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天使と術者の永遠機構(リンネシオン) ~運命をもたらす天使巫女~  作者: もふもふ(シノ)
第一幕 「運命をもたらす天使巫女」
33/44

第五章「異端の天使」 2

本日の更新分ですが、PCの唐突な再起動により、更新が遅れてしまい大変申し訳御座いませんでした……!(汗)


だいぶ古株になっていたとはいえ、再起動とサイトの立ち上げに時間が掛かり過ぎました……。

毎度、楽しみに読んでくださっている読者の方々に深く謝罪を申し上げます。


前書きを書かせて頂くのは今回が初めてになると思いますが、一回目から謝罪をする形となってしまい、誠に不甲斐ないばかりです。


前回から五章に突入した、「天使と術者の永遠機構リンネシオン」ですが、前回の「リンネ」に焦点を当てたお話から、今回は「霧雨奏夜」と「とある少女」に焦点を当てたお話となっております。


前回までの「奏夜」のイメージだと、だらしなく無精髭を生やしたクレイジーサイコパスな霧のおじさん、みたいになっているかと思われますが、今回の話で少しでも彼の人物像に違った一面を見出して頂ければ、と思います。


「とある少女」に関しては、前書きであまり触れることはできませんが、今回は少し長めに書かせて頂きましたので、存分に「天使」に憧れた一人の少女の心情と、奏夜との関係性を楽しんで頂ければ、と思います。


それでは、これから毎週の更新継続を徹底していくので、何卒よろしくお願い致します!


 『天使』――――それは、この大陸全土に古くからの伝承として残っている『世界』の発展と安寧を守護するとされている、希望の象徴とも呼べる偶像的存在だった。


 そんな本当に存在するかも分からない曖昧で不明瞭な存在に――――年端もいかない一人の小柄な少女は心底魅了され、憧れの念を抱いていた。


 幼い頃から先天性の病を抱えていたその少女は、唐突なダウン症を起こすことから学園に通い教育を受けることすら叶わず、両親は共働きで忙しいこともあって、何か有事があっては大変だと外出許可さえ下りてはいない。


 そんな療養施設での何の変哲もない退屈な毎日を彼女はただ静かに過ごしていた。


 臆病で引っ込み思案な性格だったこともあり、施設内においても、友だちと呼べる間柄は誰一人としていなかったが、病室のベッドの傍らに申し訳程度に置かれていた一つの絵本だけが彼女の心の支えとなっていた。


 それはもう、何度繰り返し読み返したのかも覚えていない……。


 絵本の表紙には、二対の白い翼を背に生やした可愛らしい少女のイラストが描かれている。ページを捲る度、喜怒哀楽を表現するかのように『天使』の表情は様々な顔を覗かせているのが、なんとも印象的だった。


 小さな子ども向けに作られたであろうその絵本の内容はかなり抽象的な文章で書かれた物だったが、少女はそこに全て平仮名で綴られたある一点の言葉に妙に心を惹き付けられた。



「――――てんしは、いつでもだれかをみまもり、せかいにしあわせをわけあたえる」



 ――――こんな私でも、誰かのために何かしてあげられるのかな。


 少女は病弱で臆病な自分の小さな掌に視線を落としながら、自問自答するかのように胸中でつぶやいた。


 ――――誰かのためを思いながら、誰かの幸福を願い、全力を賭して、その身を捧げる。


 そんな勇気と希望に溢れた『天使』の眩しい姿に少女は羨望の眼差しを向けていた。


 『将来の夢は何になりたいの?』――――そう、誰かに質問されれば、少女は間違いなく『天使様のようになりたいです!』と、目を輝かせながら大声で叫んだことだろう。


 だが、自分の非力さに、軟弱さに、少女はため息を吐いて肩を落とす。


 ――――私の身体が、もっと強ければ……。


 ――――そう、彼女が『天使』に憧れを抱き始めてから、途方もない逡巡を幾度となく繰り返して、しばらくのことだ。


 ある日、白衣を身に纏った一人の男性が少女のいる病室を看病に訪れた。


 それは、彼女の実の父親にして『科技術特区』を統括する最高機関の一角でもあった――――霧雨奏夜の姿だ。


 白衣の襟元は綺麗に正され、背筋も真っ直ぐに伸びた堂々とした佇まいの彼は、上機嫌な様子で明るい表情を浮かべながら、我が娘――――『霧雨翼』の傍へと駆け寄った。


「どうだ、翼。今日もどこか容体に異常はないか?」


「うん。特に問題ないみたい。それよりも、パパなんだか今日はご機嫌だね。何か嬉しいことでもあったの?」


「おっ、分かるか、翼! 聞いて驚くなよ? 実はな、ここ最近の研究で『天使』がこの世界に実在している可能性が極めて高いという検証結果が出たんだ! 時折、精霊の森で観測されている不可解な力場の変動……世間では森に暮らす精霊たちの仕業や『丑の刻参り』による波長の乱れではないか、などと言われ続けてきたが、今度こそ間違いない――――あれは『天使』が下界に降り立ったことを人類に悟らせんとするために強力なちからを働かせたに他ならない! まさに、エキサイティング! 《科技術》の発展によって《天使》と直接会い見える日も遠くはないぞ!」


