石鹸はあるが、質が元の世界ほど良くなく、大きな泡を作るのが難しい。
ふわふわと舞う泡は夕日の光を反射してキラキラと輝いた。泡に触れようとした子供は割れる泡に驚き、居合わせた女性はうっとりと光景を見つめ、仲睦まじいカップルは手を繋いで仲良く光景を見ていた。
広場に泡が広がってから、俺は十分に時間がたった時を見計らって手を叩いた。すると、泡が一斉に弾けた。
次の演目に移ろう。
俺はタクトのように指を振った。すると、俺の周りに4つの水の玉が浮かぶ。水の玉が浮かび上がり、俺を中心にグルグルと回り始めた。
もう1度指を鳴らす。すると、噴水の水が止まった。俺はその噴水の頂上に飛び乗った。俺の周りには未だに水の玉が回っている。
再び指を振る。水の玉がそれぞれ2つに割れて8つになった。俺は8つになった水の玉を次々と打ち上げた。落ちてくる水の玉も再び打ち上げて、水の玉8つのお手玉をする。
グルグルとお手玉をする俺に拍手が巻き起こった。最初にメロさんが拍手してくれたらしく、その拍手は伝播して広場全体を包んだ。
俺はお手玉をやめて、お手玉していた水の玉を再び周りに水を浮かべた。俺は8つ全て操り、高低差を変えて広場に飛ばす。水の玉は人々の頭上を高速で飛び、噴水を中心に回った。
頭上に水の玉が飛ぶ光景に観衆は空を見上げた。頭上を水が飛ぶ光景は迫力がある。水の玉はそれぞれ速度が違い、観衆の目を楽しませた。
夕日が沈み、辺りが暗くなってきた。俺は水の玉を噴水に集めてから、噴水の頂上から飛び降りて深々と礼をする。観衆からは大きな拍手をもらった。
俺はローリアを呼び寄せる。ローリアが俺の傍に来て、観衆に向き直った。観衆は現れた隷属の首輪をつけた少女に首を傾げた。
「今日はこの子の初舞台です。皆さん、温かい目で見守ってやってください」
俺はゆっくりと話した後に、恭しく頭を下げた。それに伴ってローリアも恭しく頭を下げた。打ち合わせ通りだ。俺も初舞台なのだがそれは置いておく。
俺はローリアの脇に手を入れてローリアを持ち上げた。
「ローリア?いくよ?」
ローリアは小さく頷くと、ぎゅっと目を閉じた。
「せーのっ!」
俺はステータスに任せてローリアを真上に投げた。軽いローリアはあっさりと飛び、4~5メートルほどで勢いが止まった。
「【キラキラ】!」
ローリアが頂点で光魔法を使った。ローリアが初めて使った魔法だ。
高く上がったローリアからキラキラした光が降り注いだ。高所からの光は広場いっぱいに広がって、観衆を包み込んだ。暗くなってきた世界に広がった光は、まるで世界に星が降ってきたようだった。
観衆は信じられないものを見たような表情で辺りを見渡した。冒険者のような男は大きく口を開けて驚き、さっきまで手を繋いでいたカップルはこの光景を背景に熱いキスをかわし、敬虔な信者は神に祈りをささげ始めた。
俺はその光景をしりめに風魔法を使った。投げたローリアを受け止めるためだ。
風魔法は落ちてきたローリアは徐々に速度を落として、ふわりと着地した。ローリアの表情は変化がなく、必ず受け止めてくれるという俺への信頼が窺えた。
ローリアがこちらに駆けよってきたので、しゃがんで受け止めた。そして軽く頭を撫でて、2人で空を見上げた。
キラキラとした光と観衆の息をのむ声が今回の公演の成功を教えてくれた。誰もがこの光景に心を奪われ、うっとりと空を見上げていた。
光の最後の一筋が消えると俺とローリアは再び恭しく頭を下げた。観衆からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。中には、指笛をする者もいて辺りの興奮は最高潮に達する。
こうして俺とローリアの初公演は終わった。この後、奴隷のローリアを買い取りたいという人が沢山現れて、俺がすべてを断るなどのハプニングがあったが、全てが無事に終わった。
「流石だな。ユイト!」
そういって俺の背中を叩くイーニアさんや、
「あなたもそうだけど、その子は何者なのよ!」
と、テンションが上がってしまったメロさんや、
「すごいかったね!お母さん!」
「ええ、綺麗だったわね。」
そういって抱き着いてきたミナとおっとりとしたニーナさんや、
「やっぱりユイトは凄いね!」
と、抱き着こうとして、ミナが抱き着いていて抱き着けないメリーや、
「おいおい!すごいなおまえ!」
「はっはっはっは!」
「凄すぎて、世界が終わるんじゃないかと思ったぜ!」
と大げさに褒めてくれたエクスさん、ザックさん、トライさんや、
「本当に綺麗でした」
と少し惚け気味のアーレさん。
見に来てくれた知り合いからも沢山賞賛を貰った。
「ローリア。楽しかった?」
「はい!」
ローリアも楽しめたことを確認して俺は宿屋に戻った。
木曜日更新できなくてすみません。
今回のような魔法を使った見世物がしたくて始めた物語なのですが,
作者のタイミング悪く忙しい時期がこの回に重なってしまいました。
今更ですが,今回のような魔法を魅せることを1つの目的とした物語です。
その割には随分と話数を重ねてしまいましたが,
急いでない人は是非是非見て行ってくださいね。




