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ニート転生

作者: Kulfu(クルフ)

 自己紹介をしよう。俺は、東京都に住んでいる、二十歳のニートだ。

 住んでいると言っても、何しろ俺はニートなので、もちろん住んでいる場所は実家である。

 更に、ニートと言っても俺の場合はちょっと特殊な期限付きのニートで、あと二年しかニートでいられない。なぜかと言うと、俺は両親に「自宅大学に通っている」という超利己的な理由付けをして家に置いてもらっているからだ。さすがに「自宅大学院に進みたい」とか「自宅(株)に勤める」といった理由付けは通用しないので、俺がニートでいられるのはあと二年なのだ。

 しかし、二年というのは何かをしている人には短いのだろうが、何もしない人には長いもので、実際俺は、今までの二年間を「退屈だな」と毎日のように感じながら生きてきた。一応ニートらしく――と言ったら色々失礼な気もするが――ゲームをしたり、ネットをしたりしてきたが、どうにもしっくりこないのだ。ゲームは、買った初日はもちろん、やり込むまでの一ヶ月二ヶ月は楽しくて、そのゲームをやるために生きているような感覚に陥るのだが、いざ三ヶ月四ヶ月と遊んでみると、虚しさが溢れてくる。ネットは、毎日新しいものが加わってくるので飽きはしないのだが、六畳一間にあるパソコンに向かったまま味わう「新しい」は、この世の中の流れに置いていかれたような感じがして、辛い。

 自宅大学に通い初めて今がちょうど折り返し地点なわけだが、今の心境をはっきり言おう。

 

 こんな大学、入るんじゃなかった――

 

 ――ピンポーン!

 玄関のチャイムが鳴る音がした。俺はすぐさま右足で床を三回蹴り、「母ちゃん、玄関出て」と怒鳴った。

 一階の玄関で若干の話し声がした後、母ちゃんが階段を登ってきて、俺の部屋を開けた。

「あんた、また何か買ったの?」

「自分のお金だよ。いいからそこ置いといて」

「何で支払いしたの?」

「ネットバンキングで払ったんだって。いいから早くそこ置いて、出てって」

 俺はパソコンに向かったままで、扉の方に背を向けていたので、母ちゃんがどんな表情をしていたかは分からなかったが、とにかく母ちゃんはダンボールを置いて出ていった。

 中身は大体予想がついたが、開けるのはやはりワクワクする。机のペン立てからカッターを抜き取り、そのカッターで綺麗にダンボールを開けた。

 中に入っていたのは……ゲームソフト「マジックシェイプサーガ」

 携帯ゲーム機で遊ぶ、RPGゲームだ。今日が発売日で、ネットで予約していたものだった。

 先程、ゲームは飽きるとか言った気もするが、やはりこのプレイ初日の興奮は何ものにも代えがたい快感で、これからこれを遊び倒すのかと思うと、あと二年しかニート生活が残ってないことなど、どうでもいいことに思えてきた。

 俺は机に行って、引き出しから二つ折りになっているゲーム機を取り出すと、またダンボールの所に戻り、ゲームのケースを開け、中に入っているカードタイプのソフトをゲーム機に差し込んだ――



 あれから一ヶ月。

 ストーリーを全クリし、レベルをMAXの99にした俺は、まだ手に入れていない装備集めをしていた。パソコンの画面上で、このゲーム攻略サイトを開きながらの作業なので、至って簡単だった。

 あらかた装備を集め終わり、あと残すは二、三個となった時、俺はキャラを道の真中に立ち止まらせた。そして、視点カメラをグルグルさせながら、その主人公の全身を眺めた。

 いやぁ、実に圧巻だった。

 顔は元から決まっているので、自分でいじることはできないのだが、なぜかデフォルトの顔より凛々しく感じられ、体に纏っている装備は、このゲーム上で最強のものを纏っているので、最高にかっこ良かった。

 と言うか、このキャラクターのデザインがどうとか以前に、このキャラのオーラが凄かった。自信が満ち溢れているというか、希望に輝いているというか……

 ラノベなんかでよく、ゲームの中の主人公に「転生」なんて話がよくあるが、俺がもし転生するのならこのキャラがいいな……


 そう思った瞬間、俺の周りのものがグワンッと歪んだ。色も変わり、なんだか青っぽい世界になった。そして俺の目の前には、急に大きな黒い穴が生まれ、その中に周りの何もかもが吸い込まれていった。パソコンなどはとっくに吸い込まれていて、重いタンスやベッドなんかも吸い込まれていった。自分の体も引っ張られている。揺れている。

