奴隷 ローリア
奴隷商人に向かって走る。奴隷商人に近づいてきた時に、また囮になっていた女性がいたので助けた。女性は左腕がなかったが、血が出ていないことから元々腕がなかったのだろう。
欠損奴隷は奴隷としての価値が低い。元の世界で読んだファンタジー小説でもそうだったが、この世界でもそうなのだろう。
魔物に襲われたとき、価値の低い奴隷は他の奴隷を守るために囮にされる。奴隷商人にとっては商売なので、商品である高価値の奴隷は低価値の奴隷を犠牲にしても守る財産なのだ。損して得取れということなのだろう。
女性を助けてから奴隷商人にむかう。すでに商人の馬車は狼の魔物に囲まれていて、商人はまた1人奴隷を下ろそうとしていた。
商人にはイラつくが奴隷たちは助けなければいけない。
魔物はこちらに気づいて唸りをあげて威嚇してくる。1体は大型でこの群れのボスのようだ。【アナライズ】する。
ウルフ・ロード
魔物
ランク:D
種族:ウルフ種
ウルフ種の中でも下級のウルフ種を率いる。群れのトップであり、群れ規模が大きくなると村を襲って滅ぼすことがある。下級のウルフに命令を出すので、群れだと危険度は引きあがる。肉質は筋が多い。
こいつも美味しくなさそう。
下級のウルフの1体が突進してくる。突進を躱すと、左から別の個体が襲ってくる。斬りつけながら躱す。連携ができていて厄介だ。
俺は走ってウルフ・ロードに向かう。飛び掛かってくる下級のウルフは避けて進む。ウルフ・ロードは引こうとするが、俺は間合いをすぐに詰める。
ウルフ・ロードを一閃。ウルフ・ロードの首をはねる。周りの下級のウルフは動揺して逃げ出した。
指揮をするものがいなくなれば連携は乱れると思ったが、逃げ出してくれて助かった。じゃないと魔法を使ったかもしれない。できれば見られたくないからね。
奴隷商人に向かう。奴隷商人は胡散臭そうな男性で関わりたくない。囮を使ったから俺の偏見もあるけどね。
「いや~ありがとうございました。危ないところでしたよ」
胡散臭そうな笑顔だ。
「間に合ってよかったです」
「ええ、大切な奴隷が無事でよかったです」
この人にとってはさっきの男性と腕を欠損した女性は大切ではないようだ。この人はこいつって心の中で呼ぼう。
「これから街に戻るんですよ。宜しかったら護衛していただけませんかぁ?いえいえ。もちろん、助けていただいたお礼も報酬に乗せましょう」
「わかりました。お礼は弾んでくださいね?」
こいつからならいくら貰ってもいいだろう。俺はそう思って念を押した。
「ええ。わかりました」
商人が特に気にした様子もなく答える。あんまり弾んでくれなそうだ。
俺は護衛をしながら街に戻った。街に入る前に軽くイーニアさんに挨拶をした。奴隷商人にお礼を貰わないといけないので挨拶だけなのが残念だ。
奴隷商人についていて商人の店に着いた。周辺は人気がなく、俺もここら辺に来たことがない。中には奴隷がいるようで、馬車に乗っていた以上に奴隷を持っていることが分かった。
「ここが私の店です。どうぞ中へ」
促されて中に入る。応接間に通されて椅子を促され,大人しく座る。
「この度は、助けて頂きましてありがとうございます」
独特の抑揚が胡散臭さを上げている気がする。揉み手をしているのもあるかもしれない。俺は頷くだけで答える。
「それでお礼なんですけど、奴隷のほうを差し上げたいと思うのですよ」
奴隷商人のお礼は確かに奴隷だろう。ファンタジーの鉄板でもあるか。
「はい」
納得してしまったので返事をする。
「それでは、奴隷をお選びください。申し訳ありませんがエルフはなしで」
エルフは麗しい見た目のため奴隷としての価値が高い。他種族嫌いでなければ奴隷にしたい人は多いだろう。もちろん愛玩奴隷なのだろうが。
「わかりました」