「《天使》様が実際にいる……? あの絵本にも描かれてた、ずっと憧れてた《天使》様に――――会えるの!?」


「あぁ、そうだぞ、翼が好きな《天使》に会える日もきっと近いぞ」


「は、はわぁ……!」


 奏夜がそう言うと、翼は瞳を爛々と輝かせながら、何度も繰り返し読んだ絵本の表紙に描かれた《天使》のイラストに視線を落とす。

胸の高鳴りが止まない大きな期待と嬉しさに抑えきれない感情が溢れ出した。


 病室のベッドの上で興奮気味に足をバタつかせる娘を前に、奏夜は「コホン」とワザとらしい咳を一つ吐くと、『実はここからが本題だ!』と、前置きを入れて話を続ける。


「今、《天使》との接触を想定した意思疎通を図るための取り組みが進められているんだが、その《協力者》として翼の力を貸しては貰えないだろうか?」


「え? わたしの……?」


 頭の上に「?」を浮かべるかのようにきょとんと首を傾げる翼は間の抜けた声で奏夜の質問に対して質問で言葉を返す。


「そうだ。この重要な役目は可愛い我が娘である翼以外には考えられない。それに以前からずっと翼は《天使》の魅力に骨抜きだっただろ。《天使》と面と向かって会話が出来るなんて折角の機会、棒に振るには持ったない話だろ?」


「でも……私じゃ、なんの役にも立てない。こんな病弱な身体じゃ、また誰かに迷惑を掛ける」


「ふっふっふ。翼よ、その辺に関してもパパに抜かりないぞ! 今まで翼が産まれながらにして抱え続けてきた先天性の難病については、この私が長年磨き上げてきた《科技術》《創世支援クリエイター》で即時改善可能だ。大船に乗ったつもりで任せると良い!」


「でも、パパ。以前、私が施設に入って間もない頃、その《ちから》は人体への直接的干渉は生命の危険が伴うから、推奨できないとかって、言ってなかった……?」


「――――あの時の私はまだ自分の《ちから》を完全に制御出来ていない未熟者だったからね。大切な実の娘に扱うには、危険過ぎると判断したんだ……。長い間、苦しい思いをさせて本当にごめんな。だが、今の私は《科技術特区》の最高機関の一角を担うまでの立派な《術者マグス》となった。だから、もう何も心配いらないよ。翼の願いはパパが全力で叶えてやる」


 奏夜は自分の可愛い娘である翼の頭をそっと撫でながら、父親らしく優しく微笑んだ。


 翼もそんな父親の温もりに当てられてか、今までに感じてきた心の葛藤を思い出し、胸の奥から熱い感情が勢いよく込み上げてきた。


「――――じゃあ、これからは私、施設の外に出ても平気なの……?」


 翼は肩をわなわなと震わせながらも、喉の奥から声を絞り出すようにして奏夜に問い掛ける。


「あぁ」


「――――たくさん、お友だちとか作って、追い駆けっことかしちゃっても良いのかな……?」


「あぁ」


 療養施設に入ってから絵本だけが心の支えとなっていた翼の脳裏に長い間夢に見ていた笑い声の絶えない眩しい光景がそっと浮かび上がる。


「――――こんな病弱で臆病な私だけど、病気が治ったら、ちゃんと誰かの役に立てるかな……?」


 この世界に産まれてきてからというもの、先天性のダウン症に見舞われて、いつも誰かの足を引っ張ることしか出来なかった、酷く惨めで無価値だった私……。

「あぁ、翼ならなんだってやれるとも。私の自慢の娘だ、もっと胸を張って生きろ!」


 ――――そうか、私は今日をもって、変われるんだ。なりたかった、自分に。


 翼の眼の前には頼もしくも心強い実の父親の姿がある。


 ――――私は今まで独りなんだ、と勘違いをしていた。


 私がこの難病に対してどうしようもない葛藤を抱えていたのと同様に、父である奏夜も私のことを考えて、心配して、頭を抱えながら葛藤してくれていたんだ……。


 私の看病に来れなかった間も、《天使》の研究に打ち込みながら、自身の《科技術》《創世支援クリエイター》の熟練度を向上させ、私の難病を改善するための《術》を見出そうと、見えないところで真剣になって、全身全霊で取り組んでくれていたんだ。


 ――――こんなに、嬉しいと感じた日は他にない。


 ――――父親の娘を思う懸命な行動は『誰かのために身を捧げる』私の憧れた《天使》様、そのものだった。


 ――――私は、今日この時に感じた気持ちを決して忘れない。

 そして、私がまず最初に『誰かのために身を捧げる』とするならば、その『誰か』を指し示す相手は――――もう、決まっている。


「――――うん。パパ、ありがと。私、強くなるね。そして、今度は必ずパパの役に立ってみせる。だから、自分のためって、いうのもちょっとあるけど《協力者》の話、喜んで受け入れるよ」


