ダンジョンのボス
「10階か…」
ダンジョンの10階まで降りてきた。10階は入る前に仰々しい扉があり、扉を開くと中は円形の大部屋がある。そして大部屋の中心にはボスがいる。
中に入ると扉がひとりでに閉じる。
「ブモォオオオオオオオ!!」
魔物は人間の3倍はあろうかという巨体で、それに見合った石斧を持っている。ボス部屋の魔物は毎回変化する。今回はミノタウロスのようだ。俺は腰の剣を抜く。
ミノタウロスの巨体が俺に迫る。ミノタウロスが石斧を振り下ろしてくる。
俺は横に跳んで石斧を躱す。石斧は地面を砕き、まるで地面が爆発を起こしたような衝撃だ。
あの石斧に剣を合わせてもいいが、俺はともかく剣が折れそうだ。剣を強化しようと思い剣に魔力を通す。剣から魔力が漏れ出てしまってうまくいない。
ミノタウロスが石斧を横なぎに振ってくる。後ろに跳んで避ける。
俺は剣に魔力を込める。今度は魔力を通さずに、剣を覆うようにして魔力を込めた。剣が魔力を帯びて淡く光る。
これはこの世界で【魔力剣】という熟練者のみが至れる技なのだが、ユイトが知るはずもない。
ミノタウロスが振り下ろしてきた石斧に合わせて剣を振るう。剣と石斧が合わさるとあっさりと石斧が砕けてしまった。
ミノタウロスは石斧が砕けた動揺から動きを止める。その隙に剣を振り上げてミノタウロスの強靭な左腕をはねる。切り離された左腕は宙を舞った。
「ブモォオ!?」
ミノタウロスは痛みと驚愕から叫びをあげる。俺は振り上げた剣をそのまま斜めに振り下ろした。ミノタウロスの身体は抵抗がないかのように斬れ、ミノタウロスは崩れ落ちた。
「はぁ……」
魔物とはいえ殺したにも関わらず嫌悪感がない。森の民の集落で騎士たちを殺したときも嫌悪感がなかった。俺にはすでに殺しに抵抗がないようだ。森の民の秘術は強力だが恐ろしいな。俺を繋ぎ止めているのは倫理や道徳ぐらいかもしれない。
ミノタウロスが消えてドロップアイテムの角が残る。どうやらボス部屋の魔物は消えてしまうようだ。
そして同時に扉が開いた。どうやらボスを倒すまで出入りできないというテンプレは守られるようだ。
11階におりる。ダンジョンの内装が変化し、洞窟のような岩肌を光る苔が覆っている。照明の魔法道具がないのでかなり薄暗いが、俺にはスキル【夜目】があるから問題ない。
ダンジョンの内装が変わったことに俺は興奮した。俺にとって内装の変化はテンプレであり、楽しみにしていたことの1つだった。1階から10階までの岩肌が露出していて、ただの洞窟を思わせる内装が少し変化しただけでも俺には楽しかった。
いままで【マップ】と【アナライズ】を使って最短ルートを降りてきた。途中の魔物は通り抜けざまに切り捨てて回収だけした。そのためここまで2時間ほどしか経過しておらず、早朝から潜っていたために未だに午前だった。
「さて、いくか」
11階、12階…どんどん降りる。途中で1体の魔物を【アナライズ】してみた。
ホブ・ゴブリン
魔物
ランク:E
ゴブリン種
上位のゴブリン。強く成長したゴブリンといわれている。群れを作ることが多いので、1体のホブ・ゴブリンを見たら複数いると考えたほうが良い。肉質は悪く、料理に向かない。
ホブ・ゴブリンを【アナライズ】をしたときに俺は溜息をついた。周りには1階から10階でみた魔物もおり、Fランクの魔物も混じっているだろう。これは長くなるだろうなぁとため息をついた。
再び【マップ】と【アナライズ】を使用してダンジョンを最短ルートで降りていく。
常人では考えられないスピードで降りているが、ユイトは常人のスピードを知らないため、気にしないし気にできない。
ダンジョンの20階にたどり着いた。再び仰々しい扉を開く。中央には巨大な象がこちらを睨みつけていた。俺にはテレビで見たマンモスに見えた。中に入ると扉が閉じる。
象がこちらに向かって【ウォーター・ボール】をいくつも飛ばしてくる。魔法が使えるようだ。膨大な質量の水の塊がこちらに飛んでくる。
「【ウォール】!」
俺は土魔法で壁を作る。【ウォール】に【ウォーター・ボール】が当たると部屋を揺るがすほどの衝撃が走り、水が弾けて飛沫を上げる。
俺は象の飛ばす【ウォーター・ボール】の2つにスキル【魔力応用】を使う。【ウォーター・ボール】は完全に俺の制御下になり、2つの水の塊が俺を中心にふわふわと回る。 スキル【魔力応用】は相当のチートのようだ。
更に俺はふわふわとした【ウォーター・ボール】に魔力を込める。水は一瞬にして巨大な氷となった。
俺は【ウォーター・ボール】飛ばす象にむかって巨大な氷を飛ばす。氷は【ウォーター・ボール】に当たるが、それをものともせずに突き抜け象にあった。
「オオオオン!!」
巨体な象が吹き飛び唸り声をあげる。
「【サンダー・ボール】!」
象に向かってさらに雷魔法を飛ばす。膨大な電力を秘めた1つの玉が象に飛ぶ。状態をくずした象に当たり象の身体を焼き焦がす。
象を倒した。
この象はガネーシャというランクAの魔物なのだが、ユイトは知らない。
象のいたところにはドロップアイテムとして毛皮が残っていた。毛皮を回収して再びダンジョンを降り始めた。
21階からは森エリアだった。天井には輝く鉱石があり、太陽のようにあたりを照らしていた。歩ける道もあるが、森からはいつ魔物が出るかはわからない。
俺には【マップ】と【アナライズ】があるから関係ないけどね。
再び最短ルートを進む。流石に森をかき分けたりはしないで道を歩いた。時間はおそらく午後に入ったくらいだろう。
21階、22階…と降りる。23階に着いたときに【マップ】に変化があった。交戦中の4人のパーティーが映ったのだ。
俺は少し悩んだ。接触するか無視してそのまま進むか迷った。迷った挙句、彼らを【アナライズ】してから決めることにした。
そして俺は駆けだした。パーティーの状態が芳しくなかったのだ。1人は魔力枯渇で、1人は毒、2人は満身創痍だった。誰だか知らないけど、状態を知ってしまったからには見過ごせない。
森の道を俺はステータスに任せてひたすら走った。