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異世界魔法で曲芸士!  作者: 常世 輝
ハーニカの街
25/87

ハーニカの街での日々 メリーとの依頼

本日二つ目です。

ある日


「おはよう!ユイト!」

 挨拶をしてきたのはメリーだ。昨日、メリーが俺に一緒に依頼を受けようと誘ってきたのだ。

「それじゃ行こうか。ローリア。すまないけど今日はお留守番だ」

ローリアには昨日のうちに話してある。危険を伴う依頼には連れていけない。

「はい。行ってらっしゃいませ」


 「今日はダンジョンで依頼だっけ?」

どの依頼を受けるかはダンジョンで討伐依頼をすることだけ決まっている。ダンジョンでは魔物が増えすぎるたり、下層からたまに強い魔物が上がってきたりなどの理由で、討伐依頼が出されるのだ。


「これなんだ!」

可愛らしい文字で書かれた紙を差し出された。メリーの書き写しだろう。


〈依頼〉

討伐依頼

ランク:D

依頼内容:ダンジョンの3階でビッグ・アントが大量発生した。早急に討伐してほしい。

報酬:1体につき銀貨2枚


メリーと俺はランクF冒険者だ。ランクDの依頼なので依頼としては不相応で高いぐらいだろう。……最近【ワープ】で下層に一気に潜っていたから、大量発生なんて気づかなかったな。


「難しそうだけど、大丈夫かな?」

「そうだね。でも、ユイトがいるから大丈夫だよ!」

信頼されているようで少し照れてしまう。俺とメリーは助けた日に会っただけなのだが、メリーはなぜか信頼してくれている。


「じゃあ、3階に行く前に2階で連携を合わせようか」

俺はともかくメリーは普通のFランク冒険者だ。連携が取れずにやられたらまずいことになる。

「そうだね!頑張ろー!」


ダンジョン2階に着いた。目の前にはゴブリンがおり、こちらに気づいている様子はない。

「じゃあ、連携の確認をするぞ。まずは俺が出て行って攻撃を受け止める。俺が受け止めている間にゴブリンを斬ってくれ」

「うん。わかった」

俺はゴブリンに気づかれないように小さな声で作戦を話した。いきなり俺が攻撃すると連携もなくゴブリンを倒してしまうだろう。できれば一緒に倒したい。


俺が剣を構えてゴブリンの前に出る。ゴブリンはこちらに気づいて手に持っている棍棒を振り下ろしてきた。

「よっと!」

難なく棍棒を受け止めると俺の横から斬撃がゴブリンを襲う。ゴブリンは胴体を斬られて後退した。俺が間合いを詰めてゴブリンを袈裟懸けに斬った。


「うーん」

「どうしたの?ユイト?」

今回の連携は俺が止めを刺す必要がなかった気がする。メリーに一撃で倒してもらいたかった。メリーの斬撃は力不足で傷が浅かったのだ。


「メリー。この短剣を使ってみてくれないか?俺が受け止めている間にゴブリンの後ろに回って首を一突きしてほしい」

そういって【ミスリスの短剣】をメリーに渡した。

「え?うん。わかった。へーこの短剣軽くて切れ味良さそうだね!」

メリーは適正に短剣があったはずだ。これを機会に短剣に変えたらいい。確か適正【隠密】なんてものもあったから後ろに回れるだろう。


少し歩いて再びゴブリンを見つけた。メリーに合図を出してから俺がゴブリンの前にでる。棍棒を受け止めて、メリーがゴブリンの首に短剣を突き刺した。短剣の刀身はゴブリンの首に根元まで刺さった。


「この短剣凄い!一撃でゴブリン倒しちゃった!」

実際に短剣は凄いのだが、メリーがゴブリンの後ろに回った時ゴブリンは全く気付いていなかった。短剣を逆手に持って突き刺した技量も悪くない。


「よし!じゃあ3階に降りてビッグ・アントを討伐しにいこうか」

「うん!」


3階に降りてきた。3階で【マップ】と【アナライズ】をするとマップ上に赤い点が無数に広がっており、かなりの魔物がいることがわかった。そして、討伐しに来た他の冒険者もかなりいるようだ。


