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「すみません、澤田さん。休みだったのに」

「それが僕の仕事だしね。今日は二人ともお疲れさま」

「はい、お疲れ様です。あの番組って凄いんですね。新人で出てもいいんですか?」

「なっちゃんの場合は、バックサポートだから平気だよ。でもこれからはスタジオサポートをお願いするかもしれないけど……平気?」

「無理じゃない程度ならいいですよ。それに勉強になります」

「そこは年明け以降に決まることだから。あいつらもなっちゃんのピアノ楽しんでいたみたいだしね」

「そうなんですか?私、必死だったから分からなかった」

「澤田さんのいう通りだと思う。先輩達、普段は凄く厳しいから。もちろん優しさもあるけど、高いクオリティーを求められるから僕だって緊張するし」

「楓太さんも?」

「そう。僕ら全員……樹もね」

「そうなんだ。澤田さん、楽屋での話だけど……」

なっちゃんが言葉を濁した。

「何?楽屋でのこと?」

僕が聞くとなっちゃんは頷いた。なっちゃんが気にしていることは出番終了後の楽屋でのことだろう。なっちゃんたちが終わった後の楽屋は事務所の人間しか楽屋にいなかったことも起因していることだった。


「皆お疲れさま」

楽屋にあるモニターで皆を待っていた僕らは各メンバーの飲み物を紙コップに入れて待っていた。

「これから後ってどうなってんの?皆いるんだろう?」

「すみません、私はこれで……」

「僕もちょっと……」

ふうがこの番組に出た後は皆より先に帰るのはいつものことだし、なっちゃんに至っては義務教育なのだから当然。ビビットのメンバーは分かっていることだから特に聞くことはないだろう。

「ふうの家は厳しいからなあ」

「そうそう、皆が揃っている間にブログ用に写真を撮ろうよ。さわっち達もいい?」

「いいわよ。ナツミ。今日の台本を手にして頂戴」

里美さんのジ氏でなっちゃんの撮影が始まる。

「それにしても、なっちゃんのドレスはかなりお姉さんなデザインだね」

「これは、今度のジョイントコンサートでも使える様にっておじさま……社長が」

「ちょっと待って。それって何?」

ビビット達は既に知っている話だけど、先輩たちがざわついている。そこのところは僕も最近知ったようなものだ。

「私。本名では既に事務所にマネジメントして貰っているんです。ピアニストとして」

ジュニアピアノコンクールで何度か入賞してからは、年に数回プロのピアニストとかオーケストラとのジョイントコンサートの企画が定期的にあって、参加しているのだそうだ。

「そうね。年明けのニューイヤーコンサートのオファーを受けちゃったから、これから追い込みよね?」

「そうなんです。オケの皆さんも私が芸能活動を始めると知ってびっくりしていました」

そうだろうな。将来がかなり見込まれているピアニストであるなっちゃん。それなのに当の本人はそれを望んでいなくて今の形で十分だと言っているのだから。

「私の夢は音楽の先生なのでプロではないんです」

「それってモデルさんでもタレントさんでもないってこと?」

「途中で夢が変わってもいいかなって思う位には今のお仕事も楽しいですよ」

なっちゃんは穏やかに微笑みながら質問に答えている。

「そのチケットってまだあるの?」

「ありますよ。時間があるのだったら手配……大丈夫でしょうか?」

皆の会話を聞いていると、どうもふうはチケットを入手しているようだ。この流れの中で僕は来月後半のスケジュールをビビットのメンバーに手渡した。


「ねえ、さわっち。今年は大丈夫?」

「ちゃんとレッスンにしてあるだろう?」

「なんだよ。ビビット。その俺得なスケジュール」

どうやら、メンバーがカレーの日にレッスンにしたことに気が付いてしまったようだ。等の先輩たちは当日仕事らしい。社長からは現時点で当日仕事はある予定になっているタレントの名前だけは聞いている。それに直前で変わることなんてこの業界では良くある話だ。とは言っても、先輩たちのスケジュールがどのタイミングなのかはさすがの僕も知らない。

「ランチボックスもできるし、翌日の焼きカレーの権利もあるんだし……」

「マネージャー?よろしくな?」

その一言でマネージャーはこくこくと頷いている。どうやらどうにか仕事を調整してランチタイムは事務所でカレーを食べさせろという事を要求しているようだ。ここだけの話だが、タレント達がカレーの日当日に仕事を入れたがらないため、ちょっとだけ困っていることになっているのもまだ事実だったりするんだ。海外ロケ組も全力で拒否するというのはどうなのだろうか?個人対応もしなくはないんだけどな。それを言ったらまたややこしくなるだろうしな。

「あの……私……」

「どうしたの?なっちゃん?」

「私、カレーは甘口しか食べられないの」

「ええ。給食のカレーもダメ?」

「……ちょっと辛いです」

学校給食のカレーは確か中辛だったはずだ。うちのチビ達もカレーは辛いのを嫌がるから実家で作るときのように作れば大丈夫だろう。

「平気だよ。なっちゃんだけのカレーを作ろうね」

「やったあ。里美さん、私のお仕事ってどうなっているの?」

「あってもお弁当にしてあげるわ。今のところはレッスン日だけどね。マカロンのCMの問い合わせが入り始めているから仕事になるかもしれないわ」

「はい、頑張ります」

「さあ、メイク直しをして最後に皆で写真でも撮ろうか」

集合写真を撮ってその場でブログを更新して私服に戻った二人とようやく放送局を後にすることにした。


「すみません、本日の出演者及び関係者ですか?」

出口ですんなりと出るつもりだったのだが、ふうが足止めを食らってしまった。

「えっ?どうして?」

「ふう、カラコン外してる」

今のふうはいつもしているカラーコンタクトを外していた。

「そっか。だったら……はい、これでいいかな?」

パスケースから取り出したのは、今回の為のIDカード。

「すっ、すみません。お疲れさまでした」

「失礼します」

ようやくゲートを通って駐車場に到着する。

「びっくりした。あんなことってあるんだ」

「いつもなら澤田さんのポジションなのに……ちょっと凹むな」

ふうはかなりむっとしているようだけども、カラコンだけが原因ではなかった。

「カラコンだけじゃないさ。髪も……だからじゃないか。メンバーもいないから更に状況的には仕方ないだろう?」

いつもの変装姿じゃなくて、完全にすっぴんじゃ難しいだろうな。

「それって僕の素の方が地味ってこと?」

「悪く言えばね。それが悪いとは言わないけど」

「私も、ふう君よりも雅さんの方が見慣れているからこっちの方が……いいです」

まあ確かに入館ゲートでよく足止めを食らう僕だってマネージャーになって五年に経つというのに。情けないと言われたらそれまでの事になってしまうなと少しだけ不安になったのは内緒にしておこう。


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