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「これだけ証拠が揃えば、とりあえず警察に相談に行きますか?」

「警察ですか」

「えっと、事件として扱ってくださいというよりもアイドル事務所でもあるのでちょっとだけ様子を見てもらえませんか?的な感じですね。でもね、こういう事件はそういう事の積み重ねで心証も変わっていくんです。警察となると刑事事件に発展する可能性もあるので、法哉さんにも協力してもらいましょう。刑事事件を主に扱う彼なら警察への対応は安全です。あっ、もちろん僕も行きますよ。以前の事件の時の資料一式を持ってね。あの時の原本は持ってますか?」

「実家の金庫の中にあります」

「それなら早急に取り出して事務所に送ってください。事務所の金庫に保管します」

社長に相談した数日後の金曜日の夜。僕の部屋に再び青木先輩がやってきた。今回は最初から泊り前提だったので、一式持参で少しだけ荷物が多い。


「先輩。僕これから夕飯ですけど、何か食べますか?」

「僕はもう食べちゃったけど……何か摘まめるものだったらご相伴してもいいですか」

「分かりました。ちょっと待ってくださいね」

どうやら青木先輩は食事をしてから僕の家に来たようだ。それならと思い、キャベツを粗く刻んでその上から中華ドレッシングと胡麻をかけて簡単なサラダを作る。

冷蔵庫につけた鳥の照り焼きとみそ漬けがあるからそれを取り出して、さっと表面を焼いてからオーブンで火を通すことにした。

冷凍庫から、炊き込みご飯とご飯を取り出してレンジで解凍させる。

小鍋で簡単に出汁を取って、豆腐とわかめでみそ汁と作る。朝ごはんともいえるようなちょっとヘルシーな夕食ができた。

「急いで作ったんですけど……と言いたいですが、ご飯は冷凍のものを使ったのでお替わりはありません」

「十分ですよ。本当に手際よく作るようになりましたね。高校に入ってきたときの澤田君からしたら凄い進化ですね」

「そうですね。西月先輩から教えてもらったカレーを僕なりにアレンジして事務所の人間や泊まりに来た人に出していたせいか、カレーの日に僕が作ったカレーが食堂のメニューになってしまいました」

「確か1月25日でしたか?」

「そうです。今度先輩が来るのが分かっていたら最初から作っておくので食べませんか?」

「西月君のカレーがベースですか。そういえば彼の手料理を食べていないですね……それはそれでいいんですけど。学生時代がかなり前のことのように思えてしまいますね」

「年末に会ったときは仕事ですぐに戻っちゃいましたから」

「相変わらずの多忙なスケジュールですけど、彼は意外に丈夫なのでそういうところは心配していませんよ」

青木先輩は穏やかに西月先輩のことを言う。確かに西月先輩と過ごした二年間で学校を休んだというのはほとんど記憶にない。

「それにしても、この炊き込みご飯も優しい味がしますね。僕は好きですよ」

「本当ですか?これは母方の祖母に教えてもらったんです」

「こうやって僕らは胃袋を掴まれてしまうのでしょうか?女の子だったら最強の能力ですね」

「それは言わないでくださいよ」

食事の後に、彼女のことでこれからの流れを確認して来週は事務所で大久保先輩も交えて打ち合わせをすることにした。

「そういえば、澤田君。今の資産状況って?」

「えっと。5年前とあまり変わりませんよ。むしろ不動産もあるので増えてます」

「この物件は?」

「一括で購入しているので、ローンはありません。最低限の維持費が発生するだけですね」

「彼女が君の財産狙いって可能性を考えたことはありますか?」

「今は……ゼロではないです。あの時の慰謝料等もかなりの額を手にしていますから」

そうですよね。サラリーマンの平均年収よりちょっと多めの金額が結果的に僕の口座には入金された。もちろん、先輩たちに支払う分を差し引いてだ。

「このマンションは気が付かれたようですか?」

「まだみたいです。でもあれだけ張り付かれたら時間の問題だとは思っています」

「そうですね。やはり来週中には相手に警告文を送る位はしましょう」

「それなら、月曜日の午後には休みになるので大久保先輩と一緒に来てもらえますか?何時でも構いませんから」

「大丈夫ですか?予定はないですか?」

「せいぜい、スーパーに買い物に行く位です。それはネットスーパーで注文してもらえば外に出ないでも入手は可能ですから。何か食べたいものがありますか?」

「それなら、最初から澤田君の家に泊まることを前提に考えますか?翌日はどうなっていますか?」

「今回は連休なんです。だから休みの間は完全に引きこもることは可能です」

「そうですか。でしたら、炊き込みご飯と切り干し大根が食べたいですね」

「和食ですね。構いませんよ。他にも用意して夕ご飯を作って待っていますので」

「すみませんね。僕らも依頼人に甘えてしまって」

「いいんじゃないですか?お二人は僕の先輩ですから」

「もしも、問題があるようでしたら責任もって他の先生を紹介しますのでご安心を」

「僕は先輩たちを変えるつもりはないですよ」

「そう言ってくれるとありがたいです。このことはご両親には?」

「話しました。今は母が学校まで双子を送り迎えしてくれるそうです」

母は最初の海外赴任の時に区役所を退職していた。双子が小学校に入ってからは、非常勤として職場復帰をしていたけれども、双方の祖父母が大分弱ってきたので今は介護というよりは、介助をメインに祖父母たちのサポートをしている。

「それならば安心です。暫くは申し訳ないのですがよろしくお願いします」

「双子のあの時のことは覚えているみたい……恥ずかしいです」

「仕方ない。終わったら皆でお疲れ会しましょうか?」

「皆で?」

「ええ。元奥さんにも確認したいことがあって連絡をしたのですが、案件が終了後に澤田さんに相談したいことがあるそうです」

元奥さんが僕に何があるのだろう?

「どうも、マナー講師のことらしいです。元夫との縁は考えないで欲しいそうですよ」

「分かりました。案件終了後に青木先輩にお任せします。念のため同席をお願いしてもいいですか?」

「構いませんよ。それでしたら彼女とは事務所で会うことにしましょう。そうそう、僕らの事務所の事務の子が変わったんですよ」

「そうなんですか?」

「うん。かなり個性的な子達だから事務所に来たときは驚かないでね」

5年前に事務所にお邪魔したときは、年配の女性が事務処理を担ってくれていたと思うのだが、新しい事務所の子というのがちょっとだけ会うのが楽しみになっていた。

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