新たな依頼
ミナ一家と朝食をしたあと、ギルドを訪れていた。
ゆっくりと談笑しながら食べていたため結局ギルドに着いたのは昨日と同じくらいの時間だ。ギルドは昨日と同じで依頼を受ける人で溢れていた。
俺も混じって依頼を見る。1つの依頼が目に留まって内容をみる。
〈依頼〉
ランク:F
依頼内容:薬草の採集。できるだけ多く欲しい。
報酬:1キロあたり銀貨2枚
この街周辺は森しか知らない。どうせなら街の周りを見てみたい。
依頼を受けることを伝えに受付に並ぶ。今日もメロさんのところだ。
俺の順番になる。メロさんは今日もキビキビとしている。
「依頼を受けに来ました」
「かしこまりました。依頼についてなにか質問がございますか?」
「薬草の群生地はわかりますか?」
【マップ】と【アナライズ】があるから聞かなくてもわかるのだが、取り過ぎた時に弁解できるようにしておきたい。
「かしこまりました。少々お待ちください」
メロさんが資料を取り出してぺらぺらと捲る。
「昨日はありがとうございました。おかげでポーションが大活躍しました」
今日はこっちから話しかけてみる。昨日と同じなら仕事中でも談笑できる時間だ。
「そうなの?良かったわ。買えなかったらどうしようか思っちゃった」
金銭的にポーションを買えないかもと心配してくれたみたいだ。
「そうですね。でも、命には代えられませんから」
「ふふっ、そうね。これからも気を付けてね」
「はい」
こうしてつかの間の談笑タイムは終了した。
「こちらがこの街周辺の地図です。持ち出しはできませんが、ここら辺で薬草が多く採れるようです」
地図の1つの範囲を示しながら説明してくれる。森の近くがどうやら薬草の群生地のようだ。
「ただし、キリの森には入らないことをお勧めします。森もダンジョン同様に魔物の多い場所ですので」
森の名前はキリの森というらしい。かなり大きな森のようだ。
「わかりました。ご忠告ありがとうございます」
そういってギルドを出た。消費した回復ポーションと魔力回復ポーションを買って正門に向かった。
正門に着いた。そこにはイーニアさんが門番をしていた。イーニアさんに魔法を見せたのが随分と昔のように感じる。
「おはようございます。イーニアさん」
気軽に朝の挨拶をかける。
「お、おう。おはよう」
なんだか最初に会った時と違う気がする。もっと覇気があった気がする。
「あの?イーニアさん?ギルドカードを見せるんですよね?」
「あ、ああ。そうだったな」
もしかしたら体調が悪いのかもしれない。覇気がないんじゃなくて元気がないのかもしれない。
ギルドカードを見せて体調が良くなるように魔法をかける。イメージは固まらなかったが、漠然と元気になるように気持ちをこめた。魔力の消費を感じたからきっとしっかり発動しただろう。
「確かに確認した。宿はあたしが紹介した宿にしたのか?」
「はい。【林檎の蜜】にしました。とてもいい宿ですね。ありがとうございます」
素直に宿とお礼をのべる。
「そうか。依頼頑張りな」
「はい!」
良い人だ。会う人みんな良い人で運がいいな。
街の外は西に山、北にキリの森、南に海、東に少し進んだところに川がある。まずは南の海に行ってみる。
街の南の海は魔物が大量に生息している。この街が海の近くであるにもかかわらず、港がないのも魔物がいるからだ。陸でいうところの森のように強い魔物がいるのだ。崖になっているので、魔物が上がってくることはない。
磯の香りがする。崖になっているので景色は良いが、何の変哲もない海だ。大量の魔物がいるのだろうが、見渡しても気配すら感じない。
空間魔法でダンジョンで倒したゴブリンの死体取り出して投げ込んでみる。すると、魚型の魔物が群がってきてすぐに死体は引き込まれ、また静かな海に戻った。
うわーこの世界の海怖すぎるな。ぞっとして顔が引きつってしまう。俺はここら辺の海には入らないことを誓って、森に向かうことにした。
キリの森は俺が出てきた時と同じように鬱蒼としていて暗かった。【マップ】と【アナライズ】を発動する。脳裏に森と森周辺の薬草の群生地が表示される。メロさんに教えてもらった群生地は有名らしく、数人の冒険者がいるようだった。俺は別の群生地に向かった。
俺の向かった群生地はキリの森周辺の東側である。知られていない穴場らしく、大量に薬草が生えていた。大量にあるので時間の限り採集した。まだまだいっぱいあるから、取りつくされて生えなくなることはないだろう。
夕暮れになり帰ることにした。帰る途中で魔物の群れと何人かの人が地図に映った。どうやら魔物に襲われて逃げているようだ。何人かは魔物と動いてないから戦っているのかな?
駆け付けてみると、貧相な格好をした無防備な男性が襲われていた。この人は動いていなかった人だ。無防備なのに逃げる様子がない。
魔物は狼のような魔物だ。【アナライズ】している暇はないので倒してしまおう。剣を抜いて魔物に迫る。魔物の1体を切り捨てると、他の魔物は俺に気づいたようでこちらに飛び掛かってくる。
魔物は体重を乗せて次々と飛び掛かってくるが、俺はステータスに任せて斬って押し返す。攻撃が通じないと思ったのか、それとも怖気づいたのかはわからないが魔物は逃げて行った。
男性に近づく。腕を噛みつかれたのか腕を酷く怪我をしている。
「大丈夫ですか?傷を見せてもらえますか?」
俺は腕を掴んで男性に尋ねる。男性は抵抗しないので、こちらに任せるようだ。
傷口からが血がだらだらと流れている。ポーションをかけて、ついでにバレないように聖魔法で回復しておく。
傷口は瞬く間に回復して傷跡すら残さなかった。男は驚いたような顔をしている。
「下級ポーションで回復するとは、意外と傷は浅かったみたいですね」
ごまかしてみると、男性は少し納得した顔になる。
「大丈夫ですか?」
「はい。でも、俺は奴隷なので何もお返しできないんです……」
無念そうに男性が答えた。
話を聞いてみると、男性は奴隷商人の奴隷らしく、魔物に襲われた際に囮として置いて行かれたようだ。いまだに奴隷商人は襲われているみたいだけど、助けるの止めようかな。
「あの……奴隷の身でこんなことを言えないんですけど、他の奴隷たちも助けてくださいませんか……?きっとまだ囮にされているはずなんです」
男性の目は真剣だ。奴隷商人は最低の人間だと思ったが、奴隷たちに罪はない。助けよう。
「行ってみます。走れないでしょうから、歩いて追って来てください」
男性を残して走り出した。やれるだけのことをしてみよう。