9段目:この野郎、これが狙いか
俺と光は大した話もしないまま商店街を歩いていた。
こいつは何を考えて俺と一緒に帰ろうと思ったのだろうか?何か話しか何かあったんじゃないのか?
ただこうして一緒に帰るだけで満足なのだろうか。柄にもなくそんなことを考えてしまうほど光と俺は何も喋らなかった。
まぁ喋るのはだるいから俺にとっては今の状況は忌避するものではなくむしろ歓迎したいものなのだがな。
ところでこの状況はいつまで続くのだろうか?こいつの家はどこなんだ?
そんなことを考えていると何か意を決したように光が口を開いた
「悠輔!腹減らないか?マックにでも寄っていこうぜ」
「だるい」
即答で返してやった。
こいつは俺の性格を知っているのだと思ったが俺の勘違いだったのだろうか?
俺が行くわけ無いだろうに
「俺は腹減ったんだよ!いいから行こうぜ!奢ってやるから!」
今日のこいつは本当にどうしたんだろう?何でこんなに必死なんだ?いつも飄々としていてこんなふうに食い下がったりする奴じゃなかった筈なんだが…
まぁ俺の人物観なんかあてにならないか。
逆にこいつがここまで必死になる理由を知りたいな。そんな毒をくらわば皿まで的な思考が俺の脳裏にわいてきた。
全く、俺も毒されたみたいだな
「はぁ…じゃあ行くか」
「サンキュー!」
そうして俺と光は二人マックの自動ドアをくぐり中に入っていった。
マックの中は昨日来た時と同じように沢山の人が蠢いていてとても不快なものだった。
レジに並び注文をする。光はテリヤキバーガーのセット、コーラにしたようだ。それを二つと言っておく。
「畏まりました。テリヤキバーガーのセット、ドリンクはコーラを二つですね。お会計800円になります。少々お待ち下さい」
ん?こいつ…どこかで見たことがあるような…
「今日は彼女と一緒じゃないの?それにしてもこんなイケメンの友達いたんだ?いいね~」
あぁ、昨日の店員か、思い出した。
それにしても相変わらず馴れ馴れしい奴だな。こいつとはこれで2度目の筈なんだが何でこんなに話しかけてくるんだ
横にいる光も何を勘違いしたんだか、俺と店員を見比べつつ「いつの間に…」とか呟いている
何となく何を言いたいかはわかるが誤解だと言うことを今ここではっきりと明言しておこう(心の中で)
そんなことを考えていたらある程度時間が潰れたようで注文の品が出来たようだ
全く…さっさと食べて帰るか。何か先をキョロキョロしながら歩いているからこいつに任せよう
「あっ!光くんだ!お~い」
「悪い悪い、遅くなった。悠輔、こっちだ」
柄にもなく一瞬思考が停止してしまった。こいつは女友達に会うために俺を連れてきたのか?
全く持って俺を連れてくる必要性は皆無だろう。大体俺が知らない奴と会話するのを苦痛に思っているのを知っているはずだと思ったんだが…
しかもその中でも女は最低だ。ペチャクチャ喧しいし、ある程度のリアクションをしなければ怒り出す。
全く面倒くさい限りだ。
そんな俺の心情が顔に表れていたのだろう。光は俺の顔を見ると焦ったような顔をして、俺に近づいてきた。
「中学の時の友達が誰か男の子紹介しろってうるさいんだよ。頼む!最悪座ってるだけでもいいから、な?」
そう言って俺に向かって片目を閉じてきた。気色悪い。
すぐさまだるい…といいかけて、はた、とあることに気付いた。
仮にも友人の頼みを無下にするって言うのはどうなのだろうか?少なくとも“いいこと”ではない気がする。
俺は今までに何度も人の頼みを無下にしてきたからな(俺は友人とは思っていないが)光のことは一応は友人だと思っている
ここは断腸の思いで、こいつの顔を立ててやることにするか。
「座ってるだけだぞ」
これだけは言っておかないとな。
おれが容易く折れたことが意外だったのか、少し呆けた後サンキュー、と満面の笑みを浮かべてきた
オイ、後ろで赤くなってる奴いるぞ。俺いらないんじゃないか?
前言撤回しようとしたが時既に遅し、さすがスポーツマンと言うべきか鋭い動きで女子と一緒の席に着いてしまった
知らず溜息が漏れるのがわかる。
仕方ない、覚悟を決めるか