復讐
瞼を開く。
目の前には木造の天井が見えた。一風変わった機械のようなものが光源になっている。どこかの家の中にいるようだ。
身体が勝手に起き上がった。激しい怒りのようなものが込みあがってくる。身体が家の出口へと向かう。自らの意思で身体を動かそうとしても、まったく反応がない。
身体を貸すということは、こういうことをいっていたのだろう。
家の中には3人の死体が倒れていた。魂の言っていた森の民なのだろう。
死体の有様はひどく、袈裟懸けに切られた男性の死体、庇うようにして切られた女性の死体、首をはねられた子供の死体と無差別に殺されているのがわかる。
この有様を見て眉を顰めることすら身体は許してくれないようだ。
俺の身体は外に出た。家は木の上に建っているようで、身体は広場のような空間を見下ろした。
見下ろした先には騎士風の男たちが火を囲んで座っていた。恨みを晴らす相手とは、彼らのことだろう。
(人を殺せっていうのか……)
俺の心は激しく動揺する。裏腹に俺の顔は笑っており、操られていることを再び認識する。
身体から力のようなものが周りに広がるように感覚がした。そして、俺の身体の横を通り過ぎて駆け抜けていく人影が3つ。その人影は、騎士たちに向かって降りて行った。そのスピードは速く、何よりも俺は先ほど倒れていた死体であることに驚いた。
他にも様々な方向から騎士たちに向かっていく人影が見えた。
人影のうちの1人が無防備な騎士の首をはねた。
「な!?て、敵襲!アンデットだ!」
「アンデットだと!?いくらなんでもアンデット化には早すぎるだろう!」
「ちくしょうが!こいつら動きが早え!」
騎士たちは叫び声をあげながら抵抗している。
俺の身体も飛び降りる。着地の衝撃が来ると思い覚悟していたが、身体から力が漏れると、身体は途中で減速しふわりと着地した。
力が抜けたり、漏れたりする感覚は魔法を使う感覚なのだろうと納得した。
再び力が前方に向かって溢れる。目の前には小さな火の玉がいくつも浮かび上がる。ひとつひとつは小さいが、かなりの密度が濃いように見えた。
騎士立ち向かって火の玉が放たれる。火の玉の全てが完璧に制御されていて、アンデットの周りを避けて騎士に向かっていく。
火の玉は騎士に当たった瞬間に業火となり、騎士たちを燃やしていく。
アンデットたちも騎士たちを屠っている。
人を殺しているにも関わらず、罪悪感すらない。
そのことを不気味に思いながらも、身体は勝手に騎士たちに向かって駆け出す。右手に力が集まり、手を握ると片手剣が出来上がって、1人の騎士に向かって斬りかかる。
斬りかかられた騎士は剣でガードしようとするが、剣諸とも騎士を真っ二つにした。
肉を斬る嫌な感覚がするも、人を殺すことに嫌悪感がない。
騎士を真っ二つにしているとき、他の騎士に隙をついて斬りつけられる。
電流のように痛みが身体に走る。傷口に力が集まると、次の時には傷口が輝き、傷を塞いでいた。
そして、斬りつけてきた騎士も斬り伏せる。他のアンデットにも次々と騎士を倒しており、騎士は残り1人となった。
「なんだってんだ!皆殺しにするだけの仕事だって話だろう!こんな危険だなんて聞いてねぇぞ!」
騎士がいらだちを込めて叫ぶ。
こっちも騎士を全滅させるなんて聞いてない!と内心叫んだ。
喚く騎士に向かって身体が勝手に斬りかかる。騎士は手練れらしく、勢いを殺しながら受け流した。
そして、こちらを横なぎに斬りつけてくる。
しかし、俺の身体は受け流されてバランスを崩しているのにも関わらず、足の力だけで跳ねあがった。跳躍によって攻撃をかわす。そして空中で一回転すると、左手から電撃を飛ばし騎士を痺れさせて着地し、振り返りざまに騎士の首をはねた。
騎士たちの全員が絶命した。
アンデットたちがこっちを向く。
アンデットたちは黒緑の髪と瞳の色が印象的だ。全員がこちらに優しい顔をすると、ゆらゆらと集まりだした。もう騎士たちを襲った俊敏な動きはではなく、ゆったりとした動きだった。
再びこちらに向き直り微笑むと、操られていた糸が切れるかのように地面に倒れた。
俺の眼前には黒焦げになったり、斬られたりした騎士たちと全く動くことがなく、安らかな顔をしたアンデットが倒れていて死屍累々の光景が広がっていた。
眼前の光景に眉を顰め、一歩後ろに下がる。
身体には自由が戻っていた。手に持っていた魔法でできた片手剣は消えていた。
周りを見渡してみる。広場のようなところは木々に囲まれており、木の上には何軒か家が建っていた。家はログハウスといった感じで、家と家は橋でつながっていて生活感が出ており、いかにも森の民が住んでいたという感じだ。
これからどうしようかと考える。
眼前には大量の死体があるだけで、どこに行けば街や都市に行けるかわからない。騎士たちの身なりを見ると統一されていて、どこかに属していることがわかる。面倒ごとになりそうなことが分かった。
頭を悩ませていると声が聞こえた。
「やあ、こんにちは。異世界から来た僕たちの英雄さん」
俺はいきなり声をかけられたことに驚いて振り返えった。