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最後に寿目線が入ります。
初詣の後に妙なスカウトに遭遇しながらも、午後二時過ぎには家に戻って沙良は年賀状チェックを、賢は残り少ない宿題をリビングでやっている。僕は賢の向かいのソファーに座りながらカレーにいれる野菜の皮を剥いている。スーパーで買ってきた牛肉は既に鍋の中で煮込まれている。家のカレーは僕を含めた大人と子供に分かれている。大人はビーフカレーでかなりスパイスを効かせる。子供用は双子が辛い物が嫌だというので、中辛ベースながら最後に牛乳を入れるのでかなり甘いチキンカレー。チキンカレーの方は鶏がらスープを取るために牛肉の隣で煮込んでいる。
「お正月の匂いだよね」
沙良がこんなものかと言いながら年賀状の仕分けがダイニングテーブルに並べてうっとりしている。
「そんなものか?元旦にカレーを作るって多分普通じゃないぞ」
「そうだよ。兄ちゃんが公務員辞めてから作ってくれるようになったじゃん」
「そうだっけ。でもお兄ちゃんのご飯好き」
「それはありがとう。沙良はそろそろ何かちゃんと作れてもいいんじゃないか?」
学校の家庭科の時間で調理実習をやっているはずだから、少しは作れるはずなんだよな。実際のところはよく分からないけど。
「少しはね。お兄ちゃんっていつから作り始めたの?」
「僕?高校に入ってからだって。母さんたちがいた頃は卵かけごはんレベルだったはず」
卵かけごはんを作れるものと言い切っていた当時の自分に突っ込みを入れたい気もしなくない。
「そうなの?」
「寮の食事の時間以外に食べたくなったときに困るだろう?高校の先輩に教えてもらって少しずつ作れるようになっただけ。大学に行って最初は一人暮らしだったから自炊をするだろう?そこからだよ」
「やっぱり一人暮らしってした方がいいの?」
「どうだろう。僕が大学から家を出たのは、お前たちがまた小さかったし、その上僕がいたら大変かなって思っただけさ。その代わりに家に戻ってお前たちと遊んだだろう?忘れたか?」
卒業と同時に親と一緒に暮らすはずだったけど、双子の子育ては大変だと判断して自宅から近い単身者向けマンションで一人暮らしを始めたんだ。二人をお風呂に入れたり、散歩に連れて行ったり僕なりに育児をサポートしたと思う。
「そういえば、お兄ちゃんの学校に行ったこと……あるよね」
「そうだな。夏休みに連れて行ったか。後が大変だったけどな」
「もしかしてお兄ちゃんの子に思われた?」
「ま……な。今になれば笑い話だ。二人でにーにって呼んでくれていたからな」
双子は休みに僕が学校に行くたびに何度かくっついてきて、何度か迷子になっているんだけど……本人たちはきっと忘れているんだろうな。
その後も僕らは僕にとってはちょっと前の話……二人にとっては覚えていない幼いころの話に花を咲かせたのだった。
カレーのルーを入れてひと煮たちさせてから、火を止めた。これでカレーの出来上がり。明日火を入れるときは好みでスパイスを足した方がいいんだけど、うちはスパイスを足すことはない。玉ねぎを切るときに一緒に切ったみじん切りと鶏のひき肉を混ぜていく。レンジで加熱させたキャベツにひき肉を具にしてロールキャベツでもいいし、キャベツとひき肉の重ね蒸しにしてもいい。どっちにしても明日の朝食の下拵えだから今すぐに決めることはない。
そういえば、実家に戻っている寿は明日の朝ごはんはうちに来て食べるのだろうか?そこのところは後でツイッターでもいいから確認しておけばいいか。ちょっと多めに作って残せばいいからロールキャベツではなくて耐熱皿し敷き詰めてからレンジで加熱させてしまえばいいかと思って、食器棚から必要な耐熱皿を探すことにした。
