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今回は、留守番の嫁(白戸君)と実家の皆さんとのやり取り。

ちゃらいと思われている白戸君も実は……なお話し。

In澤田家のリビング

「しーちゃん、お家に帰りなよ」

「そうだよ。ここから近いんだろ?」

ちーちゃんが仕事で実家を出て行ってから、なぜか俺はちーちゃんの双子に絡まれていた。

「だから、ちーちゃんが言っただろ。兄貴が結婚するって分かった途端に俺の実家が二世帯仕様になった訳」

「うん、それで」

「俺の部屋も親の家の方にはあるんだけどさ、完全に物置になっていて俺自身が使うに使えない訳」

本当は年明けに引き渡しだったらしい実家の二世帯住宅。大人の事情的なことがあったようで、年末ギリギリに引き渡されてしまった。急きょ親たちも仮住まいの賃貸を解約して引っ越してきたのはいいけれども、使わない荷物はとりあえず寿の部屋でいいわよねってノリでどんどん押し込まれてしまって、俺が戻ってもゆっくりと過ごす場所は現状ではないのが実情なのだ。

「ご実家のご両親は?」

「流石に帰ってくるなとは言いませんけど……今年は布団で勘弁してくれって言われましたね」

そう、俺がかつて使っていたベッドは解体されたままですぐに使えない。それ以前に部屋の荷物をどうにかしないと組み立てることもできないようだ。

「まあ……それなら仕方ないのかしら」

「それにですね、義理の姉のご両親も今夜から兄貴たちの家に泊まるらしいんです」

「そっか、白戸君的に気を遣ったってことなのかな」

「元旦のお昼過ぎに実家に戻って、一晩止まってから寮に戻る予定です。ちーちゃんは仕事始めが三日からと聞いたから」

「うちはそんなに気にしなくてもいいのよ。澤田家も千紘の部屋を二人が使っているものね」

「えっ?ちーちゃんも部屋がないの?」

「千紘が使っていたベッドは賢が使っていて、本棚とかを二人がそのまま使っているのよ」

「ちーちゃん、夜は何処で寝ているんですか?」

「リビングのソファー。一応ソファーベッドにできるタイプだから」

「えっ、俺……今夜いていいんですか?」

「大丈夫よ。客間に布団敷いたから。枕投げをするお年頃でもないでしょう?」

ちーちゃんのおばさんはにっこりと笑っている。親友の実家に泊まりこむのは……大学に入学した時以来だから12年位前になる。あの頃は、双子がまだ小さくて俺はちーちゃんの部屋に折り畳み式ベッドを出してもらった記憶がある。

大学在学中に、再び両親が海外赴任になってしまい、今度は実家で一人暮らしをしていたちーちゃんの家に皆で集まってレポートを書いて、卒論の追い込みの時は合宿所のようになっていたっけ。

あれから8年双子も大きくなり、ちーちゃんもマンションを購入したし、俺の家も建て替わっている。時間は確実に過ぎているんだなと痛感する。


「白戸君のことだから、ご実家の権利関係の書類は引き受けたんでしょう?」

「それだけじゃないですよ。少しですが、資金援助もさせて貰いました。だからもう少し強気に出ることもできるのでしょうけど……義理の姉のご両親がいる前でそれはどうかと思ったので大人しくすることにしました」

「あら、かなり親孝行じゃない。それならもう少し親御さんに甘えてもいいと思うけど」

「結婚の予定のなくて、普段は実家にいない義理の弟が年末に居座るという解釈もできなくはないだろう?そっちに解釈されたら、白戸君がこれから辛くなるんじゃないかな」

ちーちゃんの父は、俺が危惧していたことが分かったようだ。兄貴たちの結婚式の時だって、あちらの親族からしつこい位に結婚の予定の有無とか聞かれたんだ。何が目的なのは分からなかったから、曖昧に誤魔化してそのままだ。

そんな状況で、のんびりと実家で体を伸ばせる状況ではないだろう……今年の実家の帰省だと。だから、一泊だけ実家に泊まって帰ることにした。

これからは……そろそろ今の会社の退職のタイミングを計ってもいいころだろう。俺の本職は司法書士だ。今はあるメーカーの法務部勤務となっている。父方の親族で司法書士事務所を開設している人がいて、高校に入るころから俺が跡を継ぐことが漠然と決まっていた。俺の他にもいとこやはとこがいたのだが、法学部に入学したのが俺だけだったので、大学入学時から最終的な進路は決まったようなものだった。親戚の方もそろそろセミリタイアをしたいから、会社に退職の意向を出して欲しいと言われている。

