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天使と術者の永遠機構(リンネシオン) ~運命をもたらす天使巫女~  作者: もふもふ(シノ)
第一幕 「運命をもたらす天使巫女」
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第四章「天使創造計画」 4

 アグニの誘導に従いながら幾度となく立ち塞がる濃霧を薙ぎ払い、しばらく魔術街を疾走すること十分程度が経過した。


 目的地である噴水広場が近いのか、先程よりもアグニによる探知も段々と鮮明になり、『フェリシダ・アーチェ』を出た地点に比べて結界による霧の濃度が薄まっているように感じる。


 それはおそらく単純に目的地が近いことだけでなく、結界の大元である中枢部が近いことも同時に意味していた。


つまり――――



「アグニ、ここまで二人の気配を辿ってみてどう思う?」


「そうですね……今、我が主が想像した通りの状況で間違いはないと思われます。エレナ様もリンネ様もこの結界の中枢部――――すなわち、噴水広場にまだ取り残されているとみて、まず間違いないでしょう」


「そうか……二人とも、この事件の首謀者と接触している可能性が高い……急がないと!」


 時雨が感じていた異様な胸騒ぎは自分の思いとは裏腹に現実のものとなってしまった。


 この騒動を起こした人物がどんな輩であれ、二人に危害を加えようものなら時雨も黙ってはいない。

 二人の安否が一層危ぶまれるなか、時雨は不安に焦る気持ちを抑えながら更に速度を上げて地を駆ける。


 そして、空気中に漂っていた霧が辺りを軽く視認できる程度にまで薄れていくと、視界の先に複数の人影のような黒いシルエットが浮かび上がってきた。


 よく目を凝らしてみると、その人影は全部で三つある。


 二つの影は距離を詰め合いながら肉薄しているのか、時々小さな火花のようなものがカチカチと点滅を繰り返しているようだ。


 しかし、もう一つの影は少し離れた場所で倒れ込むような姿勢を取っているのか、微動だにしていない様子が窺える。それに加えて、ここ周辺の空気に肌が触れた瞬間、僅かではあるが、全身を麻痺させるようなピリピリとした刺激が手や足などの肌を通して伝わってきた。


(……これはまさか、毒性の霧か!)


 悪い予感を覚えた時雨は焦燥感と共に颯爽とその人影の側へと近づいていく。


 そして、靄が取り払われた視界に飛び込んできた光景には――――


「おいっ! エレナ大丈夫か、しっかりしろ!」


 紛れもない昔馴染みである影居エレナの衰弱した姿があった。


 呼吸は荒く乱れ、体は少し熱っぽく、額には大量の汗が滲んでいる。


 少し離れた場所では、口角を釣り上げて怪しげに嗤う白衣を身に纏った無精髭の男と式札を手にしたリンネが火花を散らしながら交戦中だったが、そちらも苦戦を強いられているようでリンネの表情に余裕はなく、体力の消耗が激しいのか息も上がっていて戦況はあまり芳しくなさそうだ。


 時雨が重症を負ったエレナの肩を抱いて懸命に呼び掛けると、エレナは苦しそうに顔を歪めながら静かに目を開いた。


「あ、あれ……? シ……グレ、おか……えり」


「こんな時にまでふざけてる場合か! とにかくひどい状態だ。今すぐ手当するから、少し待ってろ」


「……やははは。シグレってば、大袈裟だよ……私なら平気だから、それよりもリンネを助けてあげて……」


 衰退したエレナの様子から毒を長時間体内に取り込んだのは間違いない。


 エレナだって、本当は自分が大丈夫であるはずがないのは分かっているはずだ。


 きっと、強がっているだけで無理をしているに違いない。


 幼い頃からずっと行動を共にしていた友人の考えなど、時雨が分からない訳はない。


 しかし、彼女はいつも通りの笑顔を精一杯浮かべようとしながら、時雨に対して必死に訴え掛けている。


 普段のエレナなら、きっと『付きっきりで看病してくれないと嫌だ~!』と、駄々を捏ねるように時雨を引き止めて、決して自分の側から離しはしないだろう。


 だが、エレナもまた時雨が衰弱しきった友人を見てそのまま放って置くことが出来ない性分であることを十分に理解している。


 だからこそ、誠心誠意自分の言葉や態度で時雨の背中を押そうとしてくれているのだ。


 弱々しくも時雨のことを真剣に見詰めるエレナの瞳には『信頼』や『信念』といった力強い感情が篭っているように見えた。


 そんなエレナの姿に時雨は覚悟を決めて簡易的な処置ではあるが、懐から治療用の核術鉱石を取り出し、それをエレナの掌に乗せてそっと握らせる。


 時雨がリンネと出逢った日の午後に受諾していた依頼任務先から報酬として受け取っていたものだが、それなりに値打ちのする治療用の核術鉱石だ。握っているだけでも状態異常や疲労回復の効果は十分に期待できるだろう。


 最後に時雨は学院指定の上着を脱いで硬い地面にエレナの頭が着かないよう丁寧に折り畳んだ制服を頭の下に敷き、エレナの眼をしっかりと見据える。


「必ず後でちゃんと学院の治療室に連れて行ってやるからな。少しの間、待っていてくれ」


 時雨がそう告げると、エレナは安心したように微笑んで掌に握りしめた核術鉱石を胸元にそっと当てて静かに目を瞑った。



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