ミレリアの話(中)1
むかしむかし、ある森に、1人の美しい少女がいました。
少女の名はリトリア。
リトリアの父親は彼女が小さい頃に亡くなり、母親は父親の死後、突然いなくなり、それからずっと1人で森に住んでいました。
ある日の事。
リトリアは毎日、日課である花摘みをしに、花畑に行きます。
それは父親の墓に置く為です。
今日も花を入れるための小さな篭と護身用のナイフを持って花畑に出かけます。
道中、花畑の方から2人の男の声がしました。
(いつもなら誰もいないのに・・何だろう?)
リトリアは不思議に思いながら花畑に足を踏み入れると、そこには髭を生やした気品のある振る舞いをするおじいさんが1人いました。
(あれ?確か声は2人だった筈・・私の気のせいかな?)
そう思っていると、おじいさんがリトリアに気付いたようで、柔らかく微笑みながら
「やぁ、君はここの人かい?」
と聞いてきました。
リトリアは固い動きで小さく頷きます。
おじいさんは
「そんなに固くしなくていいんだよ。良かったら話をしたいな。いいかい?」
と優しい口調で聞きました。
「少しだけなら・・」
リトリアは迷ったものの、ここに人が来るのが珍しいという事もあるせいか、おじいさんと会話をしてみる事に決めました。
「そうか。・・そうだなぁ・・まずは君の名前を教えてくれないかな?」
「えっと・・・」
するとおじいさんがあっと言って、
「おっと失礼、人の名前を聞く時はまず自分から名乗らないといけないね。」
オホン、と咳払いし、
「私はケヴィンです。クロセント国の王をしているんだ、よろしく。」
と言いました。
「わ・・私はリトリア。」
緊張しているせいか、声が小さくなってしまったが、ケヴィンはしっかり聞いてくれていたようで、
「そうか、リトリアか。いい名前だね。」
と言いました。
リトリアは嬉しくなり、笑顔になりかけましたが、ケヴィンの次の言葉でそれは消えてしまうのでした。
「そういえば、リトリアは両親と一緒じゃないのかい?」
「・・・・・」
リトリアは無言でうつむきます。
ケヴィンはその行動から何かを察したのか、
「あぁ、ゴメンね。この質問は気にしないでくれ。」
と謝りました。
「いいんです。こちらこそごめんなさい。」
リトリアは申し訳なさそうに頭を下げます。
その時、リトリアのお腹がグゥ、となり、
「・・・・・・・・・」
無言と共にリトリアの顔が一気に赤くなり、目には涙が浮かんできました。
ケヴィンはあたふたしながら、
「そうだ!これも何かの縁、ということで一緒に城で食事しないかい?」
と食事に誘いました。
「・・はい 。」
とリトリアは今にも消えてしまいそうな声で言うと、
「では、早速行くとしよう。」
とケヴィンはすぐに言い、それと同時に木陰から1人の青年が出てきました。
腰には剣を差しています。
「!?」
リトリアが護身用のナイフを素早く出すと
「あぁ、リトリア待ってくれ。彼は私の護衛なんだ。」
と言い、リトリアの手を優しく抑えました。
リトリアはナイフをおさめ、青年に向かい
「・・・ごめんなさい。」
深々と謝ります。
「いや、気にしなくていい。俺がお前の立場なら同じ事をしていただろうから。」
護衛はそう言うと、サッと反対を向いて歩き出します。
「彼は愛想がないだけで誠実で真面目ないいひとだから、」
リトリアが後ろを見るとケヴィンが護衛の背中を見ていました。
「だから?」
リトリアは首を傾げます。
「だからあまり悪く思わないであげてほしい。彼は・・・いや、何でもないよ。さあ、私達も行こう。」
「はぁ・・」
ケヴィンはリトリアを連れて護衛の後をついていきます。
(あ、そういえばパパのお墓に花をあげないと・・でもケヴィンさんに悪いな。・・・)
「まぁ、後でいいかな。」
リトリアはそう呟き、花畑を後にしました。
それが後で大変な事になるという事はまだ誰も知らないのです。