「さてと、出来るだけビッグ・アント1体を相手にしよう。1対2のほうが有利だからね」

「そうだね!」


少し歩くとビッグ・アントが1体出てきた。ビッグ・アントに【アナライズ】を発動する。


名前:ビッグ・アント

魔物

ランク:F

種族:アント種

概要:アント種の中でも最弱。口から吐き出す酸は肌をやけどさせるので注意が必要。甲殻は頑丈で安価なため、新人の冒険者の装備に人気がある。肉は虫特有の苦みがある。


なんか、美味しそうな魔物に出くわしたことがない気がする。ブラック・ボアぐらいだろうか。


「お願いね。ユイト」

「ああ」

小声で言うメリーに短く答えてビッグ・アントの前に出る。ビッグ・アントが噛みついてきたのを剣で跳ね上げる。その隙にメリーがビッグ・アントの首の甲殻の隙間を短剣で斬りつけた。そして、そのまま短剣を引き戻し、ビッグ・アントの首に深々と刺した。


ビッグ・アントは突き刺された苦しみから呻き声をあげて絶命した。


「まずは1体だな」

「うん。やっぱりユイトがいたら大丈夫だね!」

素直な好意は嬉しい。あと照れる。

「じゃあ次いこうか」

「うん!」

照れ隠しで次を急かしたがバレていないようだ。


こうした連携で次々とビッグ・アントを倒していった。数は10を超えただろう。


「アントが2体いるな。どうする?」

前方には2体のビッグ・アントがいた。気づかれていないから後退もできる。

「私が1体で、ユイトが1体でいい?」

【ミスリルの短剣】ならビッグ・アントの甲殻を容易に斬り裂ける。それほど危険はないだろう。

「わかった」


ビッグ・アントに対峙する。人サイズの蟻はよく見ると気持ち悪い。この魔物の甲殻から作られた鎧は着たくないな。


そんなことを考えながらビッグ・アントの首を跳ねてメリーを見た。


そして俺の心臓は飛び上がった。


メリーは尻もちをついていて、今にも襲われそうになっていた。


俺は慌ててメリーとビッグ・アントの間に移動すると、ビッグ・アントに剣を深々と刺した。剣を引き抜いてビッグ・アントを【ウォーター・ボール】で吹き飛ばした。


慌てて振り返ると涙ぐんだメリーが抱き着いてきた。驚いたが余程怖かったのだろうと思って受け止めて頭を撫でた。抱きしめる力はなかなか強い。


メリーは隠れて一突きすればよかったんだろうけど、きっとビッグ・アントの前に出てしまったのだろう。


俺も迂闊だったな。俺がいつもビッグ・アントの前に出て、容易に受け止めていたから、メリーも安心して前に出てしまった。


「大丈夫。大丈夫。俺が守るから」

【マップ】を見ても周りから魔物や冒険者が来る様子はない。このまま泣かせてやろう。


メリーが泣き止むのを待って、俺たちは今回の依頼を終えることにした。今回の依頼では12体倒したので大銀貨2枚と銀貨4枚になり、2人で分けて稼ぎは大銀貨1枚と銀貨2枚になった。メリーが気に入っていたので【ミスリルの短剣】はメリーに上げた。


「今日はありがとね。ユイト」

「ああ。こちらこそ」

ギルドで分かれる前に会話をする。


「この短剣高いんでしょ?稼げてないと思うよ?」

「俺は使わないからな。気にったのならメリーが使ってくれ。俺だと思って大事にしてくれよ?」

メリーに気を遣わせないように冗談で返した。


「えへへ。そうだね。ありがとっ!」

そういってメリーは俺の頬に口づけをした。呆気にとられている俺を置いてメリーは走って行ってしまった。


今回はメリーがだいぶヒロインしてくれました。

メリーは明るく元気な獣人族の女の子です。


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