第四章「天使創造計画」 9
TODⅢは、そう言葉を発すると、椎名の眼前まで移動して『破壊』を纏った右腕を大きく振りかぶった。
――――だが、その振り上げられた右腕は一向に振り下ろされることなく、椎名の頭上でぴたりと静止すると、硬直してしまったかのように途端に動かなくなる。
「……これは、一体……!?」
TODⅢが予想外の出来事に無表情ながらも疑問符を浮かべるなか――――椎名は、この瞬間をずっと狙っていたかのように右手で握っていた拳銃の銃口をTODⅢの足元に向けていた。
その銃口の先には、設置型と思われる透明な色をした『魔弾』の痕跡が一つ残されている。
「無色の魔弾、我が望みに応え、在るべき姿へと変貌せよ! 転化!」
TODⅢが右腕を振り下ろそうとした、間一髪の瞬間―――椎名が呪文を詠唱すると、その『無色の魔弾』は呼応するかのように振動し、その姿を鮮やかな紫色に染め上げた。
そして、思わず目を覆ってしまう程の物凄い光量を放出し始めたかと思うと、TODⅢの自由を奪うかのように闇色の蔦が手足に絡みつき、その身体を静かに蝕んでいく。
「ふっ……肉を切って骨を断つ、だ。自分の『術』に絶対的な自信を誇る貴様なら、私が不意の攻撃で負傷した場合、『勝利』を確信して隙を見せてくれるだろう、と思ったよ。先程は散々言いたい放題言ってくれたが、どうやら、己の『術』を過信していたのは貴様の方だったようだな」
「不覚……ですが、このような拘束ごとき、私の『破壊』を持ってすれば造作も……」
TODⅢがそう言い掛けて、『破壊』の能力を発動させようとした、その瞬間――――ほぼ同時のタイミングで椎名はもう一つの仕掛けを発動させる。
TODⅢの背後――――椎名の対角線上に位置する大木に埋め込まれた設置型の『緑の魔弾』は呼応するかのように輝き放つと、TODⅢの厚い鎧に包まれた身体を瞬間的な速度で貫いた。
「……ぐ、あぁ……!」
意表を突かれて傷を負ったTODⅢは無抵抗のまま、だらしなくその場に倒れ込む。
椎名は負傷した脇腹を押さえながら立ち上がると、力なく地面に頭を着け、次第に呼吸が激しく乱れていく彼女の姿を見下ろしながら、そっと拳銃の引き金に指を掛ける。
「さて、形勢逆転だ……そろそろこの狩りも終わりにするとしよう」
椎名は銃の照準を敵の頭部に合わせて、酷く冷めた表情で淡泊にそう呟くと、『容赦』という言葉が似つかない程に躊躇なく、まるで手馴れているかのようにあっさりと引き金に掛けた指を後ろに引いた。
夕刻を過ぎる頃。薄暗く物静かな森の中にけたたましい発砲音が三度響き渡った。
しかし、その次の瞬間――――一滴として、鮮血が周囲を染めることはなかった。
これは射程距離に問題がある訳もなく、狙いを故意に外したという訳でもない。
だが、負傷してその場から動けないでいたはずのTODⅢは忽然と姿を消し、射出された三発の魔弾はいずれも何かに弾き飛ばされたかのようにその場に散乱して転がっていた。
そして、気が付けばいつの間にか、森の中は人の気配一つ感じることのないいつも通りの静寂さを取り戻していたのだった。
◇
「焔刀散ノ相! 俊足の刃、《散桜華》!」
「主を守護しろ! 《絶対防壁》!」
対峙する時雨と奏夜――――二人の攻防は激しさを増していた。
時雨は素早い剣捌きで怒涛の連撃を仕掛けに出るが、その全てが虚しくも《絶対防壁》の厚い防護壁によって阻まれてしまう。
すると、今度は奏夜が時雨の連撃の隙を見て《霧太刀》を透かさず振り回し反撃を仕掛ける。
圧倒的な破壊力を持って繰り出される《霧太刀》の暴れ狂うような連続攻撃。
時雨はそれを一つ一つ焔刀で上手く横に流して回避すると、一度間合いを取るために地面を強く蹴って後退する。
「ヒヒッ! その程度の《術》じゃ、オレの《絶対防壁》には傷一つ付けられネェよ。いい加減諦めて、そこの天使を俺に渡したらどうだ?」
「はんっ! 生憎だが、俺の頭の中にその選択肢はないんでね!」
「そうか……なら、仕方ネェな。天使が見守るこの場所で――――無様な死を晒セェ! 《霧太刀・獄門》!」
第四章も後少しのところまで迫ってきましたので、次の更新は修正ということで、「第四章「天使創造計画」9」の末端から追記という形で更新をさせて頂きます!
(章の分割が多くなり過ぎると、何かと読みづらくなってしまうかもしれませんので、このような処置を取らせて頂きます)
最近では、更新日が不安定になりがちになっております本作品ですが、まだまだ書いていきたい話が沢山ありますので、お付き合い頂ければ嬉しいです。
(完全に廃止させるようなことは万に一つも考えておりませんので、連載を楽しみにしてくれている方々はどうか安心して「時雨」たちの今後を見守って頂けると幸いです♪)
次回の更新は、来週を目途に予定していますので、何卒「私」と「私の作品」を今後ともよろしくお願いします!




