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異世界魔法で曲芸士!  作者: 常世 輝
ハーニカの街
20/87

ローリアとの生活

宿屋の1階に降りて食事をする。1階の奥の席で、俺にとってはいつもの席だ。俺とローリアは向かい合わせに席に座り、俺たちの前には2人分の食事が並んでいる。


「さぁ食べようか」

今晩はステーキとスープとサラダとパンだ。ステーキは処理が上手いのか臭みがなくて、噛むとじゅわりと肉汁が溢れる。硬いパンはスープでふやけさせると美味しい。サラダのドレッシングも味わい深い。


「ローリアも食べな?一緒に食べたほうが美味しい」

ローリアは食事に手を付けていない。奴隷は許可があるまで食事に手を付けない。ここでもテンプレは適用されるようだ。嫌なテンプレだ。


ローリアは恐る恐る食事に手を付けた。小さく切ったステーキを小さな口で食べる。少し咀嚼すると目を輝かせて表情を緩ませた。こういう顔をさせてあげたいな。

見過ぎてしまったのか、俺に気づいて顔を引き締めてパンを黙々と食べ始めた。それでも口元が緩んでいるのが微笑ましい。


ミナがこちらをチラチラと見ているのを感じる。ローリアが気になるのだろう。ローリアの見た目はミナより少し高いくらいだけど、友達になれるだろうか?でもローリアは14歳だから難しいかもな。


「美味しいかい?」

見ればわかるけど話のきっかけ作りだ。

「はい。こんなに美味しい食事は初めてです」

地雷をまた踏んだのかと思ったけど、表情と声色は少し良いから大丈夫だったのだろう。


「……ご主人様は冒険者なんですよね?」

ローリアが初めて話を振ってくれた。恐る恐るだけどいい傾向だろう。

「ああ、でも最近なったばかりだけどな。だからFランクなんだ」

「そうですか。かっこいいです」

そういうローリアの表情は硬い。明らかにかっこいいとは思っていないだろう。主人を褒めることは奴隷としての処世術なんだろうな。


食事も終わり、ミナに食事のお礼を言ってから部屋に戻った。



「じゃあ寝ようか」

俺はそうローリアに言う。ローリアはビクリッと肩を震わせた。俺が照明の魔法道具を消すとローリアはゆっくりと貫頭衣を脱ぎ始めた。


月明かりに照らされた身体は痩せすぎていて煽情的ではない。むしろ、俺はもっと食べさせてやりたいと心配になるくらいだ。恥ずかしそうに身体を抱えてこちらをじっと見つめてくる。俺の行動を待っているのだろう。


「ローリア、服を着なさい。これは命令だ」

 ここでもテンプレが守られるようだ。奴隷にとって寝るということは夜伽をするということなのだ。その気がない俺にとっては嫌なテンプレだ。


 ローリアは急いで服を着て立ち尽くしていた。浮かぶ表情は困惑だった。どうしたらいいのか分からないのだろう。


 俺はローリアに目線を合わせる。

「ローリア。ベッドは1つしかない。すまないけど一緒に寝てくれるかな?大丈夫。子供を襲ったりはしない」

 部屋にベッドは1つしかなく、床に寝かせるのは俺の良心が痛む。ローリアは人族の子供を装っているからこの言い訳がいいだろう。


「……はい」

 俺の真意を確かめるようにじっと見据えて短く答えた。


「これからも夜伽の必要はない」

 ローリアは俺の発言に目を見開かせて、小さく頷いて答えた。奴隷としての仕事の1つだろうから驚くのも無理もない。


「じゃあ、寝ようか」

 俺とローリアはベッドに横になった。ローリアは小さく丸まっていて少し怖がっているようだ。好きでもない男とベッドに入るのは辛いだろう。


 しばらくするとすやすやと寝息が聞こえてきた。奴隷として買われて色々と気苦労があったのだろう。


「おやすみ。ローリア」

 俺は自分に【スリープ】という無魔法をかけて眠ることにした。




「おはようございます……」

 俺はいつも通り起きて瞼をこすった。

「おはようございます。ご主人様」

 ローリアが俺に挨拶をしてくる。気持ちの良い朝だ。誰かに返事をされてこそ挨拶だよね。


「おいで、ローリア」

 ローリアに手招きする。恐る恐る近づいてくるローリアの頭に手を乗せて撫でる。

「【クリーン】、【コンディショナー】、【フレグランス】」

 【クリーン】の魔法の光が俺たちを包んで綺麗にして、【コンディショナー】の魔法が髪の状態を整えて、【フレグランス】の魔法が暖かみのある太陽の香りをつけた。

いきなりの魔法でローリアは驚いている。髪がさらさらと揺れていて可憐だ。


「よし!これで準備はいいか。ローリアは大丈夫?」

 ローリアはこくりと頷いて答えた。


 ローリアの手を引き、1階に降りて食事をする。


「今日は街の外に出て魔法の練習をしよう」

 ローリアはやはり信じられないのだろう。こちらを見つめる視線には力がない。魔法を使える人はこの世界では一握りだ。信じられないのも無理もない。


 ローリアと手を繋いで宿屋を出て街の外に向かう。街を出るときにイーニアさんにローリアについて聞かれた。お礼として奴隷を貰ったと答えると、訝しい顔が納得したような顔になった。今日は特に疲れている様子はなかったのでそのまま別れた。


 俺は【マップ】を使って人や魔物がいない場所を調べて移動した。人と魔物がいなく、周りからの見通しの悪いキリの森にすることにした。


 ローリアは森が怖いのか少しそわそわしている。安全は調べてあるから我慢してもらおう。ローリアの手を放して距離を開けて、ローリアに振り返る。


「じゃあローリア。魔法の練習を始めようか」


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