この世界のこと
「やあ、こんにちは。異世界から来た僕たちの英雄さん」
いきなり声をかけられたことに驚いて振り返ると、目つきの鋭い青年がいた。
髪と瞳は黒緑色だ。しかし、その青年は半透明で宙に浮いていた。まさに幽霊といった感じだ。
「そっくりだね。まあ、僕の身体なんだから当然か。でも、目つきが優しい感じがするな。目つきの鋭さは生来のものだと思っていたけど、そうじゃなかったみたいだね」
幽霊がクスクスと笑いながら独り言を呟いている。
「はじめまして。僕はクルスという。その身体の持ち主だったものだ」
身体の自由が手に入ったと思ったら本人登場か。返せとでも言われるのかな。
「えーと。はじめまして。俺は世良っていいます。もしかして、身体を返してほしいとかですかね?」
恐る恐る訪ねてみた。
「セラ?女の子みたいな名前だね。身体はもうすでに僕のものじゃないから返してもらえないんだ。僕は君の案内人みたいなものさ。いきなり異世界に連れてこられて放り出されたら困るだろうからね」
目つきは鋭いがクスクスと笑っている顔は親しみやすい。
すごくいい人のようだ。身体は返さなくていいみたいだし、とりあえずクルスから情報を得よう。
「あ、名前は結糸です。世良は苗字です。わかる限りのこと説明してもらっていいですか?」
「ユイト君は苗字があるんだね。まずは、いきなり連れてきて人殺しをさせてしまったことを詫びよう。すまなかった」
クルスは空中で頭を下げた。
人殺しを強要されたことには憤っていたが、いきなり謝られると困ってしまう。
「さすがに気にしてないとは言えませんけど、俺も同意したことですから」
「そうはいかないよ。どうせ長老やみんなは碌に説明もしないで連れてきたんだろうし」
クルスは虚空を見上げながら言った。その表情は懐かしむような憂いを帯びている。
「まあ、そうですね。恨みを晴らすとは聞きましたが、人を殺すとは思っていませんでしたね。魔物かと思っていました」
俺は頬を人差し指で掻きながら、目線を逸らして答えた。
「そうだろうね。じゃあ説明するよ。まず、僕たち森の民はね。ここに長いこと住んでいるんだ」
俺は周りを見渡す。
家の上に建っているログハウス風の家や野菜の生えた畑が確かにここに住んでいたことを感じさせた。
「ここはね。森の魔物が外に出ないように討伐することを条件に住まわせてもらってたんだ。でもね、王は森を切り開きたいみたいで、森の民に立ち退きを要求したんだ。ひどいよね。今まで守ってあげたのに邪魔になったら退けだなんて。しかも立ち退き先も用意してないんだよ。退くわけないよね」
説明という割には半分ぐらい愚痴な気がするが確かにひどい。一方的な要求を押し付けているだけだ。
「それで今回の騎士たちなんだ。もともとは一緒に森の魔物を倒す援軍だなんて言っていたのに、隙を見つけては僕たちの強い戦士から倒していったんだ」
語るクルスは苦虫を噛み潰したような表情だった。強い戦士の中に知り合いがいたのだろう。もしかしたらクルス自身もその中の一人だったのかもしれない。
「まあ、騎士たちは皆殺しにされて当然だよね。ありがとね」
何気にクルスはひどいことをいった。その気持ちは当事者にしかわからないだろう。
ただ、少し晴れた顔をしていた。
「今回の経緯はこんなかんじかな。なにか質問はあるかい?」
俺は少し考えてから首を横に振る。
「いえ、それについては大丈夫です」
「そうかい?じゃあこの世界について説明したほうがいいよね。君にとっては異世界だもんね。それについて何か質問あるかい?」
この世界については何も知らない。
ファンタジーな世界だと思ってこっちの世界に来たけど、どの程度テンプレが通じるかわからない。俺の思っているファンタジー世界とどの程度異なっているのか確かめなければいけない。
「じゃあ、話に出てきた魔物について教えてください」
クルスは思案するような顔をして答え始めた。
「魔物はね。魔核を持っている動物のことをいうんだ。普通の動物は魔核を持っていないよ。魔物は弱かったり、強かったり、大きかったり、小さかったり様々だけど、ここら辺だとこの森の魔物が強いほうかな。海にもいっぱい生息しているよ」
「ダンジョンとかにもいるんですかね?」
「そうだね。ダンジョンではどんどん出てくるらしいよ。その代わりに、いろいろ道具や武器が見つかったり、鉱石が採れたりするみたい」
ついでにダンジョンについて聞けた。武器が手に入るのはうれしいな。ダンジョンで装備整えたりしようかな。
魔物の基礎知識としては、よくあるラノベと同じような設定かな。テンプレだ。
ファンタジーといえば気になることがある。
「獣人とかはいるんですか?」
「獣人族かい?ああ、なるほど、そっちの世界にはいないんだね。この世界には人族、獣人族、海人族、小人族、竜人族、妖精族、魔族がいるね」
クルスは怪訝な顔をした後、納得したような顔で答えた。
「へー結構種類がいるんですね。それぞれ特徴はあるんですか?」
結構種類がいることに驚きつつも聞いた。
「そうだね。獣人族は耳としっぽが特徴かな。犬人族と猫人族が多いからわかりやすいと思うよ。海人族は青白い肌と青緑の髪が印象的かな。小人族は、子供くらいの身長で見た目は人間の子供と変わらない。妖精族はエルフ族とドワーフ族とかかな。エルフは耳がとがっていて美しい。ドワーフはずんぐりむっくりって感じかな。竜人族と魔族は会ったことないな。魔族は魔物みたいな容姿らしいけど」
クルスは上を見上げて思い出しながら言った。
エルフとドワーフが一括りで妖精族という点や、海人族という存在以外は概ね俺の持っているファンタジーの知識と変わらない。テンプレテンプレ。もっと詳しいことは会ったからの楽しみにしよう。
「それぞれの勢力状況はどうですか?」
「難しいことを気にするんだね。えーと、人族はいくつか国を持っているけど、他はひとつずつらしいね」
人族は発展しているみたいだな。
「次に魔法についてお願いします!」
1番気になっていることについて聞くことにした。