 しかし、何が起きているのが全然検討もつかないというわけではなく、俺は意外にも、これが噂に聞く「転生」なのかとワクワクしていた。

 だから俺は、敢えて黒い穴の吸引力に逆らおうとせず、大人しく吸い込まれた――



 目を覚ました俺は、ベッドに寝ていた。

 天井は、ログハウスのように丸太で出来ていて、壁もそれと同様だった。

 奥の壁には、小さな窓が二個あって、それには白いカーテンが掛かっていた。

 どこかで見た風景だな……としばらく考えた後、あっと思い出した。

 そうだ、ここは「マジックシェイプサーガ」の主人公の部屋にそっくりなのだ。そっくりと言うか、そのまんまと言う可能性もあるんでは――と期待した時、ふと自分の遥か真上に誰かの視線を感じた。

 上を見上げた俺は、思わず「えっ……」と言ってしまった。

 なんと俺の真上は、さっきまであったはずの天井がなくなっていて、そして空が見えていて、更にその空の中には、黒で四角く縁取りされた場所があり、その中には空は無く、代わりに小学生くらいの少年の巨大な顔があったのだ。

 なんなんだ、これは……。

 一瞬どころではなく、二瞬三瞬は戸惑ったが、さすが今まで数々のゲームをやってきただけあって、状況を把握するのは早かった。

 俺はゲームの世界に転生したのだ。それも、俺が今一番ハマっていた「マジックシェイプサーガ」の主人公に。

 空の中にある黒い四角い枠は、恐らくゲーム画面だろう。そしてその中からこちらを覗きこんでいる巨大な少年は、今このゲームをプレイしているプレイヤーだろう。

 願いが叶ったのだ。どこかのラノベの主人公のように、ゲームの主人公に転生して、これから剣と魔法の世界での素晴らしい冒険が待っているのだ。

 いきなり、俺の目の前にメニューが表示された。俺は取り敢えず今の自分の強さが知りたいと思い、ステータスのボタンをタッチした。

 そして、そこに表示された数値を見て、俺は歓喜した。

 レベル99――

 次いでに装備も確認すると、俺が転生前に遊んでいた自分のゲームのデータそのまんまで、俺は早速初期装備から最強装備に付け替えた。

 その時だった。頭上で大きな声がしたのだ。

「おかーさーん、このゲームバグってるー」

「初めからレベルが99だし、勝手に動くし」

 え、ちょっと待ってくれ。それは俺が転生してきたからで……

「壊れちゃってるのー? じゃあ今から買ったお店に行っこか」

 多分お母さんであろう女性の声が遠くでした。

「分かったー。あーあーマジ最悪。早く遊びたかったのにー」

 男の子がそう言ったかと思うと、上空にあった黒い枠が消えた。

 それと同時に、俺は指一本動かせなくなった――


 

 あれから一、二時間経ち、ようやく再び上空に黒い枠が現れた。

 俺が凝ってしまった体を伸ばし、ストレッチをしていると、その枠から知らないおじさんが覗きこんできた。また、俺の目の前にメニューが表示された。

「あーこれはバグですね。今すぐ代えのソフトをお持ちしますので、それと交換というかたちでよろしいでしょうか」「はい」

 おじさんはそう言い、枠から消えた。

「はい、こちらが代えの商品です。よろしいですか。本当にすいません、また何かありましたら当店へお持ち下さい」「ありがとうございます」

 この会話の後、上空の黒い画面は消えた。

 それから長いこと枠は現れなかった。そして、とうとう枠が現れないまま、この世界が消えた――




転生、をテーマとした作品がこのサイトには多いので、自分もその流れに乗ろうと思い書きました。

どんなものでもいいので、感想くれたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  皮肉の効いたいいオチでした。  最近このサイトで活動し始めたため、あまり流行り物に詳しくはないのですが、ランキングを見ると、やはり転生物っていうのは流行りまくってるみたいですねー。  こ…
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