ギルドで絡まれる
「おうおうおうおう!兄ちゃんよ。俺のメロちゃんに手ぇだすとはなぁ!新参者にしちゃあ態度がなってないんじゃないかぁ?」
無精ひげを生やした男が俺の前に立ちはだかる。男は顔が上気していることから酔っ払っていることがわかる。
俺は周りに視線を向けて助けを求めるが、周りの冒険者たちは目を逸らしている者やニヤニヤと事の行く末を見ている者たちしかいない。メロさんはお姉さんな感じを崩してあわあわしている。
「もしかして、私絡まれています?」
今まで以上のテンプレ展開に俺のテンションは少し上がっていた。だからつい目を輝かせて確認してしまうのも仕方ないよね。周りの冒険者が俺の発言を聞いて笑っている。
「舐めやがって!おい。いいのかぁ?俺はCランクだぜぇ?お前みたいなひよっこが勝てるような相手じゃねえんだぞ!」
どうやら俺は煽っていると思われたらしい。周りの冒険者が笑って、男はさらに憤っていく。
俺は【アナライズ】を発動する。演唱も動作もなしで、相手にバレないように配慮した。
名前:エッボ
種族:人族
年齢:26
レベル:29
状態:泥酔
ステータス
MP:F
魔力:F
攻撃力:C
守備力:C
魔法攻撃力:F
魔法防御力:D
敏捷力:D
ラック:26%
〈スキル〉
―戦闘―
体術(4)、斧術(3)
―技術―
算術(1)、夜目(5)、回避(3)、家事(1)
―耐性―
麻痺耐性、毒耐性
〈適正〉
槍、
初めて自分との比較対象と会ったけど、こうしてみると俺のステータスがぶっ飛んでいるのがよくわかる。状態が泥酔なので相当飲んでいたようだ。
「おいてめぇ!聞いてんのか!?」
俺が結果を分析している間にも何か言っていたらしい。気が付かなかった。
「あ、すみません。決してメロさんを口説いていたわけではないんです。勘違いなんです」
謝って弁解してみる。男はそんな俺の態度が気に入らないらしく、眉間に皺をよせた。
「あん?あんなに近づいておいて何言ってやがる!俺でもあんなに近づいたことないのに!」
確かにメロさんが手招きして声を潜めた時に近づいた。そしてこの男はメロさんにお熱のようだ。
「てめぇは半殺しにしてやる!」
いきなり殴りかかってくる。酔っているせいか、迫る拳は大振りで一歩下がって回避した。
「避けてんじゃねぇ!」
さらに殴ってくる。今度は避けてから懐に潜り込む。そして無魔法を使ってみることにした。
「【ねんねんころり】」
周りに聞こえないように呟く。すると男は崩れ落ち、鼾をかき始めた。どうやらちゃんと発動したようだ。返り討ちにしてもよかったが、あまり騒ぎを起こして目立ちたくないし、酔ったことが原因なら殴りたくなかった。
「あー寝ちゃったみたいですね」
男が勝手に寝てしまったかのように演技をする。周りの冒険者もつまらない幕切れに興味をなくしたようだった。メロさんは安堵の表情で胸を撫で下ろしていた。
このままにしておけないので男を隅まで引きずって寝かせた。また明日早朝に依頼を受けに来ることにしてギルドを出た。
説明を受けたのと絡まれたのとで時間が経過して、すっかり夕方になっていた。今日は特にすることもないので宿屋に戻ることにした。
道中にあるお店で買い物しながら戻っていると、みすぼらしい風体の子供がいた。
子供は木材を運んでいるようで、足取りはよたよたと危なかった。子供が躓いて倒れ、木材をぶちまけた。そこに大人が近づき子供を足蹴りにする。大人は拾い集めて運ぶように命令すると去っていった。
俺はきっと奴隷なのだろうと思った。異世界転生もののラノベではよくあるが、実際に見てみると気分がよくない。
俺は近づいて木材を拾って差し出した。子供は長い茶髪の少女だった。服はぼろ布のように汚れていて、前髪は髪を隠すように長い。少女はこちらをじっと見ている。
「ありがとうございます……」
少女は小さな声でお礼をいったが、どこか怯えているようだった。
「痛っ!」
少女は木材をもって再び歩こうとして、小さく叫んで蹲った。どうやら倒れた拍子に膝を擦りむいたようだった。見た目ではわからないが打撲もしているかもしれない。
俺は少女にそっと手をかざした。聖魔法を意識して呪文を唱える。
「【いたいのいたいのとんでけ~】」
少女は微かに光を帯びた。膝の傷が治っている。少女が驚きの表情でこちらをみている。
「おまじないだよ。頑張ってね」
俺はそういって立ち去った。本当は木材を運ぶのも手伝いたかったが、この世界の奴隷の立ち位置がわからないので断念した。この奴隷の主と問題が起きるかもしれない。
まぁ、痛いのが誰に飛んで行ったかは言わなくてもわかるよね。
宿屋に帰ってきた。扉を開けるとミナが出迎えてくれる。
「おかえりなさい!お部屋に戻られますか?ご飯にしますか?」
元気に尋ねてくる。
「じゃあご飯にしよう。案内してくれるかな?」
自然と子供相手の言葉使いになる。
「はい!ご案内します」
ミナに案内されて席に着く。ミナが食事を持って来てくれた。
「はい。どうぞ」
「いただきます」
「はーい!」
俺は食事の挨拶のつもりで言ったが、ミナには受け取るもしくは貰うの意味で捉えたようだ。
食事はスープとキッシュだった。キッシュの中にはジャガイモや肉が入っていて食べごたえがある。スープも塩をベースに具材の味が溶け出ていて美味しい。
「えーと……ミナ?」
「なんですか?」
「なんでここにいるのかな?」
なぜか俺の席の向かい側では同様の食事をしているミナがいる。見られながら食事をするのは食べづらい。
「まだ夕食には早い時間なのでお客が少ないんです!私は食べてから働くの。だから一緒に食べよ!」
まだ夕方なのでお客は少なく、従業員は早めの食事をとる。せっかくだから一緒に食べたいということか。拒む理由はない。
「ああ、いいよ。でも黙って食べないで何かお話しよう?」
「はい!」
ミナと会話をしながら食事をした。ミナが話してくれるので俺は相槌が多かった。
ミナの話は有名な冒険者やこの宿に泊まっている冒険者の話、この街の美味しいもの、自分の仕事、最終的にはお母さんが厳しいなどいろいろな話をしてくれた。
他の客が来たところで母親に呼ばれて去っていった。俺も食べ終わっていたので部屋に行くことにした。
部屋で魔法に関する本を読んだ。森の民の村長宅のものだ。
魔法の修行についても書かれていたので魔法の練習をした。身体に魔力を通して循環したり、光魔法などの周りに被害が出ないような魔法を練習したりした。
最後に【クリーン】をかけて寝ることにした。