ハーニカの街での日々 四人の冒険者再び
本日三話目です。
ある日
ダンジョンでアイテムを探しているときだった。
ダンジョンの31階で魔法の練習をしていた。ダンジョンの深くは人が来るのが難しいため、魔法の練習にはちょうどいい。でも、そんなことが出来るのは【ワープ】を使える俺ぐらいだろう。
ちなみに30階からは森だ。ただの森ではない。起伏の厳しく、崖がいくつもある構造になっている。崖から落ちる者もいるだろうし、絶壁に追い詰められるものもいるだろう。
そして今も魔法の練習をしている。前方には3メートルはあろうかという熊の魔物が3体いて、こちらを睨みつけている。
魔物の【アナライズ】結果は次のようだ。
名前:アクア・ベアー
魔物
ランク:C
種族:ベアー種
概要:水に適性を持ったベアー。水魔法を扱うことができる。腕力は一般人の10倍はあるとされていて、その攻撃は岩を粉々にする。肉質は旨味が強く臭みがない
美味しそうだ。元の世界でも熊の肉を食う地域はあったが、俺は食べたことない。ぜひとも食べてみたい。
アクア・ベアーがこちらに【ウォーター・ボール】を放ってくる。1体が3個飛ばしてきてなかなかの弾幕だ。
「【ヒート・ウォール】!」
紅蓮の炎に包まれた壁がせり上がって、【ウォーター・ボール】を受け止めて蒸発させた。辺りは熱気に包まれてかなり蒸し暑くなる。
一方向からの【ウォーター・ボール】が効かないと思ったのか、散開して再び【ウォーター・ボール】を放ってきた。
「【ヒート・ウォール】!」
もう2枚【ヒート・ウォール】を追加する。今回は小さめだ。2枚小さな【ヒート・ウォール】を操って【ウォーター・ボール】にぶつける。
激しい爆発が起きて、周囲の熱気がさらに高まる。アクア・ベアーは攻撃が効かなかったことに驚きを隠せないようで、動きを止めてしまっている。
「【アイス・アロー】!」
俺の周囲に氷でできた鋭利な矢が出現する。俺は矢をアクア・ベアーに向かって放った。矢はアクア・ベアーの額を的確に射抜き、3体同時に絶命させた。
「ふぅ……」
俺は息をついてからアクア・ベアーを回収した。美味しそうだから回収しておく。
今回使った魔法には理由がある。出来るだけ相性や環境に合わない魔法を使った。
テンプレに外れず、この世界の魔法にも得意と不得意がある。火には水、水には電気、電気には土、土には風、風には火をぶつけると良い。光と無は得意と不得意がなく、聖と闇はお互いに弱点となる。
だから、今回使った【ヒート・ウォール】は【ウォーター・ボール】に相性が悪いのだ。そして、気温が上がっている中では、【アイス・アロー】が作りにくい。
わざと不向きな魔法を使うことで魔法の練習に利用したのだ。出来るだけこういった不利な状態でも戦えるようにしたかった。
ちなみにローリアは連れてきていない。流石にダンジョンは危険だ。1人でどうにかできないローリアを連れてくるべきではないだろう。
【マップ】を使って新たな敵を探していると、【マップ】に知り合いが写った。エクス、トライ、ザック、アーレだ。あの4人とは縁があるなぁと思ってさらに調べてみると、また彼らは死にかけているようだった。
俺は【マップ】で方角を確認して急行した。
あの4人はカマキリの魔物の群れに遭遇してしまったようで、辺りには10体以上の人ほどの大きさの魔物に追い詰められていた。後ろにはごつごつとした岩が絶壁になっていて絶体絶命といった感じだろう。
俺は魔力とイメージを練る。1体1体倒していたらきっと間に合わない。殲滅できる魔法で倒そう。
「【ヘル・ニードル】!」
土属性の魔法だ。カマキリの魔物足元から無数の針が立ち上り、カマキリたちを串刺しにした。魔物たちはぴくぴくと動いているが絶命寸前だろう。
このまま立ち去っても4人の命に別状はないだろうが、ボロボロの人を見過ごすのは良くない。俺は彼らに姿を現すことにした。
「こんにちは」
俺は挨拶してみた。この前助けた時もそうだったからだ。
「………」
この前は挨拶を返してくれたのだが、今回はその余裕はないようだ。