翌日、ほぼいつもと同じ時間に起床したけど、家族はまだ寝ているから電気ポットに水を入れてコンセントを入れるだけにする。ベンチコートを着てスニーカーを履いて外にでる。昨日と同じように今日も天気は良さそうだが真冬の朝らしく肺に入り込む空気が冷たくて気が引き締まる。
普段ならこんなに早い時間に外に出る必要はないのだが、アイドルの同行する最初に仕事が早朝のニュース番組で番宣を兼ねたお天気のアシスタントだ。当日は多分現場に午前4時に行かないといけないだろうから、前日に担当するアイドルと僕のマンションに泊めて連れて行けばいいだろうと周囲との調整で決まっている。
こっちは自分の体調管理も兼ねて少しだけ体つくりと称してマラソンを始めることにした。それは大義名分な部分が大半で、昨日双子のお父さんと言われたことがかなり自分にとってはショックだったことは否定できなかった。
「まあ、筋肉バキバキじゃなくてもうっすらと割れていればそれで十分だし」と僕は自分に言い聞かせる。今のマンションには簡単なトレーニング器具をリビングの一角に置いてある。時間が不規則だからジムに通うことができないのでもっぱら夜中になってしまうけどそれなりに体力の維持に努めてはいた。
本当に忙しいとエアロバイクだけしかできないのが現状だったりするけど……それはそれでいいか。
昨日、寝る前に寿にツイッターを送ったら明日の朝に返事するとシンプルな返信があった。中学を出てからほとんど過ごしていない家族と一晩過ごすのだから仕方ないことかもしれない。今までなら元旦は恒例の実業団駅伝のチームの一人としてお兄さんが参加しているのだが、今年はチームを移籍してチームが駅伝チームを組むことができなかったために、初めて家族全員で新年を過ごすんだと疲れたように言っていた。寿自身は、家族に何かを期待しているわけではない。世間的に理想的な家族のパーツとして参加しているだけだと僕に零していた。陸上でそこそこな実績を残している兄と、全国的に知られている進学高から有名国立大学の法学部に現役で入って有名企業に勤めている弟。世間的には恵まれている家族の絵に見えるのだろう。そういうときだけ寿は呼び出される。まるで自分たちを飾り立てる宝飾品の一つのような扱い……親だから仕方ないよなって言いながら実家に戻る寿の気持ちをどうして彼の家族は理解できないのだろうと思うと切なく思う。
そんな寿が、今回で終わらせるからと言って昨日実家に戻っていった。無事に何事もなく家族ごっこが終わったのだろうか?
15分位走ってから僕は自宅に戻ってスマホを確認する。寿からのツイッターが着ていた。いつもなら駅に迎えに来てほしいと来るのに、今回は寿の実家からほど近いコーヒーチェーンで待っていると書いてある。寿の実家に送って行ったことがあるからその店の場所は分かるから、いいよ。何時がいい?と返すと……9時位でいいかなとあった。多分、寿の限界がその時間なのだろうと僕はそう解釈していた。
寿との待ち合わせのコーヒーチェーン店に行くとほほが赤く目が潤んだ寿が惚けてアイスクリームを口にしていた。
「寿?お前……風邪ひいたか?」
「うん。体がだるい。ちーちゃんのマンションに帰りたい」
「朝飯は?」
「ない。あの人たちは夜中まで酒盛りだったから」
「もういいよ。落ち着いたら何があったか教えて。さあ僕の実家に帰って朝ご飯食べて薬は……僕の常備薬で平気だよな?」
「うん。ごめん、ちーちゃん」
「いいよ。アイスはゆっくり食べろよ。僕もアイスコーヒー買ってくるから」
一晩で凄くだるそうに見える寿に何があったのかなんとなく僕は察することができて、彼の両親の対応にやるせなさを感じるしかなかった。
「あら、大変。千紘、とりあえず客間で寝かせましょう」
「そうだけど、朝飯の残り一人分貰うよ。白戸?朝食べてないよな?」
