いざ、ダンジョンへ
「う~ん……おはようございます」
いつものように起きる。病院生活が長かったため早起きだったりする。
寝汗を掻いていたようなので【クリーン】の魔法をかける。寝ぐせも直るとはすごい。
ふと思い立ってもう1つ魔法をかける。
「【フレグランス】」
香水をつけるように魔法で香りを付けた。イメージは石鹸の香り。獣人族とか嗅覚の強い人に配慮してほのかに香るようにした。
まぁ会う予定はないけどね。
部屋を出て一階に降りる。
「おはようございます!」
ミナが挨拶してくる。今日も元気で可愛らしい。
「ああ。おはよう」
簡単に挨拶して席に着く。昨日ミナと一緒に晩御飯を食べた席だ。この宿の奥の席だったりする。
朝食はパンとオムレツとスープだった。少し元の世界の柔らかいパンが恋しい。ミナは忙しなく働いていたので、ミナの母に鍵を渡してギルドに向かった。
ギルドに到着した。
昨日は昼だったために人が少なかったが、今は依頼を受けに来る人で溢れていた。俺もその中の人となり依頼を見てみた。ランクごとに分かれているので、周りにいる人たちもきっとFランクぐらいなのだろう。
依頼を決めて受付にいく。依頼の内容は次のようだ。
〈依頼〉
ランク:F
依頼内容:ダンジョンで鉄鉱石の調達。5キロ以上持ってきてほしい。質と量によって報酬を上げる。
報酬:銀貨3枚
俺にとって報酬よりもダンジョンというのが魅力だった。メロさんに気を付けるように言われたから、ダンジョンにいく大義名分が欲しかった。
受付にはそれぞれ同じくらい並んでいたので、せっかくなのでメロさんの受付に並ぶことにした。知り合いのほうが話しやすい。
メロさんは1人1人丁寧に対応しているようで、列の進みは遅かった。やはり真面目な人のようだ。
メロさんは俺に気づいていたようで、俺の順番が来るとふんわりと微笑んでくれた。
「おはようございます。どのような用件でしょうか?」
できるお姉さんモードだ。俺はそんなことを思った自分を苦笑した。
「依頼をうけます。」
俺は依頼内容を伝えた。
「はい。その依頼ですね。少々お待ちください。」
メロさんが資料を捲り始める。1枚1枚丁寧に捲っている。
「…ユイトさんは私の話を聞いていなかったのかしら?いきなり危ないダンジョンに行くなんて。」
俺に目線を合わせないでメロさんが嫌味を言ってくる。優しいお姉さんモードだ。せっかくの大義名分も無駄だったようだ。
「Fランクの依頼なので大丈夫ですよ。ダンジョンの浅い階層ですよね?」
「でも危ないわ。街の外よりもダンジョンのほうが魔物は多いのよ。」
そして、1枚の紙を取り出した。
「現在確認されている最も浅い鉄鉱石の採掘ポイントはダンジョンの2階です。何か質問はございますか?」
モードが戻っていた。資料を捲っている間なら仕事を優先する彼女の許容範囲内だったようだ。
「生息している魔物の情報はありますか?」
「かしこまりました。調べてみます。」
今度は違う資料の束を取り出して捲り始めた。資料はとても綺麗にまとまっていた。几帳面な人だ。
再び捲っている間に話しかけてくる。
「そういえば、昨日は災難だったわね。」
Cランクの冒険者に絡まれたことを言っているのだろう。
「いいえ、途中で寝ちゃいましたし大丈夫でしたよ。怖かったですけどね。」
怖かったのは嘘。テンプレにテンションが上がったとは言えない。
「あの人はエッボっていうの。本当はいい人だから許してあげてね。私は少し苦手だけど。」
まぁ好きな女性にいい人を演じない男性はいないか。本当にいい人かもしれないけど。
エッボさんは好まれてないみたいだけど。往々にして、好きな人に押すと引かれてしまうものなのかもしれない。
再び1枚の紙を差し出してくる。
「1階と2階に生息する魔物はゴブリン、スライム、ホーン・ラビット、ビッグ・アントが主になります。他にもゾンビなどがいます。」
やはり多くの魔物がいるようだ。聞いたことのあるテンプレ下級魔物に心が躍る。流石に表情には出さないけどね。
「ありがとうございます。早速行ってきますね。」
俺は立ち去ろうとする。
「待って!」
少し大きな声で引き留められる。
「あぁ。え~と、ポーション!ポーションを買っていきなさい。ダンジョンに行く途中で売っているお店があるから。」
魔法でどうにかなると思っていたが、確かに魔法が使えない状態になった時に必要だろう。魔力はいっぱいあるけど枯渇しないとも限らない。
「ありがとうございます。買ってから行きますね。」
本当に親切な人だ。嫉妬されて絡まれるのも頷ける。
ギルドを出てダンジョンに向かった。途中でクスリ屋に入って回復ポーションと魔力回復ポーションと沈黙耐性ポーションを買った。
まだまだお金に余裕がある。手痛い出費にはならなかった。
ダンジョンは街の奥にある。
この街はダンジョンの鉱石や宝石やアイテムで発展した歴史をもつ。ダンジョンあっての街なのだ。ダンジョンの近くは厳重に魔物対策がなされていて、ダンジョン内の魔物が出て来ないようにされている。仮に出てきても、ダンジョンの浅い階層の魔物は弱いので、すぐに討伐される。
ダンジョンの入り口着く。俺のほかにも何人も冒険者がおり、ダンジョンに入る前に検問を受けていた。ギルドカードを見せている。
中にはここでパーティメンバーを探している人もいて、勧誘の声が飛び交っていた。怪しい服装をした人や獣人族もいるようで冒険者はいろいろいることがわかる。
パーティーに入るつもりはない。魔法は珍しいので人前で見せるのは愚策だ。そもそもランクFをパーティーに欲しがるやつは同じランクFくらいしかいない。
俺もギルドカードを見せてダンジョンに入る。ランクFということで気を付けるように言われた。
ダンジョン内は薄暗く、一定間隔に吊るされた照明があるだけだった。ごつごつとした岩肌、ひんやりした空気、魔物の気配。まさしくダンジョンといった感じだ。
テンプレダンジョンに俺の心は乱舞していた。夢にまでみたダンジョンだ。異世界転生のラノベでは切っても切れない関係だ。ファンタジーが好きな俺は興奮していた。
依頼を終わらせて探索しよう!