14段目:そう思ってた時期が俺にも確かにあった
「遊園地へ行こう!」
俺が早川と知り合ってから1週間も過ぎた頃だろうか。
だいぶ早川のメール攻勢にも慣れ何も考えずに返信できるようになってきた。
しかし、俺と早川が毎日それなりにメールをしていることを知ったあかねもなぜか毎日メールしてくるようになり俺のメール量は今までの数十倍に跳ね上がってしまった。
俺の性格を知っているあかねには殺す気か!と言ってみたのだがなぜか冷たい目で見られてしまったため、仕方なく継続している。
そんな俺的に精神的にも肉体的にもストレスが溜まっている時に恭平がそんなことを叫びだした。
「めんどい、後、死ね」
「ひどくね!?少しは話聞いてくれてもいいじゃんかよ!遊びに行きたいんだよ!俺も女の子と仲良くなりたいんだよ!悠輔はあの二人連れてきてくれたら寝てても帰ってもいいからさぁ」
こいつは俺のことを女を紹介する道具としか考えていないのだろうか?
しかし、ある意味俺の性格を熟知しているともいえる。それで早川やあかねが恭平と仲良くなれば俺にかかる負担が減るかもしれないな。
連絡を取ったり当日遊園地に行ったりは果てしなくめんどくさくて反吐が出そうだがこれからのことを考えて見れば先行投資というやつだろう。
それに、一応だが友人に・・・いや、知人・・・クラスメートかな?に女の子を紹介してあげるということはきっと”いいこと”に分類されるに違いない。
いや、しかし!光がなんと言うだろうか?あいつはなぜかあの二人を恭平に紹介するのをよしとしていないようだ。
今回もあの底冷えする笑顔で見つめられるのではないか。そう思い、隣を見てみるといつもの爽やかスマイルがあった。
「うん、いいんじゃないかな。楽しそうだし。恭平、僕も一人女の子を連れて行くから男3,女3でどうだい?」
「心の友よ!おまえはきっといつかやってくれると思っていた!俺に何の不満があろうか!じゃあ今度の日曜日でいいか?」
「ああ」
「いいよ、じゃあ女の子には僕から連絡を取っておくね。ああ、女の子って薫だからそこから早川さんにも連絡するように言っておくよ。佐野さんにも僕が連絡しておく。どうせめんどくさいんだろ?」
「頼む」
なんと面倒な連絡事項まで光が引き受けてくれるのか。でも薫って誰だったか?まぁいいか、どうでもいいし。
日曜日と言えば明後日か。それまではメール攻勢にも何とか耐えるしかないか。
しかしそれまでの辛抱だ。それを乗り越えたら俺にはバラ色の未来が待っているはずだ
そんなことを思っていた時期が俺にも確かにあった。
日曜日の朝、いつも通り(認めたくないことだが)あかねが俺の家の扉を激しく叩き、扉を開ける。
なぜかその後ろには早川の姿が。そのまま3人で遊園地へ向かう。
いつもどおりとても居心地が悪く、俺にとって無益な時間であったことは想像に難くないと思う。
待ち合わせ場所には既に残りの3人が揃っていた。
それぞれ自己紹介を済まし、ああ、薫ってあのときの茶髪ポニーか。
「じゃあ俺は帰・・・?」
といったところでなぜか両腕を掴まれていた。凄い力だ、痛い痛い痛い!
困惑の表情で面々を見回すと
あかねが
「帰さないよ?」
早川が
「須磨君の言ったとおりですね」
薫が
「せっかくだから遊んでいったらいいじゃない」
恭平が
「人数バランスが悪くなっちまうだろうが、それに仲間はずれは可哀相だしな!」
光が
「あらかじめみんなに連絡しておいたんだ。悠輔は絶対帰りたがるけど引き留めて一緒に遊ぼうって。そのことは当日まで絶対内緒で。ってね!」
そんなことをいい、光に至ってはウインクまでしてきた。
お前らこの野郎、なんだそのチームワークは恭平は結局俺のことは何にもわかってないし早川とあかねはなんだか怖い笑顔だし、薫とか言うやつはなんだか光に見とれてるし
〜・・・ああ、もう!
「・・・謀ったな・・・」
絞り出したその声が俺の精一杯だった。