依頼の報告
木曜日ぎりぎりになってすみません。
冒険者たちと別れてずいぶん離れた。そこで森に入って人から見えない場所に移動した。そこで無魔法を発動する。
「【ワープ】!」
身体が消えて想像した場所に現れるイメージだ。場所はメリーと出会ったダンジョンの2階の鉄鉱石の採掘ポイントの隅だ。
身体が光に包まれて目を閉じると周りはすでに森ではなく、ごつごつした岩肌になっていた。どうやらしっかりと成功したようだ。俺が採掘した後もある。
初めて転移魔法が成功したことに喜びながらダンジョンを駆け上った。あっという間に出入り口に着いて、ギルドに向かった。外は夕方でダンジョンの中での時間の感覚があっていたことに笑みがこぼれた。
ギルドに着く。ギルドの中は依頼を終えた冒険者たちが依頼の報告や依頼達成の喜びで酒盛りしていた。俺は依頼達成の報告をするために受付に並ぶ。今回はメロさんがいないみたいなので、1番空いていた若い男性の受付に並んだ。
俺の順番が来る。
「今日はどういったご用件でしょうか?」
男性の受付が要件を訪ねてくる。真面目そうな人だ。ギルドの受付というのはこういう人がやるものなのかもしれない。
「依頼の達成を報告しに来ました。あと魔核の買い取りをお願いします」
ギルドカードを見せてから、そういって依頼内容を伝えた。そして10キロの鉄鉱石を道具袋から取り出した。
「そちらの依頼ですね。少々お待ちください」
少し待つと奥から魔法道具を持って帰ってきた。
「それは?」
「これは鉄鉱石の純度を測定する魔法道具です。【サーチャー】の1種です」
話を聞かせてもらうと測定に使うものを【サーチャー】というらしい。これは鉄鉱石の【サーチャー】らしい。ちなみに元の世界でもあるコンロなどの機械は【コンロ】で通じる。スキル【異文化言語】の恩恵だろう。
「いい純度ですね。これなら倍の量と質を踏まえて銀貨8枚です」
再び奥にいって小さな袋をもって帰ってきた。
「お確かめください。」
確かめてみると確かに銀貨が8枚入っていた。
「次に魔核の買い取りをおねがいします」
ダンジョンの1階から10階の魔物の魔核を取り出した。事前に魔物から取り出しておいたのだ。20個ぐらいあって、どれも透明に近い赤をしていて濁っている。
「Fランク冒険者にしては多いですね、さては溜め込んでいましたね?」
的外れな見解を言われたので苦笑いをしてお茶を濁した。再び別の【サーチャー】を持ってきた。
「純度が低いので銀貨5枚ですね」
銀貨を受け取って依頼と買い取りは終わった。
「ユイト!」
帰ろうとした俺に声がかかる。振り向くとメリーが立っていた。
「メリー、体調は平気?」
メリーは今日ダンジョン出た時は疲れ切っていた。見たところ大丈夫なようだが。
「うん!宿に戻って寝たから大丈夫だよ!」
どうやら元気いっぱいのようだ。明るくて可愛らしいミナに少し似ている。ミナはあまり落ち込む姿は想像できないけどね。
「どうしてここに?依頼の報告?」
俺はとりあえず聞いてみた。
「そう!さっき依頼の報告をしてユイトを待ってたの!お礼を言いたかったんだ。ありがとね。えへへ」
ニコニコと笑う。耳はピコピコ動き、尻尾はブンブンと揺れる。狼人族の可愛らしさを詰め込んだ姿がメリーなんじゃないかとすら思う。
「そうか。待たせちゃったかな」
可愛らしい姿にどぎまぎして無難な答えを返してしまった。少しにやけしまった気がする。
「それでね。今度一緒に依頼受けよ?1回だけでいいから!」
魔法のことがバレたくないからあまり一緒にパーティーと組みたくないけど1回くらいならいいかな。決して上目遣いで頼まれて可愛いからではない。断じて。
「いいよ。一緒に受けよう」
「本当!?やったー!」
ぴょんと跳ねて喜びを表現する姿はこちらも笑顔になってしまう。
……やっぱり可愛い姿に負けたからです。嘘ついてごめんなさい。
「じゃあ、俺は【林檎の蜜】って宿に泊まっているから、そこに連絡してくれるかな?林檎の看板が目印なんだ。それとも俺がメリーの宿に行こうか?」
「ううん。私が連絡するね。【林檎の蜜】って大通りにある宿だよね?絶対連絡するから待っててね!」
そういうとギルドを先に出て行った。すぐに左に曲がったところを見ると向かう方向は別のようだ。一緒に帰れないかと思ったけど無理だったみたいだな。
俺は1人で帰路に着いた。歩いていると奴隷の子が目についた。奴隷の少女を見てからどうも奴隷が目につくようなってしまった。かといって何ができるわけでもない。ダンジョンではなんでもできる気がしていたが、そんな自分が情けなくなった。
宿屋に着いた。
「あ、おかえりなさい!」
料理を運んでいるミナが笑いかけてくれる。どうやらミナの晩御飯には間に合わなかったようだが、ネガティブになっていた俺の心を癒してくれた。
「ただいま。俺にも食事をお願いできるかな?」
目線を合わせて食事を頼む。
「はい!あ、かしこまりました!」
俺は言い直す姿にほっこりとした。訂正する姿も年相応の可愛さがある。
俺は食事を済ませて自分の部屋に戻った。魔法の練習をして早めに寝ることにした。ダンジョンでは意外に疲れていたようですぐに寝てしまった。
「ん。おはようございます……」
起きて【クリーン】と【フレグランス】を使った。今日は爽やかな柑橘系の香りだ。
食事をするために1階におりる。結構早い時間だったみたいで誰も宿泊客がいなかった。その代わりミナが朝食を食べていた。今日は家族で食べているようだ。初めてミナのお父さんをみる。
「おはようございます!」
こちらに気づいたミナが挨拶をしてくる。
「おはよう。ミナ。おはようございます」
俺はミナに挨拶を返した後にミナの両親に挨拶する。
「おはようございます。ミナの父のミルです」
俺的には女性っぽい名前だなと思う。名前と裏腹に低音な声でダンディーだ。
「おはようございますぅ。母のニーナです」
ニーナさんは眠いのか、おっとりに磨きがかかっている。
「初めまして、ユイトです」
「あ、おにーちゃん。ユイトっていうんだ」
ミナが思い出したように呟いた。そういえば名乗っていなかった気がする。
「改めてよろしくね。ミナ」
「うん!ユイトおにーちゃん!」
病院にいたときもそういう風に俺を呼ぶ子もいたなと思いだす。その子の将来の夢はパティシエだっけか。なつかしい。
「君がミナのいう優しいおにーちゃんか。ミナが世話になっているようだな。ありがとう」
渋い声でお礼を述べてくる。
「おとうさん!?ないしょ!!ないしょ!」
「はっはっは。そうだったか!すまないなミナ」
こうしてミナの家族に知り合った。おまけに一緒に食事をすることになった。美味しかったけど、ニーナさんが俺とミナの関係を邪推しているようで居心地が悪かった。