「うん。勝手に食べたら怒られるから……アイスしか食べてない」
「じゃあ、朝ご飯食べて薬飲んで一度休んだら?」
「そうだな。お前が寝ている間にマンションに一度帰るから」
「えっ?俺は?」
「寒い部屋にお前と帰るわけにはいかないだろ?布団乾燥機で布団を温めて、室内も過ごしやすい温度に設定してから迎えに来るさ。先に荷物持っていくぞ」
「うん、ありがとう。落ち着くまでちーちゃんの家にいてもいい?」
「いいけど。お前明日の新年会どうする?」
「熱次第で行きたい。一人でマンションいたくないし、寮も嫌だ」
人当たりが良くて人懐っこいと思われがちな白戸だけど、本当は一人でいるのが誰よりも嫌がる。それを隠すために見た目がどうしてもチャラくなってしまっているだけなんだ。
「いいよ。まずは朝ごはん食べて客間で寝てろな。ちゃんと迎えに行くから」
「うん」
客間に再び布団を敷いて白戸に自分が着ていたスウェットを手渡す。ちーちゃんが着ていたのを着るの?なんてちょっと照れていたけど、早く休ませた方が体にいいことだけは分かっているから文句は言うなと言って無理やり着せた。
朝ごはんのキャベツとひき肉のコンソメ蒸しを食べさせて薬を飲ませるとあっという間に白戸は眠ってしまった。
「じゃあ、荷物だけ先に置きに帰るから」
「いいわよ。一晩で何があったのかしら」
「フローリングの床に寝袋一つで暖房器具すらなかったんだろ……多分」
「それは……どうなのかしら?」
「さあ、親達はかなり遅くまで酒盛りしていたらしいから」
僕が白戸から聞いた範囲で母さんに答えると、母さんも返す言葉もないようだった。
「じゃあ、寿をよろしくね」
「いいけど……二人とも……女の子が好きなのよね」
「もちろん。もしかしてそっちに思えたの?」
「そんなつもりはなくても行動がねえ」
「それはないよ。学園の皆も冗談半分で白戸の嫁とか言ってはいるけど、本当にそれは困る。僕が嫁じゃなくて、僕は嫁が欲しいんだから」
「分かったわよ。もしそうなら結婚って言わない方がいいのかしらって思ったから」
「それはやめて。僕らはノーマルだし、過ごした時間が長かっただけだから」
「はいはい」
母さんに白戸を頼んで僕は一度自宅に戻ることにしたけれども、母さんたちまで僕らがそういう関係なのではと疑っていたのには勘弁してほしかった。
このことは白戸には教えない方がいいだろう。このタイミングで言ったら本当に白戸が立ち直れなくなるだろうから。
部屋に戻って、真っ先にエアコンと加湿器と白戸が使う客室の布団を布団乾燥機のセットをする。それと互いのカバンから洗濯する衣類を探して洗濯機に放り込んだ。
かなり熱が上がっていそうなので、マンションのそばのコンビニでアイスクリームをいくつか買い込んで、冷凍庫の入れておく。熱があるときはプリンとかコーンスープを飲みたがるので、簡単に作れるプリンの素もスープの素もストックも入っているから、寿を迎えに行く前に牛乳とホットケーキミックスを追加で買っておけばいいかと思う。
白戸の風邪も今までの経験で、熱が一気に上がって節々が痛んでそれで終わりの可能性が高い。今からしっかりとケアすれば明日の午後には熱は下がって体のだるさが残っているだけだろう。ああ見えて白戸は扁桃腺が弱いので、咽頭炎にかかることが多い。マスクを着けてアルコールを飲ませなければ多分問題はないだろう。今回の会場は、知人の店で当日は貸し切りになっている。ほとんどが学園時代の先輩や同期や後輩とその彼女とか家族とかだ。バカみたく飲むわけではないから僕も気軽に参加している。白戸も毎年楽しみにしているから何とかして明日は連れて行ってやりたいと僕は考えていた。
「寿?起きれる?」
「あっ……ちーちゃん」
