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白戸がエントランスにやってきたのは、三時を少し過ぎた頃だった。

「ごめん。ちーちゃん」

俺を見つけた白戸は、俺に向かってダッシュで走ってくる。その光景が女の子だったらきっと目を細めて走らなくてもいいからゆっくりおいでと言ったことだろう。でも相手は白戸だ。そんなことは言わない。俺の前にやってきた白戸は少しだけ息が荒いけど、僕と同様に元バスケ部だけにそこまで体力は落ちていないようだ。

「まあいいよ。ちょっと暖かいから外で待っていただけだし」

「ってか、仕事は?終わったんじゃないのかよ」

どうやら僕がスーツ姿なのを見て、白戸の方はまだ仕事が終わっていないことに気が付いたようだ。

「送迎役として声がかかっただけ。だから実家に戻って十七時過ぎたら国営放送にでも行ってくるよ」

「そういう話を聞くと、ちーちゃんって業界の人だよな」

「だから僕は業界の中の人の一人なだけ。裏方の」

「っていいながら、ネットに画像が出ていたり、ラジオで声を曝したりしているよな」

「あれは好きでやってない。大人の事情ってやつだ。察しろよ」

確かにビビットがパーソナリティーをしている『君にビビット』にはたまに参加はしている。時々仕事の都合でメンバーが少ないときはピンチヒッターとして参加するときもある。頻度としては年に数回である。そんなときに、今日は何の記念日であると小ネタを挟んだら思った割に好評だったようで、それ以降『さわっちの今日は何の日?』というミニコーナーができてしまった。学園時代の担当教師でそういうのに詳しい人がいたおかげで少々詳しくなっていたのが幸いといったところだろうか。

「はいはい。そういうことにしてやるよ。ってか、コンビニスイーツの差し入れってないの?」

「ああ。発売イベントも終わったから暫くはないと思うけど。マカロンの味が変わる頃に回ってくるけど、それはお前になんか食わせられないぞ」

「だよなあ。コンビニでちゃんと買ったほうがいいってことか」

「そういうこと。そうしてくれるとふうも喜ぶだろう」

楓太がCMキャラクターを務めている、君想いマカロンは楓太のアイデアがかなり採用されている。その最たるところはポスターに凝縮されている。レモンイエローのマカロンを大事そうに抱えて唇を添えている姿に『君に会いたい。だから君を想う』コピーが書かれている。このマカロンポーズもコピーもマカロンの色も全て楓太が決めたものだそうだ。

なぜ伝聞なのかというと、最初の打合せには同席はしたけれどもその後はすべて本人に任せていたのでここまで企画に参加していると知らされたのはプレスリリースの直前だった。CMソングは片想いを応援できるラブソングをカバーすることが決定している。最初は楓太一人が歌っていたのだが、休憩時間に収録の見学をしていた夏海ちゃんがコーラスとして参加することになり二人のデュエットソングという事になった。今のところCD販売の予定はないが、反響はかなりあり、二人に歌番組のオファーとか情報番組のオファーの依頼が止まらない。夏海ちゃんも年明けからはナツミとしてモデル活動も本格化していくのでそのタイミングに合わせていこうという方針が一昨日決まったばかりだ。

まずは、次回のCM撮影の時にアイドル雑誌の密着を受けることになっている。この出版社はナツミがモデルを務めるティーン雑誌と同じ出版社という事でこちらから企画として関係各所に企画書を出させてもらった。回答は年明けにも貰えるだろう。

前回のコンビニスイーツの時に工場ラインが間に合わないというアクシデントがあったので、今回はかなりラインを強化して貰っているためか今のところ販売停止という事態は起きていないそうだ。ビビットとしてキャラクターを務めているコンビニスイーツも一緒に買ってくれているお客さんがいるようで、工場は再びフル稼働だとコンビニ会社の方から報告を受けた。あのCMのお陰でメンバーの仕事も広がったし、仕事も増えた。こちらとしても本当にありがたいと思っている。


マンションから実家までは車で最短で五分くらいの距離だ。くだらない話をしているうちに実家の前まで来てしまった。

「だから、俺が仕事をしている間はいつも通りに過ごしてくれて構わないから」

「いいのか?」

「今更だろ。お前の場合は」

「そっか。本当は邪魔じゃないかと思われていないかなって」

「双子たちの遊び相手兼勉強相手だからちょうどいいんだよ」

「そっか。あいつらでかくなったんだろうな」

「さあ、僕も実家に戻るのは一年ぶりだし」

車を車庫に入れて、互いの荷物を取り出す。僕の方が仕事のガーメントバックがあるだけかさばってしまっている。

「何か持とうか」

「いいや。後で取りに来るさ」

僕が玄関のドアを開けようとしたら、「「おっかえり!!」」という威勢のいい声に圧倒された。

「ああ、ただいま」

「あれ?しーちゃんもいるの?」

「紗良、白戸だろ」

「いいよ。俺もちーちゃんって呼んでいるし」

「だからちーちゃんって言うな」

「寒いからさっさと入ってくれない?兄さん達」

賢に軽くにらまれて僕らはドアを閉めた。

「千紘、うがい手洗い忘れないで」

リビングからはのんびりとした母さんの声がする。

「はい、ただいま」

「あっ、お邪魔します」

「白戸君も千紘と一緒に洗面所に行きなさいね」

僕らは連れ立って洗面所に行くのだった。

その間リビングには僕の家族が勢ぞろいしているのだが、皆揃って僕と白戸が実は恋人なのではないか?などという物騒な話をしていたというはかなり後になって知らされるのだった。


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