2
「で、ちいちゃんが担当のアイドルと一緒にコンビニでアルバイト体験ねえ」
「何?それ?俺得ジャン」
「正木、ちいちゃんの担当は男の子。俺得かどうかは本人に聞いたら?」
僕が最後の仕込みとして、トースターでピザを焼き、オーブンでチキンを焼いている。ガスコンロではブイヤベースがそろそろ出来上がりそうで、締めのリゾット用のご飯もさっき炊き上がった。甘いもの好きの白戸の為に今はミルクレープを焼いているところだ。
それなのに、あいつらは出来上がった料理を並べることはしてもほかの準備をしようという気がないらしい……俺の隣で洗い物をしてくれている藤田を除いては。
「藤田はいいのかよ?あいつらといなくて」
「うーん、将来の練習?俺料理は無理だけど、皿洗い位はしたいじゃん」
この中で結婚に一番近いのは藤田だ。彼女のシフトの関係で今年の忘年会は参加しているが、飲み会にいつも参加しているわけではない。
「何?彼女とそんな話が出ているわけ?」
「来年、俺係長になるんだわ。あいつが妊娠しても俺一人で養ってやれるかなって思えるようになったというか」
このグループの中では、確かに藤田が一番結婚に近いところにいるのは事実。でも、藤田は自分一人の稼ぎで稼げるようになったらという考えで、そんな藤田の考えについていけないと別れた彼女は何人かいた。
今の彼女は取引先のかつての担当者だと聞いている。そんな彼女はバリバリと仕事をしていたいというスタンスということで、二人の仲は良好だったはずだ。
「この流れだと、彼女が妊娠したのか?ってなるのだが」
「それはないけど、そろそろあいつを妻ってポジションに置きたくなった」
「いいんじゃないか?式に出たいから早めに連絡くれよ。僕が一番不規則な仕事しているから」
「それよりもさ、オカンは彼女いないわけ?」
「いると思う?」
「だって、仕事柄女の子をよく見ているじゃないか。特に綺麗な」
「見た目はね。僕は同業界の彼女とかタレントさんは彼女にしたくないなあ。適度に僕の傍にいてほしい。仕事が終わったら僕の部屋で待っていてくれそうな」
「そういうところの願望は誰よりも強いよな。オカン。何かトラウマでもある訳?」
「ないよ。でも、すれ違いが多い女性だけは嫌だなあ」
ふと、最後に交際をした彼女を思い出した。ここ数年思い出すことは一切なかったのに。
「ん?まだ僕だけの天使なんて探している訳?」
「そんなことない。まだ夢を持っていたいってのはダメか?」
「その人って人が現れたら絶対に今までの価値観は変わるからさ」
「そういうものか?」
ああ、そういうものさって藤田は言ってから、そろそろメインが出せるように準備してくれよってリビングにいる奴らに声をかけていた。
こいつらと過ごすこの時間は嫌いじゃない。藤田だけじゃなく他の奴らもそろそろ身を固める頃に入ったのだろう。この一年で僕らの周囲もまた変わっていくのだろうとぼんやりと考えていた。