第五章「異端の天使」 9
お久しぶりになります。約半年ぶりの更新でもう忘れてしまわれた方も多いかもしれませんが、もふもふ(シノ)と申します。
最近は、サークル「満開日和」を立ち上げまして、そちらでの活動が手一杯になってしまったこともあり、前回の更新日から大幅に遅れた更新になってしまい、楽しみに読んでくださっていた読者の皆様には大変ご迷惑をお掛け致しました……(汗)
本日から毎週更新を再開しようと思っておりますので、これからも私と「天使と術者の永遠機構」を応援して頂ければ幸いです。
そろそろ第一幕も終盤に差し迫っている本編ですが、真正の天使VS創造の天使が繰り広げる天使同士の戦いに注目して頂ければと思います!!
それでは、ごゆっくりと楽しんでいってくださいませ~♪♪
「――――《神式札二式―九尾之幻惑》!」
TODⅢの攻撃が迫りくるなか、リンネが静かに短めの呪文を唱えると――――次の瞬間。彼女の肢体が陽炎のようにゆらゆらと揺れ始めた。
人工翼の加速によって勢いをつけたTODⅢの攻撃が届く頃には、リンネを形造っていた物体から次第に色素が失われていき、まるで空気に溶けていくかようにTODⅢの右腕をするりとすり抜けて掻き消えていく。
「――――っ!?」
標的を視界から見失い、TODⅢの重心が前方に大きく傾き揺らぐ。
リンネは敵の意表を突くようにTODⅢの背後を透かさず取り、袖口から二枚に束なった式札を取り出して攻撃を繰り出した。
「《式札―閃光の裁き》!」
リンネの投擲した式札は強く眩い閃光を放ち、鋭い弾丸のごとく敵の姿を正確に穿つ。膨大な質量を帯びた光は直線状に伸びると、『人工翼』で浮遊していたTODⅢの身体をそのまま地面へと強く叩き落した。
すると、不意を突かれたTODⅢは身体を酷く地面に打ち付けながらもリンネの追撃を警戒し、転がる地面を右腕の装甲で思い切り砕いた反動を利用して身体を大きく跳ね上げ、瞬時にその場からの離脱を図る。
リンネは《九尾》の力により浮遊した状態から敵の様子を上空から窺うと、そう簡単には逃がすまいと、懐から複数の式札を取り出して一斉に閃光弾を射出した。
戦況は一転して、防戦一方な状況に陥ったTODⅢはそれでも人工翼の機動力を活かしながら、時には『破壊』を駆使して光を相殺し、巧みにリンネの攻撃を躱していく。
一定の距離を確保すると、TODⅢは人工翼を一度解除してから宙を浮遊するリンネの方を見上げて、無表情を浮かべたまま様子を窺った。
「流石は《天使》。単純な破壊力だけではどうにもなりませんね。それでは――――」
TODⅢはそう言って、左腕の重たげな装甲を前方に突き出すと、無機質であるかのように淡泊な声色で静かに祝詞を唱えた。
「――――《具現》」
刹那。TODⅢの眼前に巨大な岩の塊が何処からともなく突如として姿を現した。
岩の塊は術の効果を受けて、その場に漂うにゆったりと浮遊している。
TODⅢが次に右腕の装甲を構え始めた瞬間、リンネはその意図を察して咄嗟に精霊による加護を受けた防御壁を展開した。
「良い判断ですが、貴方にこれが防ぎ切れますか――《破砕鉄槌》」
TODⅢはそう言い放つと、《具現》によって虚空に創り出した岩の塊に重厚な装甲を纏った右腕をそっと伸ばし、それを《破壊》で木端微塵に砕いて無数の岩の礫を勢いよくリンネに浴びせ掛けた。
《破壊》の爆発力によって後押しされた岩の礫は瞬きする間も与えない程の圧倒的な速度をもって、リンネに襲い掛かる。
「……くっ、うぅ……」
TODⅢの攻撃手段を事前に察知して咄嗟に防御壁を展開していたリンネだったが、あまりの暴力的な数の猛攻に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
契約精霊《九尾》が施した防御壁は突発的に生み出したものであっても、頑丈で強固なものに変わりはない。幾ら《破壊》による超加速を受けていると言えど、貫通することはおろか、傷一つ付けることすら叶わないだろう。
ただ、それでも、どうしても殺し切れないものが『勢い』だ。
圧倒的な物量に超加速を帯びた推進力、例え相手に外傷を負わせることは出来なくても、相手の動きを封じてしまうには十分過ぎる力だ。
ここまで彼女は《破壊》という術を執拗以上に行使し続けていた。
それもそのはず――あれだけの暴力的な威力だ。一撃でも通れば、確実に相手を戦闘不能に陥れることができる。また、攻撃は最大の防御でもある。あらゆる高位な術も右腕一つで破壊してしまえるのであれば、その術を行使しないなんて考えるはずもない。
だが、結果的にそれは返って盲点とも呼べる大きな誤算へと繋がっていた。
――――《具現》。
TODⅢの眼前から虚空に浮かぶようにして突如として出現した巨大な岩の塊。
あれが出現した時点でリンネは本能的に身の危険を察知し、感覚神経を通して全身に強い警告を発していた。
よもや、あらゆる物質や現象を破壊できる彼女がまして物質を創造するなど、誰が考えようものか……。
襲い来る無数の岩の礫に対応をせざるを得ない戦況のなか、とんだ先入観を抱いてしまったことを悔いるリンネに対して、TODⅢが次の手を仕掛けてくるのにはそう時間は掛からなかった。
TODⅢは背に生やした人工翼で飛翔し、《九尾》の力を借りて浮遊するリンネのがら空きとなった無防備な背後を透かさず取る。
そして、感情の抜け落ちた冷ややかな視線の先にリンネの姿を捕らえたTODⅢは容赦なく《破壊》の力を込めた右腕を振り下ろした。




