ローリアの過去
ローリアに話があるといわれたので、俺とローリアは宿屋の部屋に帰ってベッドに腰を掛けた。
「ご主人様。話というのは私のことです」
俺には大体想像がつく。ローリアに【アナライズ】をした時から分かっている。
「私は小人族です。いままで騙していてすみませんでした!」
ローリアは立ち上がって深々と頭を下げた。その様子は真剣そのものだ。
「……知っていた」
俺は少し迷ってから話すことにした。誤魔化したくはなかったのだ。ローリアは顔を上げて驚愕の表情を浮かべている。
「……ご主人様?」
彼女にとっては隠してきた大きな秘密だ。困惑するのも無理はない。
「知っていたんだ。ローリアが小人族だって」
ローリアがすとんとベッドに座った。俯いていてこちらからは表情が見えない。
「……いつからですか?」
「ローリアを貰った時だ。ローリアを魔法で調べて貰うことにした」
ローリアの声はあまりにも小さかったが、俺の耳も森の民の秘術で強化されているようで、声を拾うことが出来た。
俺がそういうとこの場に沈黙が満ちた。何か声をかけようかと思ったが、何を悩んでいるか分からず、出来なかった。
「……じゃあ、ご主人様は私を捨てませんか?」
ローリアが重い口を開いた。俺にはローリアの真意がわからない。ここは俺の本心を伝えるべきだろう。
「俺はローリアを捨てる気はない。一緒に旅をするつもりだし、ローリアが望むのなら奴隷から解放もする」
俺がそういうと、ローリアが抱き着いてきた。細い腕で精一杯に俺の胴体を包んでいて、すすり泣く声が聞こえる。
「ローリア。俺に全部話してみてくれないか?俺にはローリアの悩みがわからないんだ」
ローリアの頭を撫でながら俺はそういった。
ローリアが俺から離れた。
「……私は生まれつき奴隷でした。なぜなのかはわかりません……」
ローリアはぽつりぽつりと話始めた。
「最初に売られたのは……貴族の家でした。私を娘にして有力貴族の嫁にして家を繁栄させるためです……でも、私が小人族だと分かるとすぐに売られました。身長が伸びない小人族は嫁に出来ないからです」
小人族は生涯子供と同じぐらいの身長だ。人族が政略結婚に使うには使えない。親の血を引いていないことは明らかだから。
「次は労働奴隷として売られました。私は精一杯働きました。……でも小人族だと分かるとまた売られました。身体が大きくならずに非力な小人族はいらないと言われました」
小人族は一般的に非力だ。労働力として育てるには向かない。
「次に売られたのも労働奴隷として売られました。私は同じ奴隷に虐められました。亜人は気持ち悪いそうです」
この世界には人族が優れているという思想がある。彼女もその被害者だ。
「次に売られたのは冒険者でした。小人族には珍しいスキルを持っている人が多いからです。私は魔法道具でスキルを調べられて落胆されました。私には普通のスキルしかなかったからです」
小人族が珍しいスキルを持っているというのは初耳だが、まるで道具のようにローリアを扱った冒険者には腹が立つ。
「私は安く売られるようになりました。それも人族として売られます。少しでも価値を上げるためです。私は失敗すると叩かれるようになりました。元々安いので多少傷つけても変わらないと言われました」
俺は彼女と会った時のことを思い出した。転んだ後に足蹴りにされていた。
「私は何度も買われて売られました。そのたびに傷が増えました。食事も碌に与えてくれません」
彼女は宿屋の食事を美味しそうに食べていた。あの時初めて俺に笑顔を見せた時だ。しっかりとした食事に彼女は喜んだのだ。
「これが今までの私です。ご主人様は大変良くしてくれました。今捨てられても恨んだりしません。私は小人族で役に立ちません。……私を捨てますか?」
ローリアを捨てるなんてありえない。境遇を聞いたらなおさら俺の保護欲がかき立てられた。
俺はそっとローリアを抱きしめた。少しでも安心させたかった。
「俺はローリアを捨てたりしない」
俺の気持ちはそれが全てだ。俺が彼女を捨てることはこの世を敵に回してもあり得ないだろう。
「それにだ」
俺は言葉を続けた。
「ローリアはもう魔法が使えるだろ?役立たずなんかじゃないさ」
ローリアはすでに魔法が使える。教えた【キラキラ】と【ウォーター・ボール】はすでに発動できるようになっている。光と水魔法なので、すでに2属性扱える天才だ。
「うぅ…ご主人様ぁ!あぁ…」
ローリアはまた泣き出してしまった。今日はよく泣かせてしまうな。また俺はローリアの頭を撫でた。
「ローリア、今度広場で曲芸をすることにしたんだ。一緒に出てくれるかい?」
また泣き止む時間を待って俺は提案した。
「私もですか?」
ローリアは小さく驚いていた。泣いて顔が赤くなっている。俺はこっそり【ヒール】をかけておいた。
「ああ、俺もムカついてきた。今までローリアを馬鹿にしてきた奴らを見返してやろう」
上手く曲芸ができたらローリアの自信になるかもしれない。
「はい。やります!」
元気に返事をしてくれた。
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「ローリアは確かに奴隷だけど俺の奴隷だ。何か要望とかあれば言ってくれていいんだぞ?」
元の世界で、俺には奴隷を使う経験なんてない。だから、一方的に何かしてもらうというのは非常にやり辛い。
「え?でも……そんなの出来ないです」
彼女にとって奴隷は要望を言ってはいけないものなのだろう。しかし、そういう彼女は何か言いたそうだ。
「いいんだよ。俺の奴隷は他とは違うと思ってね?何でも言って」
少し強引に聞き出してみた。出来るだけ叶えてあげたい。
「わかりました。何でもいいんですね?」
この流れは大丈夫だろうか?何でもいいなんて言わないほうが良かったかな。
「その……もう一度抱きしめてもらってもいいですか?」
「え?」
俺は思わず聞き返してしまった。ちゃんと聞こえている。ただ、驚いてしまっただけだ。
ローリアは耳まで真っ赤だ。
「あ。いえ!なんでもありません!なんでもふっ!」
いきなり抱きしめてみた。ローリアが俺の胸に顔が埋まり、素っ頓狂な声をあげた。
「ご主人様……頭を撫でてもらってもいいですか?」
俺の胸から上目遣いでお願いされた。なかなか威力が高い。俺はお願い通りに頭を撫でた。こうして撫でると【コンディショナー】のお陰で綺麗な髪になってさらさらだ。手触りがとてもいい。
「まあ、14年もいままで辛かったもんなぁ……」
俺がそういうと、ぴくりと動いてローリアがこちらに顔を上げた。
「私……14歳って言いましたっけ?」
「あっ……」
俺は【アナライズ】14歳って知っていたけど、ローリアに言われていない。
「ローリアを貰った時に調べたって言っただろ?その時だな」
「も、もしかして!スリーサイズも!?」
調べようと思えば出来るだろうがそんなものは知らない。この後、何度も知らないと言ったが、ローリアに何度も質問されることになった。
泣く表現はこれでいいんでしょうか?
ローリアの過去が分かりました。彼女の笑顔が少ないのは、今までの境遇のせいです。
きっとこれから笑顔が増えるはず。




