ギルドの説明
「冒険者は基本的に依頼を受けてお仕事をします。依頼はあちらの掲示板に掲載されています」
受付の女性は掲示板を指さした。俺もつられて掲示板を見る。
「仕事を受けるときは剥がさずに受付に申し付け下さい。たまに剥がすものもありますが、そういう依頼はこのような印がついています」
一枚の紙を取り出してこちらに差し出す。説明は何度もしているようで、かなり手馴れていた。
「冒険者はFランクから始まります。ランクはF、E、D、C、B、A、S、SSがあります。ユイトさんもFランクからのスタートですので、受けられる依頼はFと1 つ上のEです」
大体テンプレ通りだった。違うといえばSSランクがあることくらいかな。
「ランクは依頼を達成すると上がっていきます。Cランクまでは依頼を順調に達成すると上がりますが、Bランクからは試験があります。またBランクからは様々な特典があります」
特典の一覧表を見せてくる。Bランク以上になるとこの国の各所で割引されたり、ギルドでの買い取りに色がついたりするようだ。
元の世界の知識だと高ランクの冒険者を他国に渡さないための措置だったかな。
「しかし、Bランク以上になると指名依頼が義務になります。指名依頼は名指しのため報酬が高いです。指名依頼を断るとランクが下がったり、罰金が発生したりします。ですが、無茶な依頼はまずギルドで受理されないので安心してください」
「はい」
高ランクは目指さないがとにかく相槌を打っておく。
「通常の依頼を失敗した際も罰金や罰則があります。なので、身の丈に合った依頼を選ぶことをおすすめします」
「はい」
「依頼の説明は以上です。冒険者ギルドでは魔物の素材の買い取りもしています。ぜひお持ちになってくださいね」
説明を聞く限りだとテンプレだ。冒険者ギルドって感じがしてとてもいい。まるで、憧れた本の世界に入っているようだ。この受付の女性もできるお姉さんって感じがしてこれからの冒険が楽しみになる。
「質問はございますか?」
「冒険者と同じように魔物にもランクはあるんでしょうか?」
気になっていたことを聞いてみる。
「はい。魔物には上からS、A、B、C、D、E、Fがあります。冒険者のランクと魔物のランクは同じではありません。例えばFランクのスライムと並みのFランク冒険者ではスライムに負けてしまいます」
魔物と冒険者の等級の関係は強さで見ると次のようになる。
魔物: S A B C D E F
強い: :弱い
冒険者:SS S A B C D E F
つまりランクBの【ブラック・ボア】を倒した俺は単純に言えばランクA相当ってことか…
「あとは、ダンジョンってどこにあるんですかね?」
「ダンジョンは正門の反対側でこの街の奥です。冒険者なら入ることができます。採集依頼もありますから行く機会はあるでしょう」
ダンジョンの場所も分かった。アイテム探しにいきたいな。
「もう1ついいですか?魔核の買い取りなんですけど」
「魔核も素材と同じくギルドで買い取りますよ。魔法道具協会でも買い取っているのでそちらでも可能です」
気になる単語が出てきた。
「魔法道具協会?」
「魔法道具を作成したり、研究したりしている団体です。なんでも魔核は魔法道具の回路や魔法陣に使われるとか」
俺にはスキル【魔法陣】があるから勉強してみるのもいいかもしれない。
「なるほど、ありがとうございます!大変勉強になりました」
「どういたしまして。ここからは私個人としての言葉だけど……」
女性はお礼の返答をした後に手招きをしてから声を潜めた。
「あんまり無茶しちゃだめよ?冒険者は危険な仕事だもの。戻ってこない人は多いの。見たところ身体は細いし、ちゃんと鍛えてから討伐依頼を受けなさいね」
女性の声は優しく、先ほどまでのできるお姉さんから優しいお姉さんに変わっていた。この人きっと冒険者から人気あるんだろうな。
「ありがとうございます。あ、えーと」
「メロよ。私はメロっていうの。よろしくね」
名前がわからなくて困っていると自分から名乗ってくれた。察しもいいとは、俺の中で完全に良いお姉さんになった。
「はい!よろしくお願いします。メロさん!」
お礼を言った後少し待つように言われた。椅子に座って待っていると、メロさんに声をかけられた。
「お待たせしました。こちらが冒険者ギルドカードです。皆さんはギルドカードと呼びます」
戻ってきたメロさんの口調は元に戻っていた。仕事とプライベートはしっかり分けるタイプなのかもしれない。
「ありがとうございます」
ギルドカードを見る。さっき紙に記入した情報が書かれていて裏には冒険者ポイントと今受けている依頼が書かれていた。
「冒険者ポイントってなんですか?」
「そのカードは魔法道具でもあります。依頼を達成したときになどに貰えるポイントを見る事が出来ます。まずは200ポイント貯めることでEランクになれるので頑張って下さい」
こういうものは所持者の居場所を発信したりする機能がついていたりするが、これはどうなのだろうか?少し不安になってくる。考えても仕方がないので、保留にすることにした。
今受けている依頼が確認できるのも便利だ。
ギルドでやるべきことは終わったので、今日は帰ることにした。また明日の早朝に来ることにしよう。
「ありがとうございます。メロさん」
「またのお越しをお待ちしております。……頑張ってね」
最後の言葉は俺にしか聞こえないぐらい小さかった。心の中で再びお姉さんにお礼を言った。
思えば冒険者ギルドはテンプレだらけだった。ギルドのシステムは想像通りだったし、受付は綺麗な女性だし、雰囲気も思った通りだった。ラノベを読んでいるときは楽しい物語だったが、今では現実の出来事だ。テンプレ展開はかなり楽しい。
そして、ギルドを出ようとしたとき更なるテンプレ展開が起きようとしていた。
1人の男が俺の前に立ちはだかる。
「おうおうおうおう!兄ちゃんよ。俺のメロちゃんに手ぇだすとはなぁ!新参者にしちゃあ態度がなってないんじゃないかぁ?」
そう。おれは絡まれたのだ。




