まだまだダンジョンは出会える
現場に到着すると、そこにいたのは4人組のパーティーだった。3人の屈強な男たちに1人の怪しげな格好をした魔法使いのパーティーだ。
魔物は二足歩行の豚、所謂オークだった。【アナライズ】で調べてみる。
オーク
魔物
ランク:C
オーク種
オーク種の中で最も弱い。繁殖力が高く、非常に食欲が旺盛で雑食。そのため丸々とした個体が多く、体重を乗せた攻撃は脅威となる。肉質は普通の豚より筋肉質で硬い。
うん。美味しくなさそう……
じゃなかった。オークはすでに2体だがパーティーはすでに満身創痍といった感じだ。
俺は剣を抜いて魔力を帯びさせる。そして、オークに向かって走り出す。
1体のオークの首を跳ねる。もう1体のオークは驚いている間に袈裟懸けに斬りつけた。あっさりと始末されたオークに冒険者たちは驚いているようだ。
「えーと、こんにちは」
茫然として驚いている冒険者たちに挨拶してみた。
挨拶は大事だよね。話すことなかっただけだけど。
「お、おう。こんにちは」
まさか挨拶されるとは思わなかったのだろう。固まっていた冒険者の1人が困惑した様子で挨拶を返してきた。
「後ろの2人は無事?」
「はっ!しまった!大丈夫か!」
冒険者は後ろを振り返って倒れている冒険者に話しかける。
倒れている冒険者が1人、壁を背にして座っている怪しげな格好をした魔法使いが1人、さっきまで俺の挨拶に固まっていた冒険者が2人である。
倒れている冒険者は手をひらひらして答える。その答える様子とは裏腹に表情は苦痛に満ちている。
「毒が回ってやがる。くっそ!最後にお前のかーちゃんのミートパイが食べたかったぜ……」
「俺のかーちゃんのミートパイは食えたもんじゃねえだろうが!?こんな時に馬鹿言ってんじゃねぇ!アーレ!魔法でどうにかできないのか!?」
なんだこのノリは……いつもこんなことをしているのだろうか。不謹慎な状態にもかかわらず笑みがこぼれてしまう。
アーレと呼ばれた怪しい魔法使いは首を横に振る。
アーレはフードをかぶった上に口元も布で覆っている。服装もローブで全身を覆っており手袋をつけている。露出しているのは目元と白緑の長く綺麗な髪ぐらいだ。
「すみません。魔力が枯渇していて解毒ができません」
凛とした女性の声だった。聴いていて心地がいい。
「魔力回復ポーションがありますけど使いますか?」
俺は提案した。魔力がないなら回復すればいい。
「本当か!?くれ!いくらでも出す!」
冒険者はかなり焦った様子で俺からポーションをひったくった。
「アーレ!飲んで解毒してくれ!」
冒険者はアーレにポーションを渡した。アーレは後ろを向いて口元の布を解いてポーションを飲み干した。
「いけます。【癒しの水の力よ!この者を癒し、浄化せよ!【アンチポイズン】!】」
魔法の赤い光が冒険者の身体を包み、冒険者を癒していく。冒険者の表情は厳しいものから安らかになった。
初めて他人が魔法を使ったのを見た。魔法はすごいな。癒しの光はひらひらと零れ降りていて幻想的だ。やはり魔法は美しい。
「人が魔法を使うの初めてみました!」
俺は興奮気味にアーレさんに話しかけた。
「ええ。私も【魔力剣】なんて初めて見ました」
アーレさんの言葉に俺はポカンと口を開いた。なんのことだろうか?
「あなたの使ったのは【魔力剣】ではないのですか?」
表情はわからないが、そう聞いてくる声色は訝しげだった。
「さっきのですか?最近できるようになってきたんだけど、成功してよかったです」
剣に魔力を帯びさせたことだと気づき、嘘半分で答えた。100%できるからね。あれ【魔力剣】っていうんだな。
「熟練者なのですね」
これでアーレさんとの会話が終わる。なんだか話を逸らされた気がする。
アーレさんは他の冒険者のもとに向かい満身創痍だった冒険者を魔法で癒していく。そして再び戻ってきた。
「もう1本魔力回復ポーションを持っていませんか?」
声色は少し申し訳なさそう。悪い人ではないようだ。
「魔力回復ポーションはありませんけど……」
そういって俺は未だに治っていない冒険者に近づく。
「普通のポーションならあります」
俺は取り出した回復ポーションを渡す。
「下級ポーションじゃねえか。まあ、ありがたいけどよ」
それを受け取った冒険者がポーションを見つめて愚痴を漏らした。冒険者が飲み干したと同時に聖魔法をかける。
「うお!?これ本当に下級ポーションか?身体が治ったぜ!」
「高いんですから、お返し期待してますよ?」
俺は確認するように身体を動かす冒険者にいった。冒険者は顔を少し青ざめさせた。
「お、おう。任せとけ!」
そういう冒険者は少しから元気だった。まあ本当はただの下級ポーションだけどいいかな。
「私の名前はユイトです」
全員の体調が万全になったので自己紹介しておく。
「おう。俺はトライ。あっちの丸いのがザックで、1番でかいのがエクス、そこの女がアーレだ。全員Bランク冒険者だ」
毒で死にかけていたのが双剣使いのトライさん。
丸顔で屈強であるが低身長のアックス使いのザックさん。
屈強ででかい体躯の大剣使いのエクスさん。
解毒の魔法を使った怪しい格好の魔法使いのアーレさんか。
バランスの良さそうなパーティーだな。
「へえ。よろしくお願いしますね。」
挨拶しながらこの後どうしようか考える。ピンチそうだから駆け付けたもののなぜ1人でここにいるのか聞かれたら困る。きっと1人でダンジョンの奥に潜るのは非常識だ。
かといってここに置いていくのも気が引ける。きっと回復手段はアーレさんの魔法ぐらいだろう。
「皆さんはこの後どうするんですか?」
「俺らは他の冒険者と来ているんだ。そいつらと合流するよ」
脳裏の【マップ】であたりを確認して他にも冒険者が遠くのほうにいることに気づいた。先にこっちの パーティーを見つけて急いできたから気づかなかったな。
「そうですか。俺も仲間が待っているので戻ります。こっちにはトイレしに来ただけなんで」
俺は彼らが安全そうなのを確認したので平然と嘘をついた。
「あーそうか。すまねぇ。2本もポーション貰っちまって」
「いいですよ。お返し奮発してくださいね?【林檎の蜜】っていう宿に泊まってますんで」
俺は言質をとってあるとばかりに悪い笑顔でいった。顔を引きつらせる屈強な男たちの表情が面白い。
「冗談です。大したものはいりませんよ。皆さんが無事に帰れることを祈ってます」
俺はクスクスと笑ってから来た方向に戻った。クスクス笑うのはクルスさんっぽいな、なんて思ってまた笑みがこぼれた。
ここから毎週木曜日の週1更新になります。更新忘れないように努めます。