「すみません。ふざけている場合じゃなかったみたいですね」
「ああ。すまない。あの現象は何だったんだ……?」
申し訳なくなったので謝ったら、エクスさんが正気に戻ったようだ。
「ええ、何だったんでしょうね?」
「……あなたの魔法ですね?ユイトさん」
エクスさんが「現象」といったので誤魔化せるかもしれないと思って恍けてみたが、アーレさんにあっさり看破された。
「そうです。大丈夫ですか?」
流石に同じ魔法使いは誤魔化せないようなので素直に認めてしまった。後で口止めしよう。
アーレさんが身体を覆う服に血を滲ませていたので安否を聞いた。
「あなたはあれほどの魔法を隠していたのですね」
アーレさんは自分の傷も気にせずにそう呟いて黙ってしまった。
「また助けられちまったみたいだな」
そういって快活そうに笑うのはトライさんだ。ボロボロでよく笑えるものだ。
「……はぁ。皆さん一か所に集まってください。」
4人は不思議そうな顔をして一か所に集まった。俺はお人好しなのかもしれない。
「いきますよ。【エリアヒーリング】。」
4人を癒すイメージをする。4人のいる場所が聖なる光で溢れて治癒していく。みるみる内に治療されていき、見える傷は全てなくなった。
「な!?回復魔法か!?アーレ以上じゃねえか!」
魔法が珍しいのはわかるが、そういうこと言うのは失礼だと思う。
「みんなには内緒だよ?」
「ああ。わかった」
素直に了承してくれた。俺的にはネタが通じないのが辛い。
そんなことを考えていると、アーレさんがふらふらと壁に寄りかかってしまった。俺は慌てて【アナライズ】を発動した。
名前:アーレ・プレリーク
種族:エルフ
年齢:170
レベル:30
状態:貧血
ステータス
MP:A
魔力:A
攻撃力:C
守備力:B
魔法攻撃力:A
魔法防御力:C
敏捷力:C
ラック:60%
〈スキル〉
―戦闘―
体術(4)剣術(1)、杖術(5)、
―技術―
魔法陣(8)、演奏(5)、料理(2)、家事(2)、鑑定(2)、手加減(1)、夜目(6)、回避(3)、
―耐性―
毒耐性、麻痺耐性、恐怖耐性、
〈適正〉
演奏、魔法陣、
俺は驚き混乱した。驚いたのは貧血だからではない。きっと血の出し過ぎだろう。カマキリの魔物に斬られたと思えば納得だ。
エルフであることでもない。もちろん驚きはするが、混乱を起こすほどではない。ただエルフに会うだけなら喜ぶだけだろう。
年齢が170の事でもない。エルフが長命なのはテンプレだ。むしろ、エルフが17歳とかならそちらのほうが驚いてしまう。
俺が驚いたのはスキルに魔法がないことだ。彼女は魔法使いのはずだ。俺は魔法を使ったのを見ている。けれど、魔法系のスキルがない。
俺の【アナライズ】が間違っている可能性もあるが、今まで間違いを示したことがない【アナライズ】を俺は信用している。まず、間違いということはないだろう。
「アーレさん。あなたは……」
言葉にしかけて俺は止める。他の人もいるところでいうべきではないだろう。
「……アーレさんはたぶん血の出し過ぎですね。ご飯を食べてしっかり休めば大丈夫でしょう。」
俺は症状だけ伝えることにした。周りの3人は安心した様子だ。
「今日は送ります。皆さん絶対に今までのことやこれから起こることは内緒にしてくださいね?」
俺は全員が頷いたのを見てから【ワープ】で全員をダンジョンの1階に転移させた。4人とも驚いていたが、すでに大規模な殲滅魔法や広範囲回復魔法を見せてしまったから今更だろう。
「命の恩人の秘密を喋ったりしませんよね?」
最後に念を押した。冒険者はお喋りだ。特に珍しい体験や自分の冒険譚は話したがるのがテンプレだ。この念押しは必要だろう。
俺はアーレさんをお姫様抱っこで抱えてダンジョンを抜け出した。1番疲労しているのがアーレさんだからだ。他意はない。
俺は4人を泊まっているという宿屋まで送って別れた。ちなみに、もちろんアーレさんだけ別室だった。
アーレに魔法のスキルがないのに、魔法が使える理由は次回分かります。
アーレのステータスは後日変更する恐れがあります。




