自己紹介をしよう
あまりにも話が進まないので今日は2話投稿します。
「これから冒険者ギルドに行くけど、いいかな?」
俺は努めてローリアに優しく話しかけた。
「はい……」
ローリアの表情は暗い。明るい奴隷なんてあまりいるものではないが、出来れば笑顔でいて欲しいと思う。
ローリアの身長は低い。小人族だから俺の腰の少し上くらいしかない。人混みの中を歩くには心もとない。
「ローリア、手をつなごう」
ローリアに手を差し伸べる。ローリアがこっちをじっと見上げが、俺には表情から感情を読み取れない。ローリアがこくりと頷いて俺の手を取った。
冒険者ギルドに着いて、今回は空いていたので早く順番が来た。
「こんばんは,メロさん」
「こんにちは。どのようなご用件ですか?」
仕事人のメロさんは隣のローリアは気にしないのかな。
「依頼の報告に来ました」
そういってギルドカードと薬草を2キロほど渡した。メロさんはギルドカードを受け取り,依頼を確認する。
「かしこまりました。薬草ですね」
メロさんが薬草の確認を始める。
「そちらの子は誰なのかしら?」
メロさんは薬草を確認しながら質問してきた。
「助けた奴隷商人に貰いました。ローリアといいます」
俺はメロさんに事の成り行きを話した。詳しくは話さずに、たまたま奴隷商人を助けたこと、お礼に奴隷を貰うことになったこと、そしてローリアを選んだことだけを話した。
「そう、その奴隷商人は良い噂は聞かないわ。気をつけなさい」
「ありがとうございます」
アドバイスをくれたメロさんに素直にお礼を言った。
「あと奴隷だからって乱暴は駄目よ。同じ人間で道具じゃないんだから」
「もちろんです。大切にしますよ」
薬草からは目を離さないが、そういう声は少し力強く感じた。メロさんは奴隷制度が嫌いみたいだ。
「確認しました。薬草2キロです。少々お待ちください」
そういって奥に行って戻ってきたメロさんの手には小袋があった。
「銀貨4枚です。ご確認ください」
そういって小袋を渡された。確認すると銀貨が5枚だった。顔を上げてメロさんを見ると、手招きをしてきた。
「私からお小遣いよ。ちゃんとその子にも食べさせるのよ。」
メロさんはそう囁いた。メロさんは優しくローリアに微笑んでいた。話が聞こえていなかったローリアは少し困惑している。
「ありがとうございます」
俺も周りを気にして小さい声でお礼をいってギルドを出た。
「ローリア。次は宿屋に行くよ」
ローリアの手を取って宿屋に向かう。俺が話しかけないとローリアは話さない。答えも簡潔で会話が広がることはなかった。
「おかえりなさい!」
宿屋に着くとミナが元気に迎えてくれた。ローリアとは対照的に感じる。ローリアにもこの子のように笑ってほしい。
「ああ、ただいま。もう1人増えるんだ。いくら払えばいいかな」
返事をして、ミナに目線を合わせて質問した。
「はい!少し待ってください。お母さんを呼んできます!」
ミナがパタパタと走ってニーナさんを呼んできた。
「あらあら。同じ部屋でいいのね?じゃあ計算するわね」
「はい。あとローリアの食事は俺と同じ食事にしてください」
ニーナさんに俺と同じ食事を用意することを頼むと、おっとりとしたニーナさんが手早く計算してくれた。追加分を払って部屋に戻ることにした。
「ミナの恋路は前途多難ね~」
そんなニーナさんの声が聞こえてきたけど、聞こえないふりでいいだろう。そんな事実はないのだから。
「さあローリア。ここが俺たちの部屋だ」
ローリアに部屋に入るように促した。ローリアの表情は暗い。この子の明るい表情はいつ見られるのだろうか。
「ローリア。まずはお互いに自己紹介をしようか」
お互いを知るためにはまずは自己紹介だ。ローリアが小人族なのも言いやすいようにしたほうがいいだろう。
「まずは俺からだな。俺の名前はユイトだ。人族で15歳。冒険者と曲芸師をしている魔法使いだ。好きな食べ物は甘いものだな。お菓子なら果物を使った酸っぱいのも好きだ。趣味は……そうだな。楽器を弾くことがあるかな」
俺は自己紹介してローリアを促した。
「……私はローリアといいます。人族の7歳です。ご主人様の奴隷です。好き嫌いはありません。なんでも食べます」
ローリアは小人族で14歳だ。小人族であることを隠して、年齢も自分の身体に見合った7歳にしているのだろう。
なんでも食べますっていう紹介に奴隷らしさを感じて泣きたくなるな。ご主人様と呼ばれるのは少し居心地悪い。
「そうか。7歳なのに敬語を使えるなんて凄いな」
そういってローリアの頭を撫でた。子供のふりをするなら子供として扱ってあげよう。
「はい。敬語ができないと叩かれますので……」
暗い顔をしてローリアが答えた。……どこに地雷があるかわからないな。
「そうか。辛かったな。ローリアには魔法を覚えてもらおうと思う」
頭を撫でながらローリアのこれからについて話し始める。ローリアは少し驚いたように目を瞬かせて、すぐに暗い顔になってしまう。
「店では小間使いといったけどあれは嘘なんだ。ローリアは魔法が使えるし、才能もあると思うんだ」
実際に【アナライズ】で見たから魔法の才能を確信している。ローリアは明らかに信じていない。
「【ウォーター・ボール】」
俺は右の掌を広げて人の顔ほどの水の玉を作りだした。ローリアは驚いて目を見開いている。暗い顔よりこういう顔のほうがいいな。
「これは水魔法だよ。空気から水を抽出するイメージなんだけど……これをやってもらいたいんだ」
途中でイメージが伝わらなさそうと思って詰まってしまった。ローリアにスキル【魔力応用】あるから魔力の流れを感じ取れるはずだ。
「いきなり出来るものじゃないし、ゆっくりやっていこう。じゃあ、ご飯にしようか」
ローリアに焦らないように伝えて俺は立ち上がった。
部屋を出る前に俺はローリアに2つ魔法を使うことにした。
「【クリーン】」
ローリアの身体に光が溢れて身体と服が綺麗になる。
「えーと…【コンディショナー】」
水魔法で新しい魔法を発動する。ローリアの長い髪がウエーブを描くように動いてさらさらと揺れる。髪の中の水分を整えるようにイメージしたけど、成功してよかった。女の子は髪が綺麗なほうがいいだろう。ローリアは驚いて目を瞬かせている。
「よし!ご飯を食べに降りようか?」
驚いているローリアの手を引いて2人で1階に降りる。これから少し大変そうだな……