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異世界魔法で曲芸士!  作者: 常世 輝
ハーニカの街
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ハーニカの街での日々 アーレの秘密

本日四話目です。

4人の冒険者たちを助けてから4日後


俺の泊まる宿屋に1人の女性が尋ねてきた。


「ユイトさん、折り入って相談があります。時間を頂けますか?」

全身を服で覆ったエルフの女性のアーレさんだ。顔すら隠しているので表情は分からないが、貧血の状態からはすっかり回復したようだった。


俺はローリアと一緒に朝食を食べている。イーニアさんといいアーレさんといい、朝早く訪ねて来るのは俺がどこかに出掛ける前に会うためだろう。


「結構時間かかりますか?」

「……ことと次第によっては」

今日の予定はローリアと魔法の練習だ。ローリアとの予定をキャンセルするのは申し訳ない。しかし、アーレさんは真剣そのものだ。彼女を頼みを無下にするのも違うと思う。


「ローリア。練習は午後からにしようか。午前中は待っていてくれる?」

「わかりました。ご主人様」

ローリアはあっさりしている。従順なのはありがたいが、少し寂しく感じるのは俺のエゴだろうか。


「では、お聞きしましょう。場所はどこで?」

聞かれたくない話なら宿屋の食堂じゃないほうがいいだろう。場所を移すことを提案した。

「はい。では、ついて来てください」

俺は大人しくついて行った。


歩くこと数分。ついて行った先はアーレさんが泊まる宿屋だ。

「入ってください」

そして、アーレさんの泊まる部屋に通された。

部屋は整理されていて、真面目な印象を受ける。しかし、机の小物から女性らしさを感じがする。


「座ってください」

俺は促されてベッドに座る。アーレさんは椅子に座って対面した。


部屋の中に2人きりというのは、普通ならとても魅惑的な状況だが、彼女は目以外を隠しているからまったく煽られない。


「それで、相談というのは?」

俺が先に切り出した。聴く態勢を示すためだ。

「はい……ユイトさん。あなたは魔法使いですね?」

ダンジョンでも肯定しているし、実際に見せてしまっているから誤魔化しは聞かないだろう。


「そうです」

「私について何か気づくことはありますか?」

神妙な目線と共に訪ねてきた。


さて、何を話そうか。エルフであることか、それとも170歳であることか、魔法が使えないだろうことか。十中八九、魔法のことだろうな。


「エルフであることでしょうか?」

まずは牽制だ。彼女が俺のことを探っている可能性がある。

「……そうですね。私はエルフです。エルフは他者に肌を見せません。それは周知の事実です。ですので、私を見た人は大抵エルフだと思うでしょう」

……エルフって他者に肌を見せないのか。だから全身を隠す服を着ている。周知の事実らしいが初めて知った。


「それだけですか?」

エルフであることは気にしていない。ならば魔法のことだろう。しかし、ここから踏み込んでいいのか分からない。俺の疑問は晴れるかもしれないが、エゴで彼女を傷つけるかもしれない。

「ユイトさん。正直にお願いします。私は事実を知りたい。他に気づいたことはありませんか?」


「……アーレさん。あなたは魔法が使えませんね?」

4日前に言えなかった言葉が出た。【アナライズ】からの情報から察するに使うことはできないはずだ。

「わかってしまうのですね……私は魔法が使えません。1つすら使えません」


「では、回復魔法は?」

魔法が使えない。彼女は確かにそういった。しかし、俺は彼女が回復魔法を使うのを見ている。あの魔法は何だったのか。


「今回の相談はそのことです」

アーレさんはそういって立ち上がり、いきなり服を脱ぎ始めた。


フードを取り、楚々とした顔があらわになる。耳はピンッと横長でエルフであることを表していた。肌はシルクのように白く、そこにはいくつもの線が赤黒く刻まれていた。


女性がいきなり服を脱ぎ、手で抱えるように胸を隠して対面している状態だというのに、俺の目線は赤黒い線に注がれた。その線はアーレさんの全身を這うように刻まれていて、血管を表しているかのようだった。俺はそれを見たことがある。