ぐったりしている白戸はゆっくりと体を起こす。結構汗をかいているように見える。
「マンションに戻れるから帰ろう。その前にマンションから持ってきたから着替えろよ。洗濯はマンションでしておくから」
「うん……喉乾いた。レモネード飲みたい」
「いいけど、お湯割りがいいか?それとも炭酸割?」
「うーん。炭酸がいいけど無理だよね。水で割って」
「分かったよ。作ってくる間に着替えておけよ」
「うん」
白戸にレモネードが欲しいと言われたので、キッチンでレモネードを作ることにした。アメリカ赴任のときに僕も休みにアメリカに行って覚えたレシピで作る。
個人的には、レモンのはちみつ漬けを炭酸水で割った方が好きなんだけど、レモンのはちみつ漬けは実家にはストックしていないから今は諦めることにした。
「すみません。迷惑かけちゃって」
「大丈夫?家にいてもいいのよ?」
「来客が多くてゆっくりできないから今のうちに行くよ。僕のマンションで面倒見るから」
「明日仕事始めでしょ?白戸君一人で平気なの?」
「明日の勤務は元々半日勤務だし、事務所自体はまだ休みだから電話番でもないから。仕事が終われば帰れるから大丈夫」
「そう、なにかあったら連絡頂戴。マンションに行くから」
「ありがとう。それじゃあ行こうか。寿……歩けそう?」
「頑張る」
玄関まで歩くのがやっとだった白戸をこれ以上歩かせるのも問題だなと思った僕は、白戸を抱っこで車に運ぶことにした。
「ほらっ、首に手を回せ。暴れるなよ」
「重いって。ちーちゃん」
「僕は今でも体力の維持をしているし。大人しくしていろ。落とすぞ」
「あらあら。でも白戸君ふらふらしているから、ちょっと恥ずかしいけどお姫様抱っこの方が安心ね。でも、マンションに戻ったらどうするの?」
「コンシェルジュがいるから、部屋の鍵を渡して放り込んでもらう予定。いいよな?」
「うん、文句は言えない」
「さあ、さっさと帰るぞ」
僕は白戸を後部座席に放り込むとゆっくりと車を走らせた。
マンションに戻った白戸は、更に熱を上げるのだけど、僕が翌日起きるころには微熱位まで低下していたので、僕は当初の予定通りに出勤することにした。
Side寿
「寿?起きれるか?」
「うーん、ちーちゃん」
どうやら汗をかいているらしい。何回となくスウェットを着替えているけど今は何時だろう?
「今は夜中の2時過ぎ。熱は下がってきているから、一番酷いときは過ぎたはずだ」
貼っておけよと渡されるのは熱さまシート。額に貼られているのは乾いてパリッとしている。
「ごめん。ずっと起きてた?」
「まさか。僕だって寝ているって。着替えて水分取って寝たら朝になってるから」「うん……ありがと。暖かくしておいてくれて」
「冷たい布団に寝るのは嫌だろ?たいしたことじゃないって」
「だって、親はそんなのすらわかってくれなかった」
俺、昨日の夜はフローリングに寝袋だったんだぜ。部屋にはエアコンもないし。兄貴が使っていたと思われるベンチコートがあったから寝袋に下に敷いて、自分でも着て寝たんだけど……案の定咽頭炎になったらしい。らしいというのは、休日外来に行かないでちーちゃんが持っている薬を分けてもらったから。
マネージャーをしているちーちゃんの健康管理もかなりのもので、定期的に常備薬を貰うために通院している。ちーちゃん自身が風邪をひいて寝込んでいるのをあんまり見た覚えはない。きっと俺と違って体が丈夫なのだろう。
あまり体が丈夫じゃない俺は、健康優良児な兄と比較されていた。兄と比較されたくないから兄が選ばなかったバスケットにした位だ。
高校も学園を選んで本当に正解だった。同じ部活にちーちゃん……澤田がいて、澤田と親友だった大熊とも仲良くなって……初めて白戸寿として受け入れてくれた気がする。どこにいっても白戸の弟と言われるのに嫌気がさしていたから。
