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天使と術者の永遠機構(リンネシオン) ~運命をもたらす天使巫女~  作者: もふもふ(シノ)
第一幕 「運命をもたらす天使巫女」
16/44

第三章「魔術街」 6

「シグレ~、もういいよ!」


 しばらくしてエレナから合図が掛かり、時雨は『待ってました!』と言わんばかりに期待に胸を膨らませ振り返る。


 すると、そこには――――


「ど、どうですか、時雨? その……似合ってますか?」


 ……て、天使だ! まさに目の前に天使がいる!


「あぁ……すごく似合ってる。正直、見惚れるくらい可愛い」


「……えっ!? あ、あの……。そ、そうですか? お褒めの言葉誠にありがとうございます!」


 時雨の素直な感想にリンネは沸騰したかのように顔を真っ赤に染めた。


動揺しているのか、なぜか片言のように敬語を話し、ぺこりと頭を下げる姿がまた異様に可愛いらしい。


 前髪に添えられた白い片翼の髪飾りは、時雨のイメージした以上にリンネの空色の髪に映えていて、実際にこうしてその姿を拝めたことに時雨は胸中で感謝の意を唱えた。


(いやぁ、言ってみるもんだな。今のうちにしっかり眼に焼き付けておこう!)


「あの……そんなに見詰められると、ちょっと恥ずかしいです……」


 時雨の熱い視線にリンネがもじもじと落ち着かない様子でいると―――


「シグレ~♪ リンネも困ってるよ……その辺にしとこう、ね?」


 エレナは笑顔を浮かべながら、すごい剣幕で握力を発揮して時雨の肩を掴んだ。


「え? でも、エレナもすごく可愛いと思わ……って、いたたたたたたっ!」


 時雨が尋ねようとすると、それを言い終える前にエレナは顔色一つ変えない様子で込めていた握力を一層強めた。時雨は突然感じた刺激に反射的に体を捻じる。肩からは地味にゴリゴリと嫌な音が鳴り始め、相当な力が込められていることがわかる。


「そうだねー。確かにすごく似合ってて可愛いよねー。ワタシも驚く程綺麗だなって思うよー。でも、ちょっと過剰に見詰めすぎるのは容認できないよねー」


 ごりごりごりごり。


「わ、わかった、わかった! すんません、鼻の下伸ばしてた俺が悪かったです……ほんと冗談抜きで肩が潰れそうだから勘弁してくれ……」


「ふふ♪ 分かればよろしい♪」


 時雨が渋々謝ると、エレナはいつもの屈託のない笑顔を浮かべて時雨を解放した。


 そして、少し離れた棚に興味を引く物でも見つけたのか、エレナはふらっとそちらに行ってしまった。


「……大丈夫ですか? 時雨」


 髪飾りを外して元の場所に戻したリンネが心配そうに訊いてくる。


「……あぁ、大丈夫だ。予想外の握力の強さにちょっと驚いたけどな。まぁ、長い付き合いだし、こういうこともたまにあるんだ。気にしないでくれ」


「なら……良いんですけど」


「お~い! リンネ、時雨~♪ こっちにも面白いもの見つけたよ!」


 リンネが時雨の言葉にとりあえず納得した様子を見せると、一つ向こう側の陳列棚に移動していたエレナは無邪気に手を振って『早く早く!』と二人に呼び掛けた。


 先程の剣幕はどこへやら、感情の起伏の激しいところは相も変わらずである。

時雨はエレナが笑い掛ける姿を見て、やれやれと呆れながらも、その笑顔に応えるようにできる限りの笑顔を浮かべて言葉を返した。


「おう、今行くからな! 面白くなかったら、デコピン一回だぞ」


「ふふん♪ 望むところだよ、シグレ。かかってきんしゃい!」


 エレナは上機嫌そうに答えると、『自信アリ!』といった様子で胸を張る。


 対して時雨は『それは楽しみだ』という挑戦的な視線をエレナに向けて、胸の内を高ぶらせた。


 端から見ればごくごくありふれた日常の風景。


 だが、時雨は心の底からこの暖かな時間を楽しいと感じていた。


 それをリンネにも共有してもらいたい。


 時雨はそう思い、隣でちょこんと立ち並ぶリンネの頭の上にそっと手を乗せる。


「もし面白くなかったら、リンネも一緒にデコピンしてやろうな」


 突然、頭の上に手を置かれて驚いたのか、リンネは僅かに身体をびくっと強張らせた。


「……はい、そうですね。強烈なのお見舞いしてあげましょう」


 リンネは右手で小さくデコピンの形を作って、その場でぴしっと弾いて見せた。


「はは、そうだな」


 時雨がそんなリンネの素振りに微笑ましく頬を緩めると、リンネもこちらに視線を合わせて笑顔を浮かべてくれる。


この瞬間、時雨の心は暖かな気持ちで満ち溢れていた。


 ただそれは自分が単純なだけで、少しオーバーに感じているに過ぎないのかもしれない。


 互いにからかい、からかわれ、何気ないやり取りの中で人との繋がりを感じ、高揚していく胸の内の感情。人の温もりに触れて心から幸せだと感じられること。

そんな当たり前な気持ちが今の時雨にとっては、とても心地の良いものだった。


(……リンネもそう思ってくれていたら良いな)






 ―――――だが、この時―――――時雨は気付くことが出来なかった。


 空色の髪の少女が浮かべていた笑顔――――その裏では複雑な心が渦巻いていたことに。


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