忘年会?ナニソレ?お鍋できたよ1
「いいのかよ。勝手に入って」
「平気だって。俺、ちーちゃんから合い鍵貰ったもん」
「白戸、一度聞いてみたい事があるんだけどさ」
「ん?何?」
「お前らってそういう関係なの?」
「はあ?何言ってんの。そんなんじゃねえって。ちーちゃん、起きろ。忘年会の準備しようぜ」
誰だよ。折角の年末の休みなんだから。もう少し寝かせてくれよ。
「ちーちゃん、マジで寝てる。写メ取っておいてもいい?」
「いいんじゃね?眠り王子降臨!ってのもいいよな」
僕の周りが異常に五月蠅い気がする。昨日の忘年会の後……家に帰って来たよな……忘年会……そうだ、今夜は僕の家で白戸達と忘年会だ。その前に、終電逃すと普通に僕の家に泊まりに来る白戸には合い鍵を渡してある。あいつ……もう皆とここに来たのかよ……目を覚ましたくないと思いつつ、嫌な現実に向かい合うことにした。
「おはよう。人の耳元で五月蠅いんだけど?もう少し寝かせてくれない?」
「ええっ?忘年会は18時スタートだよ。それまでに間に合うの?」
「多少は準備してあるから、14時まで寝かせて。今何時?」
「10時」
「だったらマジで。僕、今朝帰って来たばかりでアルコール抜けてないし」
「ああ、はいはい。ちーちゃん。お休み。時間までどこかに行こうぜ」
「4時間かあ……昼飯込みだよな」
「なんとかなるよ。お休み。さわっち」
がやがやしていた周囲が元の静寂に戻る。身体を捻って目覚まし時計を見る。まだ十時だ。僕が寝たのは七時だ。昨日は忘年会の三次会だ……なんて自宅に戻ったのは六時だ。たいして飲んでいなくても流石に身体は辛い。目覚ましのタイマーをセットして僕は再び眠りについた。
「ちーちゃん、起きてる?」
「だからちーちゃん言うな」
「いいじゃん、千紘なんだから。ちーちゃんで」
「白戸。お前はしいちゃんって呼ばれたいか?」
「うっ、痛いところをついてくるな。この勝負痛み分けとしよう」
「痛み分けじゃない。コーヒーなら沸いているよ。今夜のメニューは僕のお任せでいいの?それとも何か作って欲しいものがあるのなら、皆でお金を出して買ってきて」
「今夜の飯は?」
「イタリア食材を貰ったから、地中海風なメニューがメイン」
「ちーちゃんのイタメシか……パスタとピザは?」
「パスタはトマトソース。ピザは考えていなかったな。それなら市販のピザ生地とピザソースと載せたい具を適当に買ってきて。チーズは家にあるから」
「本当にさわっちの家って食材の宝庫だよな」
「実家のお歳暮貰ったりしているから。いい生ハムがあるんだが、酒の肴はそれとカルパッチョでいいか?」
「それとチョリソー欲しい」
「チョリソーは無いから買ってきて。牛フィレをカツレツにするし、ブイヤベースもあるからよく考えてくれよ」
「大丈夫だよ。余りそうになったら、来れそうな奴を呼ぶからさあ」
「だから、僕の家は合宿所じゃないから」
「分かっているって、セカンドハウスだから。行ってくるな」
ご機嫌な白戸達は再び家から出て行った。
「セカンドハウスって……あいつ等の実家や寮だって近いじゃないか」
高校は山間部を切り開いて作った全寮制の学園で過ごしていた。今日の忘年会のメンバーは僕の自宅から比較的近い人間が揃っている。気がついたら社宅が徒歩五分先だった白戸が一番多く僕の家に泊まっているだろう。白戸の他は、寮の隣の部屋だった秋山と同じ部活だった正木と藤田。白戸が呼びだそうと思っているのは修吾……大隅修吾だろう。白戸と修吾は職場が近い様なので定期的に飲みに行くらしい。
入学当初に僕の今まで持っていた価値観は全て塗り替えられたようなものだ。定期的に連絡が来るのは、主に生徒会の先輩たちだけど、僕の部屋でこうやって飲み会をするのは同級生がメインで、更に今日のメンバーは大学まで同じだった。
見た目がチャライ白戸は法学部法律学科卒で現在は企業の法務部勤務と言うのは……本人の前では言えないが納得が出来ない事の一つだ。
「まあ、昔の事を言っていても仕方ない。仕込んであるものから終わらせるか」
僕は、仕込みが終わっている料理から順番に仕上げて行った。前菜から作って行く方がいいのだろうが、あいつ等にはそんなものは不要だ。一気に出して、イナゴの様に食いつくす。テーブルの料理が終われば忘年会は終了。近くのカラオケボックスの深夜パックで歌い明かすのだ。人によってはここから参加してくる人もいる。もちろん、忘年会後に合流なので出来上がっている。カラオケが終わるころにはさびしい男の集団が変なハイテンションで街に放流されるのだ。
それが嫌な訳じゃない。皆とこうやって過ごすのは楽しい僕がいるのだった。