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異世界魔法で曲芸士!  作者: 常世 輝
ハーニカの街
29/87

報酬とローリアの涙

「どういうことなのか説明してくれる?」

 俺はギルド2階の1番奥のギルドマスターの部屋に来ていた。もちろん魔物相手に使った魔法について説明するためだ。


「あの……?」

「なにかしら?」

「なんでギルドマスターみたいな人が部屋の隅に立っていて、俺に対面しているのがメロさんなんでしょうか?」

「話を逸らさないで頂戴!」

 メロさんに話が通じない!?どうやらメロさんはかなり魔法のことが気になっているようだ。


 部屋の隅にはテンプレ通りの屈強で強面なギルドマスターが佇んでいた。しかし、完全にメロさんの勢いに負けてしまっているため、ギルドマスターだというのに威厳はまるでない。


「わかりました。俺がギルドに来た時のことを覚えていますか?」

「ええ。覚えているわ。説明したのは私ですもの」

「あの時に、紙に水魔法が使えるって書きました」

「書いてあったわね」

「そういうことです」

「それじゃあ分からないわ!?」

 訳が分からないとばかりにメロさんが大声を出す。俺の言っていることは間違っていないが,説明不足で理解してもらえないようだ。まぁ,わざとぼやかしているんだけども。


「そう言われましても、水魔法が使えるだけですし……」

「何よ。あの威力と規模。普通じゃないわ!」

 今のメロさんはテンションが高い。ギルドにいるのに敬語じゃないのが良い証拠だ。


「全力で使ったらそうなりました」

「はぁ……もういいわ……」

 メロさんは諦めた表情になった。


「分かったわ。全部話してくれる気はないのね……寂しいけどもういいわ」

 この世界に召喚されて力をつけました。といっても信じてもらえないし、話せない。いくら寂しそうにされても話せることを話したので許してほしい。


「じゃあ、報酬について話しましょう」

 メロさんは1枚の紙を差し出してきた。

「この依頼については報酬が金貨5枚になっているの。ほとんどあなたが倒したとしてもこれは変えられないわ」

 命がけの依頼だから報酬は高いが、殆ど俺が倒したのに他の冒険者と同じ報酬では不公平だろう。

「でもね。ギルドマスターが特別に報酬をあげることが出来るの。そうですね?ギルドマスター」

 ギルドマスターは頷いて答えた。完全に補助に回っている。それでいいのかギルドマスター……


「何か要望はあるかしら?」

 ギルドマスターに報酬を頼むというのに聞いてくるのはメロさんだ。

「じゃあ、噴水のある広場を1日貸してください。あと、今回の魔物は冒険者全員で倒したことにしてください」

「……何をするつもりなの?」

 メロさんは少し訝しそうな表情を作った。 メロさんからしたら俺はただの冒険者のはずだ。普通の冒険者が広場を借りることはないだろう。


「俺は曲芸士をしているので、それに使いたいんです」

「あなたって何者なの?」

 メロさんはついに困惑してしまった。

「冒険者を副業にしている曲芸士ですかね」

「変わっているのね」

 どうやら変わっている人認定を受けたようだ。


 そこでギルドマスターが近づいてきた。

「よう。俺はペンタスだ。この街のギルドマスターだ」

 威厳たっぷりの挨拶だ。今更威厳を出しても遅いだろう。

「よろしくお願いします。ギルドマスターさん」


「今回の報酬として広場を貸すだけでは足りないだろう。そこでだ。お前の冒険者ランクをCにしようと思う」

「あっ、お断りします」

 俺は間髪を入れずに断った。

 ランクCになったら様々な特典があるが、それに伴って指名依頼が強制になる。俺の本職は曲芸士だ。稼ぐなら他の依頼を受けるので、Cランク冒険者以上にはなりたくない。ここは断固として断らなければならない。

「……なぜだ?」

「指名依頼が強制になるからです」


「そうか……確かに貴族からの依頼はひどいのが多いからな。だが、お前ほどの魔法使いが曲芸士なんて勿体ない!」

 言っていることは正論のようだが、面倒くさいことを押し付けられているだけだ。

「人の夢にケチを付けないでください」

 曲芸士として大成することは俺の夢だ。誰に何を言われようとも曲げる気はない。だから少し言葉に険があっても許してほしい。


「……分かったお前にはさらに金貨5枚をやる。それと広場だな。それが今回の特別報酬だ」

 そう言ってギルドマスターは部屋を出て行った。納得がいかないようだが、報酬の上乗せだけで事なきを得た。


「ごめんなさいね。ギルドマスターは悪い人ではないの。ちょっと自分の考えを押し付ける人でね。私も苦手なんだけど……悪い人ではないのよ」

 メロさんのフォローが失敗している。俺もあの人は苦手かもしれない。


「じゃあ、今回の魔物は冒険者たちが討伐したってことにしておくわね。あと、広場は4日後に使えるようにするわ。そして、これが金貨ね」

 そう言って小包を俺に差し出した。金貨10枚だ。ここで大金貨1枚にしないのは、こちらのほうが店で使いやすいからだろう。メロさんの心配りだ。


「4日後、メロさんは来れますか?」

「私?ええ。ちょうど休みだからいけるわよ。私も行っていいのかしら?」

「もちろんですよ。メロさんのために魔法を披露します」

「ふふっ。じゃあ見に行こうかしら。楽しみにしているわ」

 そういって俺は宿屋に帰った。

 別れる前にメロさんが自分の頬を叩いて気合を入れていたので、きっと口調は大丈夫だろう。


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 宿屋に着くとローリアが外に出ていた。隷属の首輪をつけていて小さい彼女はよく目立つ。ローリアは俺を見つけると駆け寄ってきた。


ローリアが勢いを殺さずに近づいてきたので、俺はしゃがんで受け止めると、ローリアは泣き出してしまった。

「…ご主人様ぁ!ウッ…あぁ…ご主人様…無事でぇ…えっぐっ…よかったぁ…すんっ…」

……ローリアはあっさりした性格だと思っていたが、そうではなかったようだ。主人が魔物の群れに対峙するというのは、彼女にといって心労だったのだ。俺はまだローリアをわかっていなかった。ローリアの頭を撫でる。


「ごめんな。心配かけたな」

「すん…うぅ…すみません…でも…もしものことがあったらって…」

「大丈夫。ローリアを残して死んだりしないから」

「…ご主人様ぁ!…うぅ…ご主人様ぁ…」

ローリアは一度泣き止んだが、声をかけると再び泣き出してしまった。俺には女性の扱いは向いていないようだ。


ローリアの頭を撫でながら泣き止むのを待っていると、ローリアが泣き腫らした顔を上げた。


「ご主人様。お話があります!」

神妙な面持ちでローリアは言った。





 ユイトが広場をかりました。そこで曲芸を披露する予定です。


 前回の森から魔物が攻めてきたことで,ローリアは主人であるユイトをかなり心配していました。ユイトはあっさり終わらせましたが、本当はそれだけ一大事だったわけです。


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