そうなると、自然と実家に帰る理由がなくなる。部活と勉強を理由に長期の夏休みも実家には戻らなかった。実家に戻ると嫌って程自分の居場所がないのが辛かったから。
大学に入ってからは、一人暮らしをしたかったけど、親に反対されて自宅より少しだけ大学に近い叔父の家から通うことになった。叔父は司法書士事務所を開設している。叔父自身は司法書士のほかに税理士受かっているのでかなり忙しくしていた。
事務所の近くに叔父の家があって、俺に親のように本当によくしてくれた。法学部の学生の俺にいずれは事務所を継いでほしいと言われた。実家から離れられると思った俺は即答した。そこからは自分なりに取得できる資格は取得して有名なメーカーに就職できたのは本当にラッキーだったと思う。
持っている資格に有利な部署で勤務してから今は法務部勤務。今の役職は主任だけど、春からは係長の打診を受けた。まだ返事をしていない。叔父の事務所に2年後を目途に移ろうと思っているからだ。花形の部署を渡り歩いていない割には正当な評価をされているかもしれない。
兄貴は、大学を卒業して入社した実業団チームを止めて、新規で設立したチームに入ってこれといった実績がないらしい。昨日久しぶりに一緒に過ごしてなんか焦っている気がした。あと数年で現役を引退してその後の道を考えるころだろう。彼の人生には俺の存在は恐らくなかったはずだ。そしてこれからも必要ないだろう。今の俺にとっての家族は叔父夫婦だし、ちーちゃんたちだ。
今朝も風邪をひいてダルそうな俺を見て、「移さないでよ、病原菌」扱いをしてさっさと出て行けという態度の両親に本当に愛想を尽かした。あんなに寒い部屋で一晩過ごせって普通ならあり得ない。普通じゃないからいいのか。
そんな俺を見て、家族でもないちーちゃんが家族のように僕の世話をしてくれる。学生時代からお世話好きなちーちゃんが国家公務員を辞めて芸能事務所のマネージャーになると聞いた時には驚いたが、案外本人にはあっているようで結構楽しそうにしている。僕が泊まりに来たときに、翌日朝が早いからってアイドルを自分の部屋に泊めているのもたまにある。本当なら俺が自分の寮に帰ればいいんだろうけど、一人でいたくないのを察して泊めてくれるちーちゃんについ甘えている。
このままじゃいけない。俺たちだって結婚適齢期と言える年齢に入ってきてる。
俺がすべきことは……ちーちゃんに頼ることを少しずつやめることかな。うん、今年の目標はそれでいいや。でも……今は……ごめん。甘えさせてほしい。
決して、ちーちゃんを恋愛対象では見ていない。それはちーちゃんも同じはずだ。でも、ちーちゃんは気が付いている。本当の俺がちっちゃな子供と同じで一人でいるのができないことを。
「ほらっ、飲み終わったのなら寝る。明日の新年会……行きたいんだろ?」
「いいの?」
「ちゃんと、主催者には僕から事情を話しておく。アルコールは絶対に禁止。それと完全に体調が戻るまで僕のマンションから通勤すること。いいか?」
「うん、ちゃんとする。分かった。お休み」
ほらっ、俺の家族より俺のことちーちゃんは分かってくれる。大好きって言葉が一番正しいんだけど、それを使うと勘違いされそうだからありがとうって言ってもいいよね。でもちょっと寂しいな。俺が寝るまでいてくれないかな。
「お前が寝付くまでいるから、さっさと寝ろ」
「うん。ありがとう」
ちーちゃんは僕が欲しい言葉を本当にくれる。今まで付き合った彼女の誰よりも分かってくれる。安心しきった俺はもう一度眠りにつくことができた。
けど、次の日の朝。僕の手を握ったまま布団にはみ出した状態で寝ているちーちゃんを見たとき、ほんの一瞬だけどうしてちーちゃんが女の子じゃないんだろうって恨み言を思ったことは自分の胸の中にしまっておこう。