第4話(終)
「ご主人様、かっこよかった!!」
「そ、そんなことないよっ」
ウイルス達が逃げ、荒らされた段ボールや資料を片付ける俺達。
画像係がさっきからずっと褒めてくるから、ちょっと恥ずかしい。
俺は何も出来なかった…と呟いた音楽係に、ダサすぎましたね、とメール係は囁いた。
「さてと…こんなものかな」
最後の段ボールを所定の位置に戻し、手を叩く監視係。
「よし!さっさとハッキング作業に戻るよ!」
監視係はそういうと、他の係は腕を高らかに上げて、おおっ!と言った。
各々の係が作業を続ける中、アプリ係は声を上げる。
「アプリ発信者にアクセスできたで!!」
そういうアプリ係に、係たちや俺が駆け寄る。
「『御主人様転送アプリ』、特定の電波を受信したスマホは強制的にインストールっつうやつみたいやな…」
高度なイタズラや、と怒りをあらわにした声で小さく言った。
────ちょっと待てよ。
電波を受信したスマホってことは…?
「じゃ、じゃあヒカルも?!」
俺と一緒によもぎ公園にいたヒカルはっ?!
俺の疑問に、恐らく大丈夫や、とアプリ係は続けた。
「このスマホは旧機種やから、被害受けたんやろ」
最低ですね…とメール係は呟く。
「ま、発信者にアクセスできたんならアンインストールもできるでしょ?お願い!」
監視係はそう言うと、任せとき!とアプリ係は書類を破り捨てた。
「アンインストール中や!」
アプリ係はそう言うと、やったぁ!と係たちは喜んだ。
その時、あ…と画像係は呟く。
どうかしましたか?とメール係は言うと、画像係は泣きそうな顔で言葉を続けた。
「完全にアンインストールされたら、ご主人様は外の世界に行っちゃうんだよね…」
それはそうでしょうね、とメール係は答える。
「…やだよ」
「はい?」
「そんなのやだよ!!」
画像係は泣き叫ぶ。
監視係はなだめようと、画像係の背中をさする。
「画像係、ご主人様はもともと外の世界から来た人間なの。そんなわがまま────」
「私、ずっとご主人様がカメラで撮影してきた写真を見て、外の世界はとても希望に満ち溢れた世界なんだって知ることができた!外の世界の真上には、青くて綺麗な“空”っていうものがあることも知ることが出来た!だから、もっといろいろなことを教えて欲しかった!…それに、ご主人様ともっと仲良くなりたかった…」
画像係はしゃがみこむ。
「行っちゃやだよ…行かないでよ…」
「…っ」
俺はかける言葉に悩んでいると、アプリ係は俺の肩に手を当てた。
「お前さんの思ってること、言ってあげればいいんやで」
「アプリ係…!」
俺は画像係を抱きしめながら言った。
「俺、もっともっと写真撮ってお前に外のいろんな世界見せてやる!だから…」
俺は画像係を見つめ直して言葉を続けた。
「だから泣くな!画像係には、笑顔が似合うぜ!」
「ご主人様…!」
画像係は涙を拭い、立ち上がる。
「うん!ありがと!」
そういって画像係は、満面の笑みを浮かべた。
────あ、可愛い。
少し赤く染まった俺の頬を冷やすように顔を背ける。
ご主人様?とメール係は俺に問いかけた。なんでもない!と俺は向き直る。
「ご主人様、こちらは大丈夫です。安心してください」
メール係は微笑みながらそう続けた。
「これからも、ご主人様が保存した音楽をちゃんと手入れしちゃうから!」
音楽係はCDの入った段ボールを高らかに掲げながら叫ぶ。
「はじめは、お前さんのことひ弱でなよっちいご主人様だと思ってたわ」
アプリ係はそういいながら近づいてくる。
「せやけど、今は違うで?」
はにかんでいるアプリ係。
「お前…!」
俺はアプリ係に抱きつこうとし────
「へたれやなっ!!」
思わぬ言葉に転んだ。
いってぇ…と俺が座り込んでると、周りの係達が笑い出す。
画像係も、赤く腫らした目を笑わせていた。
「…さて」
申し訳なさそうに監視係は言う。
「そろそろアンインストール完了するよ」
俺は頷き、微笑んだ。
「我々一同、これからもご主人様に誠心誠意お仕えさせていただきます。だから、ご主人様も末永くお元気で!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は最初に感じたような感覚に陥る。
足元が揺らぎ、その場に倒れ込んだ。
「ユウタ!ユウタ!!」
遠くでヒカルの声が聞こえる。
「ユウタ!!」
俺は重い体を起こした。
上に広がるのは、青くて綺麗な、雲1つ無い青空。
ヒカルは、よかった〜!と俺に抱きついてくる。
「いきなり気を失ったから、どうしたかと思ったよ!」
────あ、俺、ずっと気を失ってたのか…。
俺の手元には、昔ながらの分厚いスマホ。
だけど大切な、俺のために頑張ってくれてるみんながいる。
俺は、スマホを手に取った。
どうした?とヒカルが聞いてくる。
俺は、ちょっといろいろあってな、と答えた。
「えぇ〜、秘密にするからさ!教えてくれよ!」
「…いや、俺だけの秘密だっ!」
なんでだよ〜!と俺の肩を揺らすヒカル。
こんなこと、いったって信じてもらえるわけないしな。
────あ、そうだ。
「なぁ、ヒカル」
俺はヒカルにとあるお願いをしようと話しかけた。
「お?なんだ?愛の告白かぁ〜?」
「ちげぇよ!」
つまんね〜、とヒカルは言う。…期待してたのか?
「なぁヒカル、一緒に写真撮らない?」
ヒカルは俺の意外なお願いに首を傾げる。
「…俺のために、頑張ってくれてる人たちのために、出来ることをしたいと思ってな」
「なんだそりゃ」
「ま、俺にもいろいろあったってことだよ」
俺はそう言って無理矢理ヒカルの肩をつかむ。
内カメラモードにして、スマホを俺達に向ける。
────あ。
「こんな綺麗な空も、撮さないとな」
空も写るように、スマホを傾けてシャッター音を鳴らす。
今頃、この写真も画像係たちの元へ届いているはずだ。
外の世界へ行けない分、たくさんこの綺麗な青を見せてあげよう。
画像係の笑った顔が目に浮かぶ。
────俺、もっともっと外の世界のこと、教えてやる!だから、これからもよろしく!
「ユウタ!ほら、見ようぜ…!」
にやりと笑いながら、アミちゃんの写真集をとりだすヒカル。
俺はもう、こういう系の写真は二度と保存や撮ることをしないと固く誓いながら、ふたりで表紙をめくった。