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天使と術者の永遠機構(リンネシオン) ~運命をもたらす天使巫女~  作者: もふもふ(シノ)
第一幕 「運命をもたらす天使巫女」
19/44

第三章「魔術街」 9

――――あれから数十分後。


 時刻は午後の四時を過ぎ、リンネとエレナの二人は噴水広場のベンチでまだ食べ掛けだったクレープを片手に女だけのガールズトーク(反省会を含む)を繰り広げていた。


 構図としては、悪いことを仕出かした子ども(エレナ)を注意するリンネと言った感じだろうか。


 エレナが笑って誤魔化そうとすると、それをリンネは口を尖らせて叱咤する。


 肝心の時雨はというと、リンネの献身的な介抱もあって割かしすぐに意識を取り戻したが、半ば強引に食べさせられたクレープの威力が本人の想像を遥かに超えていたこともあり、未だ喉に残る強烈な感覚を払拭するべく、ひとまず飲み物を買いに行くとのことで一時的にこの場から姿を消していた。


「あははは……まさかクレープ一つで卒倒するなんて思わなかったよ。……だって、ほら! ワタシは現にこうしてピンピンとしてる訳だし、何も問題ないはずなんだよ……?」


「いいえ! エレナは極度の味覚音痴……いえ、常人を遥かに越えた味覚と胃袋を持ち合わせているからこそ平気なだけなんですよ。なにより、やり方が強引すぎます! 少しは反省してください」


「あはは……わ、ワタシはちょっぴりお茶目な肉食系女子なだけだよ! 時雨もきっと分かってくれるよ……て、うん? あれ? 今さりげなく味覚音痴って単語が聞こえた気がしたのはワタシの気のせいかな!?」


「味覚音痴だなんて、言ってないですよ……多分」


「いやいや、多分って誤魔化してる辺りでもう確実に言ってるよね!? 今思ったんだけど、常人を遥かに越えた味覚と胃袋って時点でもう遠回しに言い直してる感じだよね!?」


 それに対して、『さて、なんのことでしょう』と眼を逸らし惚けるリンネ。


「エレナこそ肉食系女子なんて自己主張で誤魔化してないで、今回の件に関してはきちんと行動を改めてください。他人を気絶させておいて反省の色が全く感じられないです」


 強く指摘されたことで『ぐっ!?』と言葉に詰まったエレナがまた笑って誤魔化そうとするので、リンネは眼を鋭く光らせて睨みを利かせるように釘を刺した。


(……まったく、これでどうして時雨も怒らないんでしょうか?)


 リンネは時雨が走って行った方角、今日廻り歩いた魔術街の通りに視線を向けると溜息を一つ吐いてから胸中で囁く。


 お互いに信頼し合っている関係だから……。


 自分よりも長い時間を彼と一緒に過ごしてきたから……。


 そう言ってしまえば、それまでかもしれない。


 だが、リンネの胸の内ではもやもやとした感情が込み上げていた。


 遠い過去の思い出――――その様子がリンネの脳裏をふと過ぎる。


(……まぁ、共有されていた時間を現在いま気にしても仕方ないことですね)


 自分の手に握られたクレープに視線を落としていると、リンネは肩をちょんちょんと指で突かれる感覚と共に我に返る。


 気付けばエレナが間隔を詰めてこちらを心配そうに見詰めていた。


「リンネ、大丈夫? なんだか物憂げな顔してたけど、そんなにワタシの事で悩ませちゃったかな?」


「あっ、いえいえ、別になんでもないですよ! ……少し考え事をしていただけです。エレナの件に関しては絶賛頭を悩ませ中ですが、もう気にしていませんから安心して下さい」


「そっかぁ~。なら、良かった……って、あれ? 今、絶賛お悩み中って言ったよね? それ、まだ思いっきり気にしてるタイプのやつだよね?」


 エレナは安堵したのも束の間、ふいに疑問が脳裏を過ぎると慌てた形相を浮かべる。


 リンネがそれに対して『そうかもしれないですね』と軽く一言だけ返すと、エレナは両手で頭を抱えながら葛藤した様子で悲痛な叫び声を上げていた。


 それはそれ。これはこれ。


 急に暗い顔をし始めたところを気に掛けてくれたエレナの優しさは正直に嬉しくはあったが、時雨を強引な手段で気絶に追い込んでしまった件に関する反省についてはまた違う話なのである。


(エレナにはしっかりと反省をしてもらわなければ……)


 リンネがそんなことを考えていると、先程まで隣で頭を抱えながら叫んでいたはずのエレナが急にぱたりと大人しくなり、右手に握られたクレープを神妙な趣で見詰めていた。


 それは先程までの無駄に明るい彼女の姿ではなく、柄でもないと言うべきか妙に真剣な眼をしていてリンネは只ならぬ空気に少し動揺してしまう。


 そして、エレナは視線を真っ直ぐリンネへと移すと、ゆっくりと口を開いた。


「ねぇ、唐突にと思うかもだけど……リンネはさ、天使……なんだよね?」


「……やっぱり、聞かれていたんですね。あの教室での私と時雨の会話」


「私も別にそんなつもりで影に潜んでた訳じゃないんだけどね。ただ、やっぱり聞いちゃった以上、自分の中で色々と整理したいこともあるし……それにどうしても確認しておきたいんだ」


「何を……ですか?」


「リンネって……」


 エレナは途中で多少言いよどみながらも、その後で何かを覚悟するかのように息を呑んで言葉を続ける。


「昔、私たちと会ったことあるよね?」


 エレナの衝撃的な問いに一瞬驚いた様子を見せたリンネの思考回路が一時的に停止する。


 彼女は今、何を言ったのか……。


 リンネは冷静になってエレナの発言の意図を考える。


 そして、顔を俯かせながら質問を質問で返すという形で言葉を返した。


「……なぜ、そう思うんですか?」


「いや~、これと言った確信はないんだけどね……なんとなく、かな。シグレとリンネの話を聞いてて、私もシグレと同じ既視感というか、ちょっと心に引っ掛かるところがあってさ。もしかしたら、どこかで出会ったことがあったんじゃないか。そう思ったんだよ」


 慎重に尋ねるリンネに対してエレナは意外とあっさりに自分の思いの内を吐露した。


 リンネはその声を聞き、自分自身の感情を抑えるようにして目を伏せる。


「……エレナも聞いていたのなら、わかっているはずです。それは何かの勘違い、もしくは似た誰かとの記憶を混濁してしまっているに過ぎないと思いますよ」


「う~ん。たしかにリンネの言うことも間違いじゃないのかもしれないけど……でも、ワタシとしては正直それで納得はできないって感じなんだよね。ワタシだけならともかく、シグレも同じことを思ったのなら尚の事だよ」


 エレナは時雨と幼い頃から兄妹のように行動を共にしてきた。


 時雨と出会って以来、一緒に居なかった時間の方が短いのではないか。そう思えてしまう程に時雨とエレナはいつも一緒だった。


 だから、リンネの仮説が正しいとして、その別人の面影を時同じくして目撃していただけというのも頷けない話ではない。


 ただ、妙に心がざわつく――――この気持ちをそんな勘違いで済ませてはいけないのではないか、とエレナは直感的にそう感じていた。きっと時雨も例外ではないだろう。


『自分の感じたままに行動する』それが影居エレナという人物を形作る象徴であり、彼女の信条でもある。


 エレナは解答の得られない疑問を取り敢えず頭の中で保留にすると、話題を変えて一番確認しておきたかった事項をリンネに尋ねてみた。


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