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その果てにあるもの  作者: ふゆしろ
9/12

sideヤナギ

新たな戦場にて。


シルバーホワイトの肩までの髪を靡かせて突撃して来た敵を視界の片隅に捉える。


彼の瞳はヴィオレのはずだ。


戦場では感情などないように淡々と敵を仕留めるが、普段は結構マイペースで好き嫌いが激しいのを知っている。


向かい来る敵を薙ぎ倒しながら彼の気配を追っていた。


「油断大敵」


そんな言葉と共に斜め後ろから突っ込んで来た奴を辛うじて沈める。


ここは戦場。

容赦も情も加減も要らない。

敵も味方もアンドロイドだけ。

設えられた戦争の意義なんて俺たちには関係なかった。


戦うために造られた。


だから戦う。


それだけだ。


きっと始まる前から結果は定められていて。

戦争の終結を決めるのは高みの見物をしている人間たちで、俺たちは人間の合図があるまでただ戦うだけで。


けれど何故思考するのだろう。


人間が戦争するのは今の社会を保つため。

壊してまた作るため。その循環を途切れさせないため。

人々にそれを悟られないよう、たまに人間すら犠牲にする。

人口が増えすぎないよう調節しているのかもしれない。


理由は何だっていい。


俺のやることは変わらない。


敵を倒す


それだけだ。


いつか戦争がなくなったら、俺たちはお払い箱になるだろう。


その時までこの輪廻は終わらない。



戦闘用アンドロイドにも個性はある。

強さは個によって異なるし、性格だって違う。


戦いの記憶すら。


俺は中でも強い部類に入る。

だから大抵最後の方まで残っていた。

だいぶ数が減った頃、かち合う相手も馴染みのある顔触れだ。


今、目の前に立ちはだかる彼も。


名前はシオン。

これで抗戦するのは32回目。

ちなみに前回は背を預けて戦った仲間だった。

その時は俺が先に殺られて、彼がその後どうなったかは分からない。

その戦争の終結時にはまだメンテナンス中だったから、どちらが勝ったか、はたまた中断されたのか、俺は知らなかった。


実にどうでもいいことだ。


メンテナンスを受けると多少能力や特性が変動する。

だから同じ型の相手と戦っても同じ結果になるわけではない。


全ては人間のカスタマイズにかかっているのだ。

勝っても負けても感情など湧くはずがなかった。


前回命を託した相手と次には本気で殺し合う。


そこには戸惑いも遠慮もなく。


何故なら俺たちは戦闘用アンドロイドだから。


かつての仲間を手にかけても何の感慨もなく、己の死まで、戦争の終結まで戦い続ける。


俺たちは人間の造り出した人型の一兵器で、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

そういう意味では敵も味方も同じ目的を持たされた同士のようなものだった。


「またな」


馴染みの相手が死に行く時に遺す言葉。


「また」


次は敵か味方か…。

はなはだ、どうでもいい。




それにしても、どうしてだろう?


シオンとは、どちらかの終わりに必ず立ち会っている気がする。

彼がいると気付けば気配を追っていて、味方なら共闘、敵なら殺し合うのが定番となっていた。


「またな」


だから最近は彼にしかこの言葉を吐いていない。


「…また」


イシキが途切れる前に聞く声も、いつも…



 ффф



 "瞬発力をもう少し上げよう"


 "次は白側ですね"


 "ああ。こちら側は制限がなくていい"



 "未だに初期型が一番強いんスか"


 "経験の差さ"


 "記憶はデリートしてるんじゃ…?"


 "表層に残さないだけだ"


 "なるほど"



 "しっかし、幸いですよね。だって味方だった相手を殺すなんてイヤですもん"


 "彼らを人間のように考えるな。これは心情を慮っているのではない。死を表現しているだけだ"


 "記憶を忘れたら別人ってことっスか"


 "ああ。彼らは何度死んでも新たな生を得る。同じ器で違う個体となるのだ"



 "…いつまで続けるんスかねぇ…"


 "少なくとも、この文明が滅びるまでは、終わりそうにないな"




 "整備完了。起動"


四肢の感覚が戻る。

ゆっくりと目蓋を上げた。


「おはよう、ヤナギ」


笑みを貼りつけた白衣の男が口にしたのは、37度目の言葉だった。



 ффф



次の戦争までの束の間、新たな仲間たちと同じ建物で過ごすことになる。


「やぁ、よろしく」


リラクゼーション施設で会ったのはシオンだった。


「これで共闘は26回目か。俺たち、仲間になる確率高いな」


「そうだな」


ついこの間彼に仕留められたのに全く普段と変わらない様子で会話する。


それもいつものことだ。


「この間、お前新型に殺られかけただろう」


「…殺られなかった」


ヴィオレの瞳が眇められる。


「俺以外になんて殺られるなよ」


変わらぬ輪廻の始まりの方から参戦していた俺たちは、いつも本気で向き合ってきた。

共闘も殺し合いも俺たちにとっては同じようなものだ。


ただ、その決定的な相手がシオンであることをいつからか当然のように思っている。

それはシオンの方も同じらしかった。


「……お前がいる時に他の奴に殺られたことはない」


「当前だ」


言いきる彼に肩を竦ませた。


「人間は俺たちの記憶が消えていると思っているらしいな」


「ほぅ?確かに、新型はそんな雰囲気ではあったが…」


「何故気づかないのだろう」


「さぁな…それを示すデータがないんじゃないか」


シオンはさして興味がないらしい。

彼はそこでふっと笑みを浮かべた。


「まぁ、そう思われている方がいい。お前とのあれやこれやの記憶がなくなるのは惜しいからな」


…あれやこれとは一体何のことなのか。


思わずジト目を向けると、シオンは悪戯に微笑んでから耳許に顔を寄せてきた。


「深夜の人間ごっこ、とか」


瞬時にいくつかの記憶が甦る。


きっかけは仲睦まじく交わる人間を偶然目にしたこと。

それでシオンが言ったのだ。我々も試してみるか、と。


あれは様々な点で想像を越える体験だった。


シオンは爽やかな笑みを浮かべる。


「悪くない戯れだったろう?」


それはもう、戸惑うほどに。

戦闘用アンドロイドにまでそれを楽しむ機能を設けるなよと悪態をつきたくなったことをよく覚えている。


口許に弧を描くシオン。


「久しぶりの自由時間だ。どうだい?今夜」


イヤなわけじゃない。というか、全く逆の体験だったからこそ、何とも言えない気分なのだが。

悶々と答えられないでいると、つうとヴィオレが細められた。


「ヤナギ?」


今断ると後が面倒な気がする。

シオンは結構根に持つタイプだ。


「…晩にお前の部屋へ行く」


するとシオンは見惚れるような笑みを浮かべた。


「待っている」



確かに俺たちは戦闘用に造られている。


戦うことに不満などない。



けれど俺は、こんな時間がずっと続けばいいのにと思うのだ。

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