ここで無理にエルフを貰っても恨まれるだけでメリットはないだろう。別に愛玩奴隷が欲しいわけではないのだ。
応接間を出て大部屋に通された。何人もの奴隷が並べられている。男性よりも女性が多い。女性が多いのは、男性は女性を欲しがるものだからだろう。
「こちらにエルフ以外の奴隷をみんな並ばせております。1人お選びください」
【マップ】と【アナライズ】で店の中を調べる。選ばれないように奥に何人か隠しているみたいだ。すこし姑息だな。
「はぁ…わかりました。では、それぞれ説明をお願いします」
説明をしてもらいながら選ぶことにした。合わせて【アナライズ】を使う。【アナライズ】だけでも十分だがいきなり逸材を選んだら不自然だからね。
次々と説明を受ける。そして1人の少女の順番になった。
その子を見て俺は驚いた。この子は木材を拾ってあげた子だ。その時と同じように汚い服を着ている。長い髪の隙間からこちらをじっと見つめている。
そして、その少女を【アナライズ】で調べて驚いた。
名前:ローリア
種族:小人族
年齢:14
レベル:10
ステータス
MP:F
魔力:F
攻撃力:E
守備力:D
魔法攻撃力:F
魔法防御力:F
敏捷力:D
ラック:70%
〈スキル〉
―技術―
料理(2)、家事(1)夜目(6)、運搬(3)、魔力応用(1),御者(4)
―耐性―
毒耐性、苦痛耐性
〈適正〉
全属性魔法、杖
俺が注目したのはスキル【魔力応用】と適正【全属性】だ。俺の強さはこの2つの役割が大きい。相手の魔法にすら干渉できるスキル【魔力応用】と魔法の才能を表す適正【全属性魔法】はかなりのレアスキルとレア適正だろう。
「この娘は……止めといたほうがいいでしょう。買われても失敗して、またうちに戻って来るんですよ。はっきり言って役立たず」
スキル欄に魔法系のスキルがないことから、この子は魔法をまだ出来ないんだろう。どうにかしてあげたいな。
「この子にしよう」
俺は決断した。しかし、ローリアの表情は優れない。
「その子でよろしいんですか?流石にお礼ですからもっといい子を紹介しますよ?」
そういう言う表情とは裏腹に商人の表情は明るい。絶対に安く上がるとか思っていそうだ。
「ええ。小間使いが欲しかったんです」
俺は笑顔で答える。嘘だが相手に利益があるので大丈夫だろう。
「では、手配いたします。おい、お前ついてこい」
俺に待つようにいって、ローリアに乱暴な物言いをする。
「私のものになるので、乱暴は駄目ですよ?」
ローリアに乱暴しないように釘を刺しておく。私のものなんて言いたくなかったが仕方ない。
「ええ。もちろんですとも」
奴隷商人はローリアを奥に連れていった。
「お待たせしました」
奴隷商人がローリアを連れて戻ってきた。
ローリアは地味な貫頭衣に着替えている。髪が少し濡れているから水浴びをしてきたのだろう。
「奴隷紋を刻みますか?それとも隷属の首輪にしますか?」
説明を聞くと、奴隷紋は背中に魔法陣を刻むらしい。刻むのでかなりの痛みを伴うようだ。隷属の首輪は奴隷に首輪をかける。どちらも奴隷の主人に危害を加えないようにできる上に、主人の命令を厳守するようになる。
この奴隷商人は命令することで囮を使うことができたのだ。
「隷属の首輪にします」
俺は隷属の首輪にした。痛いのはかわいそうだ。
「かしこまりました。サービスで隷属の首輪は無料にしましょう」
特別ですよ?っという商人の顔はどこかいやらしい。
「ありがとうございます」
素直に答えて嫌な顔を出さないように努めた。
ローリアに革製の魔法陣が刻まれた首輪がつけられた。首輪は淡く光るとローリアのサイズにぴったりと合った。苦しがっている様子はないので安心した。
「よし!じゃあいこうか?」
俺は出来るだけ優しくローリアに笑いかけた。ローリアはこくりと頷いて答える。
※登場人物の能力は変更することがあります。