「魔法陣……」

つい呟いてしまった。

アーレさんに刻まれていたのは、魔法道具などで見かける魔法陣だったのだ。そのどれもが魔法の発動を表すものであることをスキル【魔法陣】が教えてくれた。


「そうです。私は魔法陣をこの身に刻んで魔法を発動してきました」

アーレさんは裸にも関わらず、恥ずかしがる様子もなく淡々と答えた。


俺は今までのことが全て繋がったような気がした。魔法系のないスキル、それでも発動される魔法、彼女の異様に高いレベル8のスキル【魔法陣】、そして同様に高いMP量、全てがこのことを物語っていた。全身を隠してもエルフならば疑われない。


魔法は珍しいが、魔法道具は普遍的である。それは魔法ギルドがなくても魔法道具協会があることからも明白だ。そして、攻撃魔法や回復魔法の魔法道具ももちろんある。冒険者はそういった魔法道具を駆使してダンジョンを攻略したり、森を探索したりするのだ。


「身体に魔法陣を刻むなんて奴隷紋だけだと思っていました」

「普通はそうでしょう。魔法陣を描くインクの原料は魔核です。正気なら考えません」

この場に暗い雰囲気が流れる。彼女は自分のことを正気ではないといったのも同然だ。


「相談というのはこの魔法陣を直して欲しいのです」

アーレさんに刻まれた魔法陣は所々途切れており、不完全な状態だった。これでは魔力が通らない。

「それは、俺じゃないとダメなんでしょうか?」

女性の肌に魔法陣を刻むというのは辛い。元の世界風にいえば、初心者に女性に刺青を入れろというようなものだ。


「そうです。秘密を知ったあなただからこそです」

彼女にとってはこのことは最大級の秘密なのだ。それこそ、男性に裸を見せても構わないほどに。


「わかりました」

彼女は真剣だ。こうなったら俺のスキルや魔法を全て活用して彼女を救おう。

「ありがとうございます。こちらに刻む魔法陣の写しがあります。これを見ながら魔法陣を繋いでください。これがインクです」

彼女は紙の束とインクと針を差し出してきた。彼女の表情は暗い。これから来るだろう痛みを想像しているのかもしれない。


「いいえ。私のやり方でやらせてもらいます」

俺は受け取ってから、そういって魔力とイメージを練り始める。

「【デトックス】!」

水魔法を発動させた。俺にとっては身体の中の毒を出すイメージといえばこの言葉だ。少し違う気がするが、イメージが補完されれば構わない。アーレさんの身体から毒が抜けるように黒い霧が抜けていく。


アーレさんの表情は安らかで気持ちが良さそうだ。苦しがる様子はない。しかし、このままでは、身体の魔法陣が抜けただけで根本的な解決にならない。彼女は魔法陣に頼るほど魔法を使いたいのだ。


俺は再び魔力を練る。そしてイメージを固め始める。

(魔法陣を刻み込む……いや、それではきっと痛い。痛くないように魔法陣を刷り込むイメージだ)

俺はイメージを固めた。


「【インストール】!」

無魔法を発動した。

身体の中に入れる必要があったので、俺のイメージに合致したのはこの言葉だ。インクが霧となって、彼女の身体に徐々に入り込み、再び魔法陣が浮かび上がった。しかし、アーレさんはベッドに倒れ込んでしまった。


どうやら無事に成功したようだ。彼女は身体に負担がかかったのか、ぐったりとしている。

「アーレさん。大丈夫ですか?痛みはありましたか?」

アーレさんは疲れた様子でと起き上がった。

「はい……大丈夫です」

ぐったりとしているが、確かに返事をした。そして、魔法に夢中で忘れていた現状を思い出す。


「アーレさん服!服を着てください!」

魔法陣が描かれていても、俺にはエルフの裸は辛い。少し痛々しかった魔法陣が、今はシルクに描かれた模様のようなのだ。そして、端正な顔立ちに、しなやかな身体、そして大きすぎない綺麗な双丘。すべてが目の保養……もとい毒なのだ。


「えっ……きゃあ!」

アーレさんは慌ててベッドの布団で身体を隠すと、顔を真っ赤にしてこちらに視線を向けてきた。

ベッドに赤面した裸の女性がいる。それだけでとても危ない絵面だ。


俺は立ち上がり部屋を出た。

内心は叫びをあげたいくらいの経験だったが、そんなことをして人が来たら困る。俺は自分でも気づかないうちに早足になりながら自分の宿屋に帰った。


身体に魔法陣を刻んで発動するのがアーレの秘密です。

普通そんなことはしないという世界観です。

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