魔物撃滅戦
ローリアが髪を切ってから約1カ月が経過した。
この期間中はダンジョンに潜ったり、依頼を受けたりしていた。この期間中に冒険者ランクがEに上がった。メロさんからお祝いの言葉を貰ったのが嬉しかった。
俺はローリアとギルドで依頼を見ていると、ギルドの職員がバタバタと走って入ってきた。そして、ギルドの奥に入ると大慌てで戻ってきた。
「キリの森から大量の魔物が進行していると報告がありました!緊急依頼を発令します!ランクC以上の冒険者には強制依頼です!」
ギルド内が騒然とした。
「マジか!」
「俺に任せておけよ!魔物だろうが化け物だろうが倒してやろう!」
「稼ぎ時だぜ!」
どうやら今いる冒険者は自分の実力に自信があるようだ。そして、再びギルドの職員が口を開いた。
「数はおよそ100です!ご協力よろしくお願いします!」
魔物の数が分かるとギルド内が凍り付いた。さっきまで威勢の良かった冒険者たちも、誰も喋らなくない。
キリの森の魔物は強い。個体によるが、ダンジョンの上層の魔物とは比べ物にならないだろう。そんな魔物たちがおよそ100体押し寄せてくるのだ。
「お、おい……」
「ふざけるな!俺には家族がいるんだ!」
「………」
ギルド内は再び騒ぎになった。ギルド職員に掴みかかる者もいれば、逃げ出す者もいる。
「どうするかな」
俺はどうしようか。ローリアと一緒に逃げ出すことも可能だ。俺は冒険者ランクEなので強制依頼は適用されない。
しかし、約1カ月過ごしてみて,この街は過ごしやすい。知り合いがいるこの街に愛着がある。他の冒険者やお店の人とも仲良くなった。彼らを見放すのは不義理だろう。
「メロさん。Eランクの俺が出来ることは何かありますか?」
俺はメロさんにEランク冒険者として聞いてみた。
「ユイトさん。悪いことは言わないわ、逃げなさい。この街は危ないわ」
いつもの仕事の時のメロさんではない。頼りになるお姉さんモードだ。
「メロさんは?」
「私は……大丈夫よ。これでも元冒険者なんだから。だから、あなたは早く逃げなさい」
そういって俺に微笑んだ。元冒険者なのは初めて知ったが、この人は残って戦う気だろう。
「でも……」
俺は言いかけて気づいた。俺はどうやらこの街を守りたいらしい。なんだかんだ理由をつけてこの街に残って戦おうとしている。もうすでに俺の魔法のことを知っている冒険者もいる。もう魔法は隠さなくていいだろう。
「俺も残って出来ることをしたいんです」
決心はついた。後はこの街に残る大義名分が欲しい。
「分かったわ。私の手伝いをしてちょうだい。でも離れちゃ駄目よ?」
「わかりました」
メロさんの近くにいられるなら、守られる振りをして守ってあげよう。
「ローリア。宿に戻っていてくれ。俺は戦いに出るから宿屋で隠れていてくれるかい?」
「ご主人様。無事に帰って来てください」
無表情でローリアが答える。信頼の裏返しなのかもしれないが、少しあっさりしているのが寂しい。
「わかった。絶対に無事に帰ってくる」
俺は努めて優しく笑いかけた。この子は絶対に守ろう。
キリの森から街まで距離はあまりない。魔物がこちらに向かっているならすぐに到着してしまうだろう。
「メロさん。行きましょう!」
「わかったわ。この街を守りましょうね。……無理はしないでね?」
メロさんからは諦めが感じ取れる。ギルド内もすでに諦めの雰囲気が漂っている。
俺はメロさんについていき、街の北側に向かった。魔物を迎え討つためだ。到着するとすでに魔物がこちらに向かってくる様子が見えた。
「そんな……BランクだけじゃなくてAランクもいるわ……」
魔物の個体はばらばらだ。動物のような魔物や、虫の魔物、鳥の魔物、荒唐無稽な姿をした魔物もいて、まるで百鬼夜行のようだ。
数は一見すると100ほどだが、まだ森から続々と来ていることから200はいるだろう。
周りの冒険者はC~Sランクが30人ほどだ。
冒険者のSは魔物のAに1対1で勝てる実力だ。ここで問題なのは1対1で勝てるというだけで、魔物が複数だと勝てないということだ。つまりこの戦いはかなり不利な状態だろう。
そのことがよく分かっているようで、冒険者は誰もが暗い顔をしている。絶望と言ってもいいだろう。
俺はすでに決めていた。今回は水魔法で片付ける。ギルドの登録の時に書いた使える魔法は水魔法だ。水魔法に全ての力を込めよう。
他の冒険者が魔法道具で魔法を飛ばした。彼らの魔法は着弾するものの、あまりダメージを与えたように見えない。
俺は魔力とイメージを練り始めた。全体に降り注ぐ大規模な殲滅魔法のイメージだ。それを水魔法で行うには……
「【ウォーター・ボール・レイン】!」
俺は思い切り叫んだ。呪文はただイメージにあうように考えた思いつきだ。
突然辺りが暗くなった。雲が天を覆ったのだ。
他の冒険者が雨でも降るのかと思って空を見上げた時、突如魔物の中から爆音が響いた。その音がした場所では魔物が呻き声をあげて苦しんでいた。
そして、飛沫がかかる。
「……雨?」
雨が降ってきたのかと冒険者たちが訝しんでいると、突如人の顔ほどの大きさの水の玉が魔物に降り注いだ。
その水の勢いは,水が自由落下したものとは比べ物にならない速度で落ちてきた。虫の魔物は硬い身体を砕かれ、動物の魔物は立てずに沈み、鳥の魔物は地面に身体を打ち付け、殆ど全滅の状態だ。
それを引き起こした俺はというと…
「あっ……」
激しく後悔していた。
全力を出すと誓ったものの、流石にやり過ぎた。これだけのことをしたら問題だ。100、200の魔物を1つの魔法で倒す魔法使いがいる。これは世界を揺るがす脅威だろう。
「わー神様の御業だなー」
「そんなわけないでしょ!?」
どうにか誤魔化そうと思ったが、メロさんに激しい突っ込みを貰ってしまった。大きな声で呪文を叫んだことが仇になった。
「駄目ですかね?」
「駄目に決まっています!なによ!あの天災みたいな魔法!」
メロさんの口調が激しい。この状態のメロさんはレアだろう。
「あの……お話するので残りを倒してギルドに戻りませんか?」
ガクガクと俺を揺するメロさんに提案して解放された。
残りの残党はSランク冒険者が倒してくれた。魔物は虫の息だったのでとても簡単そうだった。
本当は次話にわたって戦うつもりだったんですが、主人公が強いのであっさり終わりました。
なので、あまり緊迫感がないかと思いますが、実は街にとってかなり危機的状況でした。




