7段目:家の中まで騒がしい。俺の心のオアシスはどこ?
「朝か…」
やはり今日も死ぬことは出来なかったようだな。眩しいくらいの朝日がどうにも癪に障る。たまには自重しろ。
晴れの日は嫌いだ、暑いから。雨の日も嫌だな、じめじめしている。
本当に俺は生きにくい性格をしていると自覚する。昔はもう少し普通に生活をしていた気がするが…。いつからこんな性格になったかは覚えていないな。
思い出す気もない、そんな面倒くさいことはしていられないな。
学校に行く支度をしないとな、そう思い俺は部屋からでる。
『ピーンポーン』
ガチャ、ギィー、バタン
「感心感心!今日は開けてたのね。こら!迎えに来たわよ!」
そう言い茜が部屋までずかずか上がり込んでくる。
しまった。戸締まりを忘れていたか。それなら強盗があがってきてそのまま殺してくれれば良かったのに…
それよりこいつは不法侵入という言葉を知っているだろうか?…知らないだろうな
それにしても早すぎだろう。いつもより30分は早いぞ。こんなに早くに学校に行って何をする気なんだこいつは。
大体俺はまだ顔も洗っていないし飯も食べていない。寝間着のままだ。
よってまだ行くことはできないな
そんなようなことを言ったのだが
こいつは
「何言ってんの!あたしもまだ食べてないわよ!一緒に食べてあげようかと思ってね。朝からこんな可愛い子とご飯食べれて幸せでしょ?」
とか宣いやがった。
まだ食べてないのはおまえの勝手だし、そこに俺が関与する意味が本気でわからない。大体誰が飯の支度をすると思ってるんだ。
最後の言葉がまた意味不明だ。おまえと食事することに何の感慨も俺は持たない。自意識過剰も大概にしておけ、と言いたいが言ったら面倒なことになるのは目に見えているので自重しておく。
精一杯の抵抗を込めて自分で作れよ、と言ってみたが
「私が料理できないの知ってるでしょ?もちろんあんたが作るのよ!」
そうだった。2年程前に「べ、別にあんたのために作ったんじゃないのよ。家庭科の授業で作って余ったから恵んでやろうと思ったんだからね!感謝しなさいよ!」と言って持ってきたものは決して料理には存在しないであろう蛍光色をした何かであった。見た目もさることながら臭いも何とも言えない工業廃棄物のような臭いがしたので「いらん」と言って突っ返したのだが…。
後から聞いたところ、家庭科の料理で作ったのはクッキーで、そのときあいつに惚れていた男子生徒が勇気を出して一口食べようとしたが口に入れる直前で倒れたそうだ。おそらく臭いにやられたのだろう。哀れその男子生徒は学年で5指には入るであろう秀才だったのに、今や九九もたまに間違えるらしいな。良かったことと言えば茜への恋心も無くなったことくらいか。
そんなもの不幸以外の何者でもないからな。しかし、茜はなかなか人気があるみたいだな。顔だけはいいからな、後明るいと言えなくもない。
皆騙されてる。
そして俺には嫉妬の目が来るんだ、全くいい迷惑だ。
まぁどうせ朝はハムエッグとトーストだ。一人分が二人分になったところで大した手間でもないので作ってやるか
「準備と片づけくらい手伝えよ」
「何?ほんとに作ってくれんの!?あんた本当にどうかしたんじゃないの?熱でもあるの?」
目を丸くしたと思ったら俺の額に手を当ててきた。本当に心配そうな顔をしている。
全く失礼な奴だ。いらないなら作らんぞ。
「いるのかいらないのか」
「いるに決まってんでしょ!」
溜息とともに俺は動きだした。
まずハムエッグだな。ハムを少し焼いてと…卵を落とし蓋をする。で、トーストを焼いて後は待つだけだな。
出来たか…。皿は出てるな。さすがに準備ぐらいしたか
「できたぞ」
「あたし朝は和食なのよね~」
「文句があるなら食うな」
「うそうそ!いただきます!」
全く一々憎まれ口を叩かなくてもいいだろうに…。そんな余計なことばかり喋るのが信じられない。皆必要最低限のことだけ喋ればいいのに…。
蛇足だがその朝の食卓はいつもより賑やかで俺の精神衛生上芳しくないものであったことをここに報告しておこう。