 そうして、私は父親である霧雨奏夜に連れられて、長い闘病生活を過ごしてきた療養施設を離れた。


 新しく出迎えられた施設は妙な鉄臭さと科学薬品の独特な臭いが鼻腔を刺激する――――如何にも、研究機関といった感じの施設だった。


 私が施設に足を踏み入れるなり、《科技術特区》の最高機関である父の娘ということで、大勢の科学術者たちに囲まれて盛大な歓迎を受けた。


 そこには、私と同年代と思わしき小柄な少女たちも白衣に身に纏い、科学術者のなかに混じっていたが、彼女たちも友好的に私の傍まで駆け寄ってきて、他愛もない話をしながら優しく迎え入れてくれた。




 ――――ここから、私は始めるんだ!



 

 研究機関に身元を移して翼がそう決意を固めてから半年後、奏夜の《創世支援クリエイター》による《人体改造手術》は執り行われた。


 その時の《人体改造手術》は当初の予定から様々な変更と改善が施され、奏夜を含めた《科技術特区》の最高機関を担う三人の科技術者が携わる形となった。


 当初の予定では被験者は一人とのことだったが、最高機関の意向により、被験者は科技術者一人に対して一人の少女が宛がわれた――――つまり、私を含めて三人の少女が今回の《人体改造手術》の被験者となったのだ。


 そして、少女たちはそれぞれに腕を通して麻酔薬を注入され、次第に意識を闇の底へと沈めていく。

不思議と不安はなかった。だって、絶対的信頼を寄せる実の父親が私を変えてくれるのだから――――。


 意識が次第に薄れていくなか、眼を閉じる最後の瞬間まで、翼は父親である奏夜の姿をじっと見詰めていた。


 そんななか――――翼は唐突にふと妙な違和感を覚える。


 掠れ行く視界のなか、翼が最後に見た奏夜の瞳は――――血走ったような真っ赤な紅色に染まっていた。




 だが、翼がその微妙な変化に気付くには――――あまりにも、遅過ぎた。




「ヒヒッ! おやすみ、我が親愛なる娘たちよ。今度目覚める頃にはオマエ等の望んだ通り――――《深淵の闇》に支配された素敵な《人工天使》様に生まれ変わってるだろうゼェ?」



 ――――某日。当時の誘発的事件は、《科技術特区》内に留まらず、大陸全土を大きく震撼させた。


 奏夜を含めた《科技術特区》の最高機関に席を置いていた三人が施した《人体改造手術》は研究施設の科学術者たちが当初掲げていた《救済》という《研究議題テーマ》とは真逆の形で遂行されることとなり、同時に《科技術特区最大最悪の事件》として大陸全土に大きく報道された。


 研究施設は大爆発を起こしたとして、一夜の間に木端微塵とも呼べる程に全壊し、《科技術特区》の要だった最高機関三人の安否も確認することができなかった。


 多くの犠牲者が出た、この事件での生存者は――――科技術者、たったの一名のみ。

 


 ――――霧雨奏夜。霧雨翼。この二人は現在でさえも行方不明者として、取り扱われている。


  そして、《天使》の存在を嗅ぎ付けた霧雨奏夜は今宵、アルデュイナ魔術学院が統括する魔術街クエルフに忽然と姿を現した。


 その傍らにいた少女は今では見る影もないが、全ての感情を失い、かつて病弱で臆病な自分を疎ましく思っていた《天使》という遠い存在に想いを馳せていた一人の少女――――奏夜の実の娘『霧雨翼』。









現在名を――――『コードネーム・TOD-Ⅲ』と呼んだ。








今回のお話は、どうでしたでしょうか?

「奏夜」のだらしなく無精髭を生やしたクレイジーサイコパスな霧のおじさん、みたいなイメージは少しでも払拭できたでしょうか?(笑)


「とある少女」の正体は――――なんと、素性などが今まで一切謎に包まれていた「TOD-Ⅲ」なのでした!

(読者の皆様、大体予想はついていたかもしれませんが(汗))


前回、リンネの視点で書かせて頂いた話にも出てきた「深淵の闇」に関するお話と絡めて楽しんで頂ければ、と思いますが、「TOD-Ⅲ」こと「霧雨 翼」は実は感情豊かで健気可愛い娘なんです!


と、まぁ、私が暴走して変なことを口走ってしまう前に、後書きの締めに入らせて頂きます。

そろそろ終盤に差し迫ってきた本作品ですが、多くの方に支えられながら、ここまで連載させて頂けていることに感謝を申し上げます。


次回の更新は10月12日(水)0時を予定してさせて頂いてますので、次週もお楽しみに!

ツイッタ―では、簡単なイラストではありますが、載せさせて頂いたりもしていますので、日頃の活動模様も含めて楽しんで頂ければと思います。

ツイッタ―での絡みも全然気にしないので、気軽に感想やご意見、評価など頂ければ幸いです♪♪


それでは、また次週お会いしましょう!\(^o^)/




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