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今回はいつもよりも字数が少ないですが、ちーちゃん的には最大級の不憫が襲い掛かります。
彼女がいることに気が付いてから1週間が過ぎた。店長から一日遅れで防犯カメラに映った彼女の画像を僕に渡してくれる。事務所の人間も僕に彼女との関係を聞いてくることもなくなった。事務所の人間が彼女の期待する回答をしないことで痺れを切らしたようで、今度は事務所にやってくるモデルやアイドルたちをターゲットにしてきた。被害にあってしまった子たちは「あれなんですか?」「彼女を選ぶときはもう少し考えましょうよ」「業界の人は嫌なのにああいうのがいいんだ」と言われ放題になってしまい、結果的にマネージャーたちには僕が転職するきっかけと顛末をカミングアウトする羽目になった。皆一様に「それは辞めてよかったんですか?」とか「ガチでエリートだった人だ」とか「英語には苦労しないよな」とこれまた言われたい放題。いや、英語はちゃんと習得したら確実に楽だと思うんだけどな。
そんなこともあって、結果的にはビビッドにも知られてしまい、メンバーに慰められてしまった。
それならいいけど、樹なんかは「今日のおばさん(仮)」なる画像を見かけるたびに送信してくれる。気持ちは嬉しいけどな。樹、お前がおばさん(仮)としている人は、僕と同学年なんだ。僕より誕生日が早いから30歳にはなっているはずだけど。
「こないだ、元彼女さんに話しかけられましたよ」
今日の報告者はふうのようだ。
「えっ……お前、どうやって答えた」
「楓太君でしょ?って聞かれたので、僕は雅ですけど?勘違いじゃないですか?」で通しちゃいました。ちょっとだけ声色変えておいたので暫くは平気かな……っておい、それは社長に報告ものだって。
慌てて僕は社長室までふうと一緒に現状を報告することにした。
「……で、証拠も揃っていますし、所属の子たちにも微妙な被害にあっているので、そろそろ警告を出そうと思っていますけどいいですか?」
「構わないよ。やりたいようにやっちゃって。その代わりに、途中の報告とかは頂戴ね。うちの事務所の子たちに何かがあったら、僕の方も併せて行動するから。それと、澤田君」
「はい?」
「お正月に変わった人からスカウトされたらしいですね。転職しますか?」
「しません」
「えっ?澤田さん、スカウトされたんですか?どんなところ?」
「ふうなら言ってもいいでしょう。アダルトビデオ制作会社ですよ」
「うわあ。一番らしくない。女の子をスカウトして騙すなんて澤田さんのキャラじゃないですよ」
「だから、行かないっていっているだろうが。社長も人が悪いですよ」
「すみません、ちょっと言ってみただけです。ふう、このことは他言無用ですよ。いいですね」
「なんで僕に言ったんですか?」
「王様の耳はロバの耳って覚えてますか?そういうことですよ」
社長に報告したはずなのに、結果的に社長におもちゃにされてしまった。僕らは社長室を後にしてメンバーが待っているレッスン室に向かう。
「ふう……頼むから」
「いいませんよ。澤田さんのイメージから一番遠いですよね。アダルトビデオって。そんなの見てませんって言いきられそう」
「彼女のことがあってからはお目にかかっていないかもなあ」
楓太に言われて現実に直面する。そういった欲があの事件を境に減ったのは事実だ。
「枯れてません?まあ、そうなっちゃったのも分からなくもないけど。本能的に種を残したいって思いません?」
「そう思える相手がいたらだろ?それすらいないのに……ほっておいてくれ」
「皆、心配なんですよ。急に昔のドラマの主役級みたいな服装になったから」
「似合っていないか」
「そうじゃなくて。趣味の良くない彼女ができたのかと思ったから。今のあの人はあまりいい人には見えませんね」
「いや、あの頃もいい人じゃなかったと思うけど、そこまで人を見る目がなくってね」
ふうん、やっぱりそういうのって難しいねってどこか他人事のようにふうは言う。
「お前たちは、そんな人を選ぶなよって思うのは親心なのだろうか?」
「そう思うのはまだ早くないですか?澤田さんも幸せになっていいんですから」
「僕も」
「そうです。すぐじゃなくても、いずれ過去の傷を乗り越えられる人がいたらいいですね」
さあ、今日もレッスン頑張ろうっと言ってふうは走ってレッスンルームに行ってしまった。
「僕も幸せか。皆には僕が幸せに見えているのかな。それともそう見えるようにしているって思われているのかな」
ふうに言われた一言は僕に考えさせるには十分すぎる一言だった。
彼女とかかわらないようにしたのに、なぜもうすぐ6年になる今頃現れたんだろう。青木先輩と話した時は嫌がらせメインだと思うって結論になったけど、1週間以上も僕を執拗に追いかけ続けている。
一度彼女と接触を試みた方がいいのだろうか?彼女の取り扱い方の方向性が決められないでいた。