年が明けてから上司にそれとなく打診をして、来年度末に退職できたらいいかなと俺なりに試算してはいる。

「じゃあ、今の寮にも居られないわよね」

「そうなりますね。実家にいられるのであれば、両親の世話込みでいてもいいんですけどね。こればかりは親たちと兄夫婦の意見もすり合わせないとダメでしょうね」

「そうだね。一緒にいなくても手助けならできるから。気負わない方がいいんじゃない?」

「そうですね。退職するまでにどうすべきか決めるようにします」

俺も年が明けたら、徐々に退職できるように根回しをしなくてはならないなと少しだけ気を引き締めた。


「ねえ、母さん。今夜は何?」

「ちーちゃんがカレー鍋のスープを持って来てくれたからお鍋にしない?足りない具材をスーパーに買いにこれから行くけど、何か必要なものある?」

「だったらさ、冷凍庫にあるポテトフライあげてもいい?」

「紗良。あなたはこないだ太るって騒いでいなかった」

「いいの。ポテトフライなら、パパたちだっておつまみになるじゃない」

「そうだな。白戸君、千紘には申し訳ないが付き合ってくれるかい」

「構いませんよ」

「分かったわ。支度をするから皆も準備して頂戴ね」

その後、ちーちゃんの母の指揮の元、買い物班と調理班に分かれて、1時間後におつまみメニューがダイニングテーブルとリビングのローテーブルに並ぶ。

時間は午後6時。相当早い晩酌のスタートだ。

「白戸君もお料理するのね」

「そりゃしますよ。会社の寮は刈り上げマンションなので自炊ですし。それに俺もちーちゃんから教えてもらいましたから」

「じゃあ、奥さんが具合悪くなってもご飯の支度はできるわね。紗良、あなたも結婚するのならそういう人を選びなさいね」

「うーん、しーちゃんと結婚したらいいってこと」

「そうは言っていないけど……白戸君とあなたの年齢差を考えてね」

ちーちゃんのおばさんの一言は俺にとってかなり衝撃的な一言で思わずフリーズしてしまった。確かにちーちゃんの家は暖かい。高校からは一緒に暮らした時間は少ないはずなのに凄く仲がいい。

俺の高校は全寮制(更に男子校だった)なため、両親が海外赴任の間過ごすという生徒も結構多いし、家族仲が上手くいっていないから自宅から逃げてきたと言っても過言でない生徒もいた。俺もそんな一人と言ってもいい。俺には、叔父さんがいてくれたおかげかもしれない。家族に相談すべきことも叔父さんにしていた。大学進学を決める時も、兄貴しか目に入っていない両親には最終決定しか言わなかった。

両親が言ったのは「私立は止めて国立にしなさい」だけだった。

兄貴がスポーツ推薦で有名な大学に入って、ルーキーシーズンでいい結果を出すようになって更に兄貴へのウェートが重くなっていった頃だ。結果的に俺の第一志望は国立だったから結果的には親孝行をしたことになったのかもしれない。

「紗良ちゃんには紗良ちゃんにふさわしい人が現れるよ。ちーちゃんの同い年だとおじさんだろう?」

「そうかな?兄ちゃんもしーちゃんもおじさんっぽくないじゃん」

紗良ちゃんは頬を膨らませているけど、親友の妹をどうしようとか……そういう対象として見たことがないから答えに困ってしまう。

「子供は嫌?」

「そうじゃなくて。親友の妹だからさ……ちょっと頭がついていけてないや」

「あらっ?そういうことに対してはかなり真面目なのね。ちょっと意外」

「おばさんまで。こればかりは縁ですから。それにまだまだひよっこですよ」

「そうか……千紘もだけど白戸君も苦労しそうね」

さあ、今日はリビングで食べるから、紗良はカセットコンロを出して頂戴ねと紗良ちゃんに言いつけると、キッチンはおばさんと二人きりになった。


「白戸君はいい子よ。ご両親とお兄さんがちょっと残念な人なだけで。自分の居場所は実家だけじゃなくていいのよ」

「おばさん」

「うちもちょっと変わっているかもしれないけど……千紘がいなくても来たっていいのよ。あの子たちも嬉しいみたいだから」

「えっ?双子って学校で何か……」

「今はないわ。帰国してすぐは言語面が大変だったけど、今は大丈夫」

「友達もいるんでしょう?」

「そうだけど、最近お兄ちゃんが事務所のブログに出てきたりしたせいで、それ目当ての子たちが来るのがうっとおしいって愚痴っているわ」

「まあ……マネージャーの弟妹だけで恩恵はないでしょうから」

「そうなのよ。千紘には内緒ね。二人だけでどうにかするつもりだから」

「ちーちゃん……。相変わらずのトラブルホイホイですね」

「そうよね。ちょっと前は兄がおじさんなんてかわいそうって言われていたのにね」

それもまた失礼だな。

「ちーちゃんに目がいくようになったのって、事務所のホームページだけじゃないよね」

「そうね。あの子達から相談を受けたら聞いてあげてくれる?」

「いいですよ。お鍋に火をかけましょうか」

「そうね。それとご飯を炊いておかないと。千紘、カレー鍋の〆はチーズを入れてリゾットにするのよ」

「へえ、初耳です」

「あの子の家でお鍋するといつもどうするの?」

「大抵がうどんか拉麺ですね」

そう、ちーちゃんの家で鍋をするときは皆の意見を聞いてから食事を用意してくれるからちーちゃんの意見を取り入れたことはなかったかも。

「あら、あの子らしいわね。普段は自分の好きなものを食べているから皆に合わせているのね」

「それって、嫌なのでは?俺たちの好みを押し付けて」

「それはないわ。あの子は逆に楽しんでいるわ。本当に嫌なら自分の感情を最終的に優先するから。私たちが、帰国した時にチビが生まれたことを一切知らせてくれなかったってへそを曲げて……2週間位家庭内別居したのよ」

「なんですか。その面白い話」

「そのうち教えるわ。さあ、リビングに出来上がったものを運びましょう」

ダイニングテーブルに置いてあるおつまみ系のおかずを指差されたので俺は言われる通りに運